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焦点:躍進する現代自動車、ブランド改革に死角はあるか
2012年4月12日 / 04:07 / 6年前

焦点:躍進する現代自動車、ブランド改革に死角はあるか

[ソウル/デトロイト 10日 ロイター] 韓国・現代自動車(005380.KS)のある男性販売ディーラーは最近、ソウル市内の高級ショッピングエリアにあるサロンで300ドルかけて髪を切り、一泊1000ドルする5つ星の高級ホテルに宿泊した。エルメスやカルティエの店舗も訪れ、その間、妻は高級マッサージを受けていたという。それらはすべて、ある目的を背負った調査の一環だった。

4月10日、世界のライバルメーカーから嫉妬される存在となった現代自動車は、多額の資金を投じてデザインやブランド力の向上を目指している。ソウルの販売店で5日撮影(2012年 ロイター/Kim Hong-Ji)

この男性は、現代自動車ディーラーの中から選抜されたチームの一員。高級ブランドのプレミアムサービスを体験し、車の販売にそれをどう応用できるか考える任務を担っている。こうした取り組みは、かつては小型セダン「Accent(アクセント)」が「Accident(アクシデント=事故)」などと揶揄された現代自動車が、品質をめぐる過去の悪評を払しょくし、ブランド力に磨きをかけようとしている姿を映し出す。

約40年前に生産を開始した当時、現代自動車は車体デザインやエンジン、サスペンション、トランスミッション技術に至るまですべてを「借り物」で間に合わせるしかなかった。それが今や、傘下の起亜自動車(000270.KS)と合わせると世界第5位の自動車メーカーに成長し、世界のライバルメーカーからは嫉妬のまなざしを向けられるようにもなった。自動車業界全体が不況にあえぐ中、自国通貨ウォンの下落にも助けられ、現代自動車はスタイリッシュなモデルを手ごろな価格で市場に投入し、時にリスキーとも言える抜け目ない販促キャンペーンに打って出ている。

「現代自動車だから」という理由で同社の高級車を選ぶ消費者はまだ多くないが、現代自動車は多額の資金を投じてデザインやブランド力の向上を目指している。

「サムスンのGaraxyではなく、アップルのiPhoneのような評価を得たい」。こう語るのは、現代自動車で国内マーケティング・グループを統括するシニア・バイスプレジデントのSean Kim氏。「現代自動車が安い車を作っているというイメージを払しょくしたい。フォルクスワーゲンも大衆車メーカーだが、値段はわれわれより10─20%高い」とし、同社が目指す方向もそうしたプレミアムカーメーカーだと述べた。

<価格以上>

1カ月に平均10台を売るという前述の男性ディーラーは、高級ブランド体験調査を振り返り、「こうした場所には来たことがなかったが、今はなぜ消費者がここでお金を使いたいのか分かる」と力説。今後は「(自動車販売でも)同じことをする。価格だけではなく、その車の歴史、価値、長所の説明にもっと力を入れる」という。

世界経済が金融危機に見舞われていた2010年、現代自動車は、車の購入から1年以内に失業した人には代金を全額返金するという販促キャンペーンを米国で行い、マスコミに大きく取り上げられた。これが奏功し、大手自動車メーカーのうち、当時の米国で市場シェアを伸ばしたのは同社だけだった。

また、地元韓国では、販売店に独BMW(BMWG.DE)の「5シリーズ」やメルセデス・ベンツの「Eクラス」、レクサスの「ES350」など他社の高級車を用意し、訪れた客に自社モデルと乗り比べてもらうキャンペーンも行った。こうした大胆な賭けは、現代自動車がこれまで得意としてきたやり方だ。

<危険な兆候>

2000年に現代自動車のトップに就いた鄭夢九(チョン・モング)会長は、同社の質への転換を率いてきたことで知られる。

1998年から2003年まで現代自動車の米国部門を率いていたフィンバー・オニール氏は「毎月のミーティングは厳しかった。会長はパフォーマンスを求めていた。品質問題の失敗を報告するのは気が重かった」と振り返る。

現代自動車からコンサルティング会社カーラブに転身した元販売担当役員のボブ・マーティン氏も、鄭会長の品質へのこだわりを間近で見てきた1人だ。「常に品質改善のノルマがあったが、彼は異常なぐらいそれに熱心だった」といい、「製品の品質を改善できないなら、ランチには解雇だ」と言われたエピソードも披露した。

同氏によると、現代自動車が成功した秘訣は、以下の3点に絞られる。1)韓国人は誰よりも働く、2)少ない中間管理職、3)鄭会長。「会長が『これをやる』と言えばやるだけ。コンセンサス経営のトヨタとは違い、現代自動車は電光石火のスピードで動く。会長が『これを目指す』と言えば、それで議論は終了だ」と述べた。

鄭会長は今でも月に2回は、幹部たちと品質に関する会議を行っている。複数の情報筋によれば、会長からは最近、「もう工場を増やす必要はない。(年間)800万台は十分な量だ。これからは質的成長に集中すべきだ」という話があったという。

