July 9, 2012 / 8:39 AM / 8 years ago

コラム:今年は「円高の夏」回避か、QE3期待空回りの公算

田巻 一彦

7月9日、過去2年、米金融政策への思惑や追加緩和策でドル安/円高が進んだが、今年はどうやら「円高の夏」を回避できるかもしれない。都内で2010年9月撮影(2012年 ロイター/Yuriko Nakao)

[東京 9日 ロイター] 注目されていた6月米雇用統計の結果をめぐり、市場の一部には米連邦準備理事会(FRB)が8月1日にも量的緩和第3弾(QE3)を決めるとの思惑が出ているが、その期待感は裏切られる公算が大きい。

米経済の成長テンポは決して目覚ましくないが、腰折れするリスクが急激に高まる情勢ではないからだ。過去2年、米金融政策への思惑や追加緩和策でドル安/円高が進んだが、今年はどうやら「円高の夏」を回避できるかもしれない。

<6月米雇用統計、景気失速とは距離>

6月米雇用統計によると、非農業部門雇用者数は前月比8万人増と予想の9万人増を下回った。民間部門雇用者数も予想の10万2000人増を下回る同8万4000人増となり、市場の一部では、QE3への期待感が強まった。

市場は常に予想比で反応するが、これには陥りやすいワナもある。改定されたデータを踏まえた基調を認識できなくなるという傾向だ。非農業部門の雇用者数は、4月が同8万5000人、5月は速報値の同8万2000人から同10万5000人に改定され、6月が同8万4000人だ。伸びてはいないものの、大きな落ち込みが始まって米景気が急速に減速し、景気後退の淵に立たされている、という状況とは距離がある。

<8月1日にQE3決定の可能性低い>

米ボストン地区連銀のローゼングレン総裁(2013年に米連邦公開市場委員会の投票権を持つ)は9日、バンコク講演での準備原稿の中で、米経済の緩やかな成長ペースは、今後しばらく続く見込みであるとの見解を示した。ハト派の1人である同総裁は、同時に2012年の米経済成長率は、FOMC予想の1.9─2.4%を下回るとし、成長率自体は1%台になる可能性をにじませた。

かなり弱気の見通しだが、逆に言えば、弱気の見通しだとしても、ゼロ近辺やマイナス成長に転落するリスクまでは見ていないということだろう。米シカゴ地区連銀のエバンズ総裁(2013年に米連邦公開市場委員会の投票権を持つ)は、緩和に向けたより強い措置を取るべきで、MBS購入が望ましいと9日のバンコク講演での準備原稿で指摘した。

ただ、最もハト派に位置するエバンズ総裁の見方が、FOMC内部で多数派を形成する可能性は低いと考える。バーナンキFRB議長は、量的緩和政策には様々なコストとリスクが伴い、安易に着手すべきではなく、必要だという確信がある程度なければならい、との考えを6月20日の会見で示している。

市場におけるQE3への期待感はなお強いようだが、FRBが実施を決断するハードルは相当に高いと考える。足元で2%弱の成長率を押し上げるためにQE3を実施する可能性は低いと指摘したい。支払うべきコストと予想される効果を比較した場合、効果がコストを上回るという明確な結論を導くことは難しい。米金融政策をめぐる市場と当局の認識のギャップは、私の目からは、かつてないほどに広がっているように映る。

<円高回避の公算、欧州危機と米金融政策の見通し絡む>

過去2年、夏になると米金融政策の追加緩和への期待感や、実際の政策発表を受け、ドル安/円高が進むという展開を繰り返してきた。今年の夏も、同じような状況になると予め想定していた市場参加者が、かなりいたのではないだろうか。「円高の夏」は、東京市場関係者の脳裏にくっきりと刻印されているからだ。

だが、今年はやや、状況が違うと指摘したい。欧州債務危機は、6月下旬の欧州首脳会議の直後に「今回ばかりは、状況改善の手が打たれた」という印象を市場に与えたが、7月に入ると実効性に対する疑問が拡大。ユーロ/ドルは、9日の市場で1.22ドルまで下落して推移している。これは見方を変えれば、ユーロの弱さが強調され、ドルの強さが反射的に鮮明となっている構図だ。

円もドルとともにリスクから逃避する通貨として買われやすくなっているが、ドル/円は79円半ばから後半での取引が続いている。市場参加者の大半が、FRBのQE3が8月1日にも決まるとまでは、見ていないためだ。8月1日以降、QE3への期待感は市場に残るだろうが、今は予見できないような大きなショックが発生しない限り、ドル/円のこう着した展開は、当面継続するだろう。

<リスクは米大統領の政治的圧力>

リスクがあるとすれば、オバマ米大統領がバーナンキFRB議長に強い圧力をかけ、9月12、13日のFOMCでQE3が決まるシナリオだ。同大統領は6日、6月米雇用統計発表後に、雇用創出ペースに「満足できない」とコメントしながらも、民間部門の効用情勢は正しい方向に進んでいるとの認識を示した。

11月の投票を前に米大統領選はいよいよ、民主・共和両党の候補による舌戦が本格化してくる。オバマ大統領にとって、失業率が8%台で高止まったままというのは、ロムニー候補に絶好の攻撃材料を与えることになる。しかし、日本の政治家ほどには「金融緩和依存症」にかかっていないように思われ、オバマ大統領からの圧力でQE3に傾くというこのシナリオの実現可能性は、10%以下だろうと予想する。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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