August 22, 2012 / 2:56 AM / in 7 years

コラム:IMFも認めた円高の行きすぎ=高島修氏

[東京 22日 ロイター] 国際通貨基金(IMF)は8月1日、対日4条協議報告書(日本経済に関する年次報告書)を発表した。その中でIMFは「日本は引き続き為替レートを市場で決定されるようにすべきであるが、ボラタイルあるいは無秩序な市場環境には介入で対処することができる」と明記した。

今年6月にIMF代表団が4条協議のために来日した際には、唐突に「円の為替レートは安全資産への逃避による資金流入などを反映し過去1年の間に切り上がり、我々の分析は、円の為替レートは中期的観点から幾分過大評価であることを示唆している」と指摘。その時も驚かされたが、今回はそこからさらにもう一歩踏み込んだ。

<IMFの変心の理由>

6月以降のIMFの変心の理由は何か。おそらくその答えの一つは、今年4月に日本政府・財務省が決定した600億ドルのIMF向け融資枠拡充にあるのではないか。

これは2009年の1000億ドルの融資枠拡充に続くものだ。日本が率先して協力することで、2009年そして今年も中国など他国の協力が引き出され、歴史的なIMFの融資枠拡充が実現した。この融資枠拡充がなかったら、ユーロ圏周辺国・南欧諸国を取り巻く環境は一段と厳しいものになっていたことは間違いない。合計1600億ドルの融資枠拡充でIMFに協力することによって、日本政府・財務省はIMFや欧州諸国に相当な恩義を売った格好だ。

6月の4条協議を終えた際のIMF声明を見ると、「円の為替レートは中期的観点から過大評価」との指摘以外にも、「IMFは日本政府の消費税引き上げ計画を全面的に支持する」や「日銀は追加緩和策を実施しうると確信。インフレ目標(Goal)の1%にインフレ率が近づいた場合、デフレショックへの緩衝帯を設けるため、日銀はインフレ目標を引き上げるべきである」などといった指摘が並んだ。財務省の本音とも思えることをIMFが代弁したのも、当然と言えば当然かもしれない。だが、IMF融資枠拡充に関して本質的により重要なことは、それによって財務省が外貨準備の有効活用法を示したという点にある。

過去3年間で日本の外貨準備は約2500億ドル増加したが、財務省はその6割強にあたる1600億ドルをIMF向け融資枠拡充に振り当てたことになる(ただし、現在のところ融資枠が設定されただけであり、実際に資金がIMFに移ったわけではない)。

現在、仮に民間投資家が1600億ドルの資金を有していたとしても、たとえばイタリア国債などに投資することは事実上、不可能である。外貨準備という公的資金をIMFという国際機関を通じて拠出するからこそ、1600億ドルもの資金を欧州のために使うことができるのである。これ以上の外貨準備の有効活用もあるまい。ユーロ圏の混乱が深刻化し、世界的な危機に発展しかねないリスクが高まる中、欧州諸国のみならず、米国やIMFなど国際機関も日本の円売り介入に一定の理解を示し始めているのではなかろうか。

もちろん、円売り介入をめぐる国際環境は引き続き厳しく、ドル円で75円を割り込むまで介入実施を確信することはできない。もっとも、目下、日本政府と財務省は一丸となって2014年の消費税引き上げを目指している。名目3%成長、実質2%成長という景気条項に鑑みるなら、法案成立後も政府・財務省は景気下支えの必要性を強く意識しているはずで、円高阻止にかける思いも従来以上に強いはずだ。

こうした中で、IMFから円売り介入に関する一定の理解を公式文書の中で引き出したことは、財務省(特に通貨政策を担当する国際局)にとって大きな前進になったはずだ。

<ここから一段の実質円安の可能性>

ところで、IMFは今回の年次報告書で「日本の外需環境」との補完資料を掲載。その中で「実質為替レート」という項目を設け、以下のように指摘した。

「総じて、実質為替レートは中期的なファンダメンタルズ対比で、0―10%ほど、やや過大評価されていると推察される。今年3月、消費者物価を用いた実質実効相場は過去20年ほどの平均水準に近い。しかしながら、ULC(ユニット・レイバー・コスト)を用いると、過去20年平均よりも約10―15%も高い。この結果は、1990年代半ばから世界の輸出市場でシェアを失ってきたことと整合的で、その間、主な競合国はシェアを維持するか、伸ばしてきた。このことは円の過大評価を示唆している」。6月の4条協議を終えた際のIMF声明で示した「円の過大評価」との認識を、わざわざ理論武装して解説した格好である。

しかも、より興味深いことに、IMFは「現在の為替レートを過去20年間と比較することは誤解を招くかもしれない。なぜなら、日本経済の現在のファンダメンタルズは過去20年間の平均ほど強くはないことが明白だからである。高齢化、政府債務の著しい増大などの要因が影響している」とつけ加えた。

この2年ほど、巷では、「実質円相場は過去平均水準に過ぎないので、大した円高ではない」などといった主張が数多く聞かれた。一方、筆者は、実質為替レートだけを見て、円の割高/割安を議論しても無意味であり、重要なことは「過去の平均水準の実質円相場の下ですら、デフレ均衡から抜け出せず、株価のパフォーマンスも他国に比べて劣後している」という点にあると、繰り返し主張してきた。

IMFが指摘するように、過去20年ほどの間にアジア諸国などが躍進し、日本の相対的な競争力が低下してきたこと、しかも、高齢化の影響もあって国際収支が悪化しやすくなっていることもあって、過去平均水準にすぎない実質為替レートにでさえ、日本経済が耐えきれなくなってきた可能性があるからだ。

実質為替レートから円相場の方向性を読み取るならば、平均水準からさらなる円高余地があるどころか、ここから一段の実質円安の可能性があると見るべきだろう。一連のIMFの変心に、ようやく欧米諸国や国際機関の間でもこうした認識が共有され始めたことを感じる。日本の介入政策に対する風当たりが弱まることになってもおかしくないかもしれない。

*高島修氏は、シティバンク銀行のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年にシティバンク銀行へ移籍。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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