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コラム:国債にバブルの兆し、警戒必要な「政治ショック」
2012年5月8日 / 06:15 / 6年前

コラム:国債にバブルの兆し、警戒必要な「政治ショック」

田巻 一彦

5月8日、衆院で消費増税関連法案採決が先送りされれば、政治情勢を無視して国債買いを継続することのリスクが増大するだろう。「国債バブル」が膨張したところで、政治的なショックが加わると"想定外"の市場反応が起きかねない。写真は2月、都内で撮影(2012年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 8日 ロイター] 日本の長期金利(10年最長期国債利回り)が0.8%台に低下し、市場ではさらに低下余地を探る動きも出ている。米、独国債も利回り低下基調を鮮明にしており、マネーの安全資産買いは一段と加速する気配を見せている。

だが、消費税増税に反対する小沢一郎・元民主党代表の党員資格停止処分の解除方針も決まり、同法案に反対する民主党議員が勢い付いている。衆院での同法案採決が先送りされる展開になれば、政治情勢を無視して国債買いを継続することのリスクが増大するだろう。「国債バブル」が膨張したところで、政治的なショックが加わると“想定外”の市場反応が起きかねない。これから先の展開は、市場参加者のリスク感覚も問われることになる。

<日米独で鮮明な長期金利低下>

8日の10年日本国債入札は応札倍率が3.74倍と順調で、長期金利は入札結果の発表後も0.860%付近での推移となり、根強い国債需要を見せつけた。円債市場でのこの動きは、米独での国債買い人気と歩調を合わせているとみることができる。米連邦準備理事会(FRB)と日銀は長期間のゼロ金利政策維持を約束する「時間軸効果」を目いっぱい効かせる政策を展開。欧州中銀(ECB)も3年物資金供給オペ(LTRO)を2度も実施して、大量の資金供給で金融システム不安を封じ込めている。

その結果、世界のマーケットにはかつてない規模のマネーが供給されているが、リスクオン市場になり切れない情勢になっている結果、米独日の国債は安全資産としてマネー流入の受け皿になっている。特に日銀の超金融緩和政策に慣れきっている東京市場では、金利反転のリスクに対する警戒感が、米欧市場に比べ格段に弱い。市場の一部では、長期金利が2010年10月に付けた0.820%の直近での最低水準を割り込むのではないかとの観測も出ているようだ。

<日本国債の弱点、政治的な優柔不断>

だが、国の公的債務残高が国内総生産(GDP)の200%に達しようとしている日本にとって、「政治的な優柔不断」は、多くの市場関係者が想定している以上に日本国債のウイークポイントとなっていると指摘したい。

日本国債が市場で現在の信認を確保し、長期金利1%割れの水準を実現している大きな要因の1つは、40兆円台の税収をかさ上げできる手段としての消費税率引き上げの余地が大きいことだ。ところが、肝心の消費増税法案成立のメドが5月になっても、全く立っていない。

衆院本会議が8日午後に開かれ、消費税増税法案を含む関連法案の趣旨説明が始まり、ようやく審議が開始された。しかし、衆院に設置した社会保障と税の一体改革特別委員会で、実質審議がスタートするのは16日。6月21日の通常国会会期末までは、残すところ1カ月余りで、早くも通常国会の会期延長に関する思惑が与野党の間で浮上。早期成立への機運は高まっていない。

野党多数の参院で議決しない限り、消費税増税法案は成立しない。言い換えれば、自民党や公明党の賛成がなければ、ゴールテープを切ることができない。しかし、自公両党は、参院で問責決議案を可決された田中直紀防衛相と前田武志国交相の辞任を要求し、消費税増税法案の可決に向けたシナリオは描き切れていない。

<注目される輿石幹事長の動向>

そこに加わってきたのが、小沢元代表の党員資格停止の解除問題。輿石東・民主党幹事長の強い指導力で、8日に解除方針が正式決定し、10日に発効する運びになっている。輿石幹事長は、党内対立の表面化回避を最優先の課題としており、党内対立が表面化しかねない消費税増税法案の衆院採決に関し、早期実施に難色を示しているとみられている。

一方、野田佳彦首相は同法案の成立に政治生命を賭けると明言しており、いずれかの段階で、野田首相と輿石幹事長の政治的な“力比べ”の結果が表面化することになるだろう。野田首相が自公両党の提案を飲み、民・自・公の合意が成立すれば、会期内に衆院で採決され、延長国会で参院でも可決し、成立するという展望が開ける。藤村修官房長官が8日午前の会見で、「野党の提案を真摯に受け止めながら、建設的かつ実りある審議を進め、関連法案の速やかな成立をお願いしたい」と述べたのも、そうした前提に立っている発言と見ることができる。

しかし、輿石幹事長が衆院採決に待ったをかけ続けた場合、同法案の成立に対する期待値は、大幅に低下する可能性がある。その時に市場がどのように反応するのか──。市場の一部には、同法案の継続審議を先読みしている市場参加者が多く、安全資産買いの方向は変わらないと予想する声があるようだ。だが、小沢氏の政治的な存在感が大きなっている中で、継続審議扱いになった法案が、その先で成立する可能性が大きいと予測するのは、合理的ではないだろう。

<消費増税法案、継続審議なら高まる不成立リスク>

もし、野田首相の政治的な指導力が強ければ、継続審議にはならず、どこかの段階で衆院を解散し、同法案の成立の是非をテーマに信を問うことになっているはずだ。その展開にならず、継続審議に落ち着いているケースは、同法案の成立の可能性が確実に低下していることを意味する。政治的な決断力不足を露呈した日本の政治機能に対し、それを「ノーリスク」と認識して、大手銀などの国内勢が日本国債を買い続けるだろうか。

また、2003年の0.43%を除けば、0.8%割れは経験していないゾーンであることも重要な点だ。損失リスクが相当に高まっている水準で、買うものが他にないからと言って無闇に買っていく市場参加者が多いとは思えない。常識的には、日本国債バブルがかなり膨張していると認識すべき水準が、長期金利0.8%前後であると考える。

バブルが膨らむほど、ちょっとした圧力でも弾ける力になりやすい。いったん逆方向に市場が動き出すと、想定以上の大きな幅になりやすいことは、2003年に0.43%を記録した後の急上昇を見れば明白だ。

世界的な安全資産へのマネー流入と政治的な要因がクロスするところで何が起きるのか、市場参加者はリスク管理能力を問われることになると指摘したい。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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