ソウル市内にある現代自動車本社には、24時間体制の「品質危機管理室」があり、そこには各種問題に関する報告が世界中から集まり、関係各署に情報伝達される。こうした取り組みで、2009/10年に米国で安全問題への対応が遅いと批判され、評判に傷がついたトヨタ自動車(7203.T)の二の舞となるのを防いでいる。

現代自動車の成功の背景には、ウォン安や韓国政府による国内自動車産業の保護政策もある。韓国で販売される自動車の5台に4台は現代か起亜の車であり、外資系メーカーの市場シェアは10%しかない。ただ、外国車の市場シェアは2000年時点の約1%からは伸びており、現代/起亜や他の韓国メーカーにとっては危険な兆候も出ている。

2000年に54%だった現代自動車全体の海外売上高比率は、今では83%にまで拡大。この期間、為替市場ではウォンが3%下落する一方、円は3割近く上昇し、トヨタや日産(7201.T)、ホンダ7237.Tなどの日本勢は逆風にさらされてきた。

<中国の脅威>

現在74歳の鄭会長が海外に行くとき、空港には常に、息子であり副会長である鄭義宣氏が父親を見送る姿がある。41歳の副会長がいずれは同社の舵取りをするようになるとみられるが、その頃には、安価な労働力や割安な通貨、政府の支援など、過去の現代自動車が使っていた武器を手にした中国自動車メーカーの追い上げを受けることになるのは間違いない。

日産の中村史郎チーフクリエイティブオフィサーは、米国の自動車産業や日本のメーカーが経験してきた歴史が、現代自動車にも繰り返される可能性があると述べている。

現代自動車の従業員や元幹部は、息子の義宣氏は今後も、一族経営と専門的経営の融合を続けていくとみている。匿名の幹部は同氏の人物像について、「非常に辛抱強く耳を傾ける人で、粘り強く、自動車ビジネスに深い洞察力がある。業界に20年いる幹部が気付かなかったことを指摘することも多い」と語った。

10年前には国際自動車ショーで自社ブースにさくらを用意するほどだった現代自動車だが、昨年の営業利益率は10.4%と、世界の5大自動車メーカーではトップに立った。営業利益率で現代自動車に勝っているのは11.7%のBMWだけだ。

競合各社は現代自動車の成功に感心と当惑を隠さない。

フォルクスワーゲン(VW)のマルティン・ヴィンターコルンCEOは昨年9月に開催されたフランクフルト自動車ショーで、出展されていた現代自動車「i30」の運転席に座ってハンドルの高低を調節した後、「騒音がまったくない。どうしてこれができるんだ。BMWもわれわれにもできないことだ」と語った。この様子を写した動画はユーチューブ上で話題となり、閲覧回数は170万回を超えた。

<デザインの功罪>

現代自動車の本社では今年2月、幹部が一堂に集められ、2013年後半に発売予定の高級セダン「ジェネシス」新モデルのデザインに関する評価会議が行われた。参加者の1人によると、評価をしやすくするために、新型モデルの隣にはBMWやメルセデスベンツ、アウディが並べられたという。

ある幹部は匿名を条件に「スタイルはこれまでとかなり違う。BMWがこれほど貧相に見えたことはない」と語った。

現代自動車のデザインへの投資は、競合各社の間でもうわさの的だ。

同社は米国デザインセンターの責任者にBMWのデザイナー、クリストファー・チャップマン氏を引き抜き、起亜自動車はフォルクスワーゲン/アウディーからデザイナーのペーター・シュライヤー氏を連れてきた。

日産の中村氏は「正直に言えば、日本メーカーにはもう注意を払っていない。われわれが見ているのは韓国勢と、今はゼネラル・モーター(GM.N)とフォード(F.N)だ」と述べた。

しかし一方で、ライバルメーカーの幹部の中には、現代自動車のデザイン重視の動きに懐疑的な見方もある。大手自動車各社の年次報告書を見てみると、売上高に対する研究開発費の比率は、VWやBMWが5%を超えているのに対し、現代自動車は1.9%にとどまるからだ。

また、現代自動車の積極的なデザイン戦略は顧客の間で評価が割れており、魅力を感じる人と同じぐらい敬遠する人もおり、大量販売には適さないという厳しい声もある。

現代自動車の中型「ソナタ」のデザイン変更は、批評家たち曰く、トヨタの「カムリ」や「カローラ」、ホンダの「アコード」や「シビック」のような販売台数はもたらさない。デザイン的には、カムリは退屈でありきたりと評されることが多いが、それでも米国市場のベストセラー車だ。

現代自動車デザインセンターの責任者Oh Suk-geun氏は、集団から抜け出すためには力強いデザイン発信力が必要だと強調する。「昔は(デザインが)おとなしすぎで、消費者に伝わらなかった。今はわれわれのデザインは『冗舌』と言われる」と語った。

しかし、高級ブランド化の推進は、すべての消費者から支持を得ているわけではない。

ソウル市内で働くビジネスマンの1人は、現代自動車の価格が高いと指摘。BMWの「520D」を運転するこの男性は、値上げは顧客にプレミアムカーだと思わせる手段に過ぎないとし、「現代自動車ブランドには限界がある。たとえプレミアムカーだとしても、やはりそれは現代自動車だ」と語った。

(原文:Alistair Barr記者、翻訳:宮井伸明、編集:橋本俊樹)

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