[東京 5日 ロイター] 東京電力9501.T福島第1原発事故を検証してきた国会の事故調査委員会(黒川清委員長)は5日、「事故は自然災害ではなく明らかに人災」とする報告書を衆参両院議長に提出した。
震災前に地震や津波に対する十分な安全対策が取られなかったほか、監視・監督機能が崩壊していたことが根源的原因と結論付け、東電の過酷事故に対する準備不足や政府・規制当局の危機管理体制の不備も批判した。そのうえで国会が電力会社や原子力規制当局を監視することなどを提言した。
報告書はまず、福島第1原発は震災時点で「地震にも津波にも耐えられる保証がない脆弱な状態であったと推定される」とし、必要な対策が先送りされていなければ事故を防げた可能性があると指摘した。また「歴代の規制当局と東電との関係において、規制する立場とされる立場の逆転関係が起き、規制当局は電気事業者の虜となっていた。その結果、原子力安全についての監視・監督機能が崩壊していた」とし、政府、規制当局、東電を批判した。
事故の直接的な理由については「1号機の安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的には言えない」との見解を示した。
現場の運転上の問題としては、東電が過酷事故に対する十分な準備、知識、訓練などを実施しておらず、「組織的な問題」があったと指摘。事故後の対応では、官邸や規制当局の危機管理体制が機能しなかったほか、東電と政府の責任の境界が曖昧だったことを問題視し、住民への避難指示が的確に伝わらなかったことも被害の拡大を招いたと説明した。
官邸による発電所現場への直接的な介入に関しては、現場対応の重要な時間を無駄にしたほか、指揮命令系統の混乱を拡大する結果となった、と批判。一方で、事故後の東電の情報開示が不十分だったほか、現場の技術者の意向より官邸の意向を優先し、曖昧な態度に終始したことにも問題があると指摘した。東電については、規制された以上の安全対策を行わず、より高い安全を目指す姿勢に欠けていたとし「緊急時に発電所の事故対応の支援ができない現場軽視の経営陣の姿勢は、原子力を扱う事業者としての資格があるのか」との疑問を呈した。
一方、東電が政府に伝えたとされる全面撤退方針については、東電本店で退避基準の検討は進められていたが、全面退避が決定された形跡はなく、「総理によって東電の全員撤退が阻止されたと理解することはできない」との判断を示した。東電と官邸の間で認識ギャップがあり、その根源には「東電の清水社長(当時)が官邸の意向を探るかのような曖昧な連絡に終始した点があった」と指摘した。
<7つの提言>
報告書には、問題解決に向けた7つの提言も盛り込んだ。原子力規制当局を監視するため、国会に原子力問題に関する常設委員会を設置することや、電力会社が規制当局に不当な圧力をかけないよう国会が厳しく監視することを提案。このほか、政府の危機管理体制の見直し、被災住民に対する政府の早期対応、規制組織の抜本的な転換、原子力法規制の見直し、民間中心の専門家からなる独立調査委員会の活用を呼び掛けた。
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