August 20, 2012 / 5:47 AM / 6 years ago

コラム:円高が迫る海外投資の発想転換、債券偏重は禁物=竹中正治氏

[東京 20日 ロイター] 前回のコラムでは米国の対外投資ポジションを分析したが、今回は日本の対外資産・負債とその投資リターンの特徴から課題を抽出してみよう。

結論を先取りすると、日本の対外資産は債券投資に傾斜し過ぎており、直接投資と株式の比率を上げることで長期的には投資リターンを向上させる余地が大きい。特に円高によるキャピタル・ロスを上回る投資リターンをいかにして上げるかが重要なポイントとなる。

<投資リターン向上で国富の維持を>

日本の対外資産は2011年末で582兆円、対外負債は329兆円、差額で253兆円の純資産残高は依然として世界最大規模だ(財務省公表データ)。

ご承知の通り、運用による投資リターンは大きく二つに分類される。利息や配当のようなインカム・リターンと、売却益や差金決済益など価格変動(含む為替変動)により得られるキャピタル・リターンだ。

前者のインカム・リターンから見ていこう。

対外所得の受け払いをそれぞれ対外資産と負債で割って計算したインカム・リターンは、2001―11年の期間の平均で見ると、資産サイドは3.6%(年率、以下同様)、負債サイドは1.6%、結果として1.8%のプラスのリターン格差があり、比較的安定している。この結果、所得収支を対外純資産で割って計算した純資産に対するリターンは、金融レバレッジ効果で年率5.7%と資産リターンより高い。これは日本の対外投資ポジションの優位点と言えるだろう。

次に、キャピタル・リターンを見ると、同期間は対外資産も負債も年率マイナス2.0%でマイナスの均衡となっている。これは見かけ上は、日本の対外投資が同期間に年率2%のキャピタル・ロスを生み、同時に対外負債も海外投資家に年率2%のキャピタル・ロス(日本サイドにとっては対外負債の縮小というキャピタル・ゲイン)を発生させていることを意味する。

ここで、前回とり上げた米国の対外投資ポジションの特徴を思い出して頂きたい。対外資産と負債の両建ての規模(絶対額、並びにGDP比率)の大きさに加えて、インカム・リターンとキャピタル・リターンの双方で過去長期にわたって趨勢的なプラスの投資リターン格差(対外負債コストを上回る対外資産リターン)が存在していることが特徴だ。その結果、米国の対外投資ポジションは対外純負債であるにもかかわらず、所得収支は黒字を維持し、また長期的な経常収支赤字の累計額よりも対外純負債の増加額がはるかに小さく抑制されてきた。

一方、日本の総合投資リターン(インカム・リターンとキャピタル・リタ―ンの合計。下図参照)については、次の点に注意する必要がある。

第一に、日本の対外資産は負債の1.76倍(2011年末)と大きいので、資産・負債双方に同じ年率マイナス2%の価格変化が生じても、対外資産から生じる損失の方が絶対額としては大きくなる。つまり、絶対額では同期間にネットで約56兆円のキャピタル・ロスが生じている。

第二に、資産・負債とも円建て換算で算出されており、円ベースでは対外負債は年率マイナス2%の縮小(海外投資家のキャピタル・ロス)となっているが、海外投資家にとって円相場が自国通貨に対して円高になっている場合には、為替益が発生し、キャピタル・ロスはその分だけ相殺される。一方、外貨建ての資産サイドは円高で日本の投資家にキャピタル・ロスをもたらしている。

この結果、2001年以降の経常収支黒字の累積は約180兆円であるが、対外純資産の増加はそれより60兆円少なく、120兆円にとどまっている(原理的にはこの差額60兆円は上記のネットキャピタル・ロス56兆円と一致するはずだが、誤差脱漏のため4兆円ずれが生じているようだ)。

昨年の東日本大震災を契機に赤字に転じた日本の貿易収支が今後も赤字を継続するか、あるいは黒字に戻るか、円相場の動向にも依存しており、予測し難い。しかし、少子高齢化で団塊の世代の引退と生産年齢人口比率の低下がまだ続く以上、今後の日本の国内貯蓄・投資バランスは次第に従来の貯蓄超過から貯蓄過小に向かう可能性が高いと予想するのが自然だろう。

その前提で考えると、国内貯蓄投資バランスの貯蓄超過(貯蓄不足)=貿易黒字(赤字)であるから、貿易収支は今後黒字に戻ることがあっても過去の黒字幅は回復せず、赤字化が趨勢的な傾向になる。その結果、国富の維持のためには対外投資ポジションの投資リターンを向上させることが投資家のみならず、マクロ政策的にも重要な関心事項になって行くだろう。

<円高で消えてしまう利回り格差の幻想>

では、どうすればこれまでのような対外資産のキャピタル・ロスを抑制しながら、総合投資リターンを向上させることができるだろうか。

そこで、対外資産のキャピタル・ロス(年率マイナス2.0%)の内訳を見ると、マイナス1.8%は為替相場の変化(つまり円高)で生じていることがわかる。円高自体は政府の外為市場介入によってもそう簡単には修正できないので、円高によるロスを上回る投資リターンをあげるしかない。

この観点から対外資産の内訳(2011年末)を見ると、外貨準備(17.3%)、民間保有の中長期債券(35.8%)、合計53.1%が米国を中心とする海外の国債などに投じられており、直接投資と株式投資は合計で21.8%にすぎない。この点は前回紹介した米国の対外資産内訳が直接投資と株式に傾斜し(合計で41.9%)、外貨準備と民間の債券投資は合計で10.8%に過ぎないことと対照的だ。

海外の債券投資は金利では日本よりも高くても、資金移動の自由が維持されている先進国間ならば、長期ではその金利差は為替相場の変化(円高)で相殺される。これは国際金融論で「金利平価原理」として知られていることだ。実際、1980―2011年の期間で10年物米国債と日本国債の平均利回り格差は3.12%、ドル円相場の平均ドル減価率は3.20%で、金利格差は為替相場の変化率にほぼ一致する。

一方、株式投資を中心とするリスク性資産への分散投資は、長期ではリスクプレミアムの分だけ国債など「無リスク」投資のリターンを上回る。この金融投資の原理は、日本では過去20年間デフレのために壊れてしまい、債券投資のリターンが株式投資のリターン(マイナス)を上回る事態となっているが、米国を始めマイルド・インフレを維持している市場では生きている。

したがって、株式と直接投資というリスク性の資産比率の対外資産を増やすことが、長期的な日本の対外投資リターン向上の条件となろう。日本の企業部門はグローバルな競争環境の中で生き残りを賭けてM&Aも含めた海外の直接投資を増やしている。投資家も円高で消えてしまう金利利回り格差の幻想から目覚めて、年間の変動は激しいが、リスクプレミアムの分だけ高リターンが期待できる海外の分散株式投資を増やすことが肝心だろう。

*竹中正治氏の前回のコラムはこちら(here)。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職。京都大学経済学博士。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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