June 14, 2012 / 1:21 AM / 7 years ago

コラム:新興国通貨安というデフレショック=河野龍太郎氏

[東京 ロイター 14日] ここ数年、為替レートをめぐって、不思議に思っていることがある。中国や韓国、台湾など新興国の通貨が円に対して割安であることが、日本国内ではあまり問題にされていないことだ。

政治の場から、新興国に通貨調整を働きかけるべきといった主張は、筆者が記憶する限りほとんど聞いたことがない。対照的にホワイトハウスや米議会は、中国に対して人民元切上げの圧力をかけ続けている。産業構造から考えれば新興国の通貨安に伴う経済的なダメージは、米国より日本のほうが大きいのに不思議なことだ。

そういえば、円高・ドル安圧力の原因となっている米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和に対する批判も、日本ではあまり聞かない。聞こえてくるのは、日銀に対する批判や要求ばかり。日銀がスケープゴートになることで、国際的な摩擦が回避されているとすれば、それもよしとすべきなのだろうか。

率直に言って、日本の経済主体がドル安・円高による悪影響を受けているのは、米国に対する競争力の低下というより、ドルにリンクして通貨が減価するアジアなど新興国への競争力の低下が原因だといえる 。

本来、生産性が著しく上昇する新興国の通貨は、円に対して増価しても不思議ではない。しかし、固定的な為替レート制の下でドルとリンクして動くために、円に対して減価することが少なくないのである。

新興国の生産性上昇は、そもそも日本に産業構造の調整圧力(生産性ショック、相対価格ショック)をもたらし、デフレ圧力を強いるものだが、本来ならば円安・新興国通貨高が進むことで緩和される。しかし、実際に起こっていることはその逆(円高・新興国通貨安)であり、デフレ圧力が増幅されているのである。

それでも1990年代までは、新興国がドルに対して固定的な為替レート制を取ることは、大きな問題とはなっていなかった。生産性上昇率のスピードがいかに速いとはいえ、彼らの経済規模がそれほど大きくはなかったためだ。しかし、高成長を続けた結果、経済規模も先進国並みに拡大した新興国が増えている。

世界第2の経済規模になった中国だけでなく、高所得国に移行した新興国がドルに対して固定的な為替レート制を続けると、世界経済に大きな不均衡をもたらす原因となる。それゆえ、新興国の通貨をフロートさせる必要がある。

このうち、中国では、プラザ合意を含めて米国の通貨政策に翻弄されたがゆえに、日本経済が長期停滞に陥ったという見方が少なくない。こうした意識を持つ国に対してフロート制導入を促す際に重要な点は、そのことが新興国にとっても、マクロ安定化政策(物価の安定、成長率の安定)の運営上、大きなメリットがあることを認識させ納得させることだ。そもそも高い生産性上昇にもかかわらず、割安の為替レートで固定したままにすれば、インフレが加速し、実質為替レートは上昇するのである。

また、割安な為替レートを続けることは、輸出企業に補助金を渡すようなものであり、そのことは資源配分の効率性を歪めるだけでなく、家計部門が本来享受する実質購買力の改善を犠牲にするため、個人消費の回復を遅らせる。豊かになった新興国が目指すべきは、個人消費の持続的な成長であり、真の豊かさを国民が享受するためには、重商主義的な発想と決別しなければならない。

<中国発デフレショックは最終局面か>

ただ、中国については明るい動きもある。中国はついに(賃金上昇を抑制してきた農村部の余剰労働力の都市部での吸収が収束する)ルイスの転換点を通過し、もはや実質為替レートを低位に留めておくことが難しくなっていると、筆者は考えている 。

1992年の鄧小平の南巡講和の後、高成長の継続にもかかわらず、実質為替レートが低位で推移していたのは、戸籍制度の存在によって都市と農村の労働移動が制限されたことで、割安な固定レート制の下でも、比較的長期にわたって国内物価の全面的な上昇を回避することが可能となったためだ。

だが、沿海部では急激な賃金上昇が始まり、もはや物価上昇の回避は難しくなっている。名目為替レートの切上げを選択するか、そうでなければ賃金インフレがさらに加速し、いずれのケースにおいても実質為替レートの大幅な上昇は避けられないだろう。

実際、中国の実質為替レートは上昇し始めており、各国の経済データを見ると中国からの輸入比率はこのところ頭打ちとなっている。引き続き検証が必要だが、中国の生産性上昇と割安な為替レートがもたらす日本へのデフレショックは、最終局面に近づいているのかもしれない。

*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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