June 1, 2012 / 8:41 AM / 6 years ago

コラム:欧州混乱で円高加速か、最悪シナリオはドル72円=熊野英生氏

[東京 1日 ロイター] ユーロ安・円高の流れが止まらない。6月17日のギリシャの再選挙が分岐点になり、ギリシャのユーロ離脱という破局のシナリオに向かうかどうかを皆が恐れてユーロを売っている。

<6月危機に備えた資金シフト>

焦点は、選挙で急進左派連合(SYRIZA)が勝利するかどうかである。万が一、多数のギリシャ国民が、「ユーロ圏には残りたいが、緊縮財政はNO」という勝手な主張に票を入れれば、緊縮財政はNO→金融支援の打ち切り→ユーロ離脱という奈落の底に転落していく。

選挙後、EUとギリシャ政府の調整、ECBの支援スタンスも問われるが、ギリシャが安易に救済される楽観的な結論は見込みにくい。6月中旬に連立協議が行われ、新しい政権が支援プログラムの扱いをどうするかが7月初旬までに見えているだろう。

金融市場では、ギリシャがユーロを離脱したときに巻き起こるダメージを警戒して、投資マネーは「質への逃避」を起こしている。為替レートの円高のみならず、最悪のシナリオに備えたリスク回避と信用収縮が広範囲に進んでいる。債券市場では、南欧国債が売られ、米・独・日の国債が買われている。低格付け社債が敬遠され、各国株価も下落している。

他に、原油・金などの商品の急落、ブラジル・レアルや南ア・ランド、そして豪ドルなどの新興国・資源国通貨の急落も見逃せない。投資マネーの逆回転は、危機が起こらなくとも、危機を先取りして自己実現的に混乱が起こっていることを象徴している。

もちろん、危機が実現すると、事前の予想よりももっとひどいことが起こるだろう。金融市場が機能不全になるシナリオは、リーマンショックを彷彿とさせる。あのときは、貿易信用の萎縮により日本やアジアの貿易取引をストップさせた。

<最悪の円高シナリオ>

筆者の為替のシナリオは、6-7月中にリスク回避の円高によって、1ドル=75.0円まで進むというものだ。円高は、かなり極端な水準まで進んでいて、劇的に動くとは考えにくい。日本政府も口先介入を行っていて、いざというときに為替介入を辞さない構えだ。標準シナリオでは、75―78円のレンジで円高が進むにしても、一足飛びに円高方向に向かうのではなく、揉み合いながら居所を確認していくことになろう。

こうした標準シナリオとは別に、最悪のときにどこまで円高が進むのかを考えてみた。計算の前提は、日本と米国の2年物の金利差が0%になったときの限界点を導き出したものである。ドル円レートの変動は、2年物の日米金利によって説明できる。その経験則で最も極端なケースが金利差0%であり、計算上は1ドル=72.0円になる。これは、生起確率は低いが、最も極端な円高水準といえる。

なお、言い訳をしておくと、72.0円の最悪シナリオは、過去の経験則に立脚しているため、最悪の事態を完全に読み切っているとまでは言えない。また、今のところ、ユーロ売りの流れでドル高が起きているので、ドルと同調的に買われている円は極端に円高になりにくいという見方もできる。

<危機に終止符が打てないリスク>

次に、破局のシナリオの論点を考えたい。筆者の関心は、ギリシャのユーロ離脱の波乱が、EU全体の信用力をどこまで低下させるかにある。

EUでは、ギリシャがユーロ圏に留まり続けるという前提で、特別の信用供与をしている。ギリシャがユーロ圏から離脱すると、そのレジームが崩れて、信用供与をしていたEUとECBの債権が毀損(きそん)する。

例えば、EFSFが保有するギリシャ向けの債権は1260億ユーロ。ECBが証券市場プログラム(SMP)で買い入れたギリシャ国債の現在価値は500億ユーロ。ECBからギリシャの銀行向けに行っている流動性供給分。そのほかに、わかりにくいのはドイツのブンデスバンクが資金決済システム(TARGET2)の中で積み上げている未決済残高が損害を受ける可能性である。ギリシャ中銀には、緊急流動性支援(ELA)があり、それを使って国内銀行向けに行っている。ギリシャ中銀の信用供与分が劣化し、中央銀行間の信用に響く可能性もある。

要するに、ギリシャをユーロ圏から切り離すレジームチェンジでは、従来の金融支援が効力を失い、欧州政府などがその損失を負担する構図になるのだ。そうすると、これまで極端に買い進まれたドイツ国債や他の欧州諸国の信用力が、一転して低下したと見られるリスクはないのかが気になる。もしも、安全資産と見られていたドイツ国債の信用が低下すれば、「質への逃避」の流れは、さらなる円買いに向かうことになる。

さらに、連鎖反応が心配される他の南欧諸国について、EUなどからの金融支援が必要になったとき、今度は何がしかの厳しい制約を課されるのではないかという問題も残る。

<楽観シナリオでも停滞は長期化>

正反対に、楽観シナリオも検証してみよう。最も好ましいのは、6月17日のギリシャの総選挙で、緊縮財政を堅持する政党が過半数を握って、ギリシャ支援が継続されることになることだ。しかし、それは一時的な収束かもしれない。ギリシャは立ち直ることなく、またどこかで波乱を起こしかねない。

EUは、金融支援の前提として、財政再建の進捗を随時確認している。二次支援の決定後から、ごく短い期間でギリシャの懸念は再燃した。そのように、先行きギリシャが我慢強く財政再建を進められるとは思えない。

楽観シナリオを描くならば、ギリシャ問題が消えるのではなく、問題視されなくなることだ。欧州景気が力強く成長し始め、金融市場がギリシャのデフォルトのコストが十分に吸収可能という自信を持てればよい。2012年初から経済指標が改善し始めた2―3月に、世界的に株価が持ち直した背景には、ファンダメンタルズの改善に対してギリシャの債務再編のコストが相対的に小さくなったと見えたからという説明もできる。

半面、今の欧州の景気情勢はまだ不安定なので、ギリシャ問題の悪影響が相対的に大きく捉えられる。目下、ギリシャの再選挙を前にして信用収縮が先取りされていて、せっかく見え始めたファンダメンタルズの改善は、不安定化し始めている。ユーロ圏PMIが4月、5月と低下したのは、金融面の悪影響が実体経済の足を引っ張ったと理解できる。楽観シナリオでも、ギリシャ発の小爆発が何度か繰り返され、欧州経済の改善はゆっくりしか進まないという停滞の見通しになる。

あえて明るい材料となるのは、極端なユーロ安でドイツの製造業の復活が進むことである。もうひとつ、就任後LTROを実施して金融不安を一時的に沈静化したECBのドラギ総裁のマジックが、神通力を残している。財政政策が機動性を失い、金融政策の余地も少ないが、中央銀行総裁への信認が残っていることは僅かながらの希望である。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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