September 21, 2012 / 3:17 AM / 7 years ago

コラム:世界経済再浮揚と円安始動の鍵は米国に=田中泰輔氏

[東京 21日 ロイター] 4年にわたるバランスシート調整に圧迫され「複雑骨折」の様相だった米国に、財政出動と果敢な金融政策という「添え木」が手厚くあてがわれ、骨の細胞同士が存外くっつきつつあるかもと思わせる兆候が見え始めた。

超金融緩和下の株高は家計の債権・債務比率を好転させ、過剰住宅在庫も減った。もちろん、斑(まだら)模様の白い部分が増えている程度の改善であり、「添え木」を取り去る自信はまだ誰にもない。だからこそ、米連邦準備理事会(FRB)は量的緩和第3弾(QE3)を決めた。必ずしもリスクオフ環境でないこのタイミングでQE3が追加されたことは、市場全般のリスク・ポジティブな機運を強化しよう。

加えて、米国経済指標にリーマンショックの翌年から観察される季節調整上の歪みが、今後半年間の景況改善を手助けする可能性がある。つまり、リーマンショック前後に劇的に悪化した第4―第1四半期の指標は、翌年同時期には季節調整で強めに補正された。そして、果敢な政策発動で一気に景気を底打ちさせた第2―第3四半期の指標は逆に弱めに補正された。

言い換えると、秋から翌年春先まで米指標は強くて景況感も明るくなる一方、春から夏にかけては指標低迷で景況感も冷え込むパターンを繰り返した。こうした統計上の歪みは年々小さくなろうが、少なくとも10月以降の半年程度、米景気信頼感の改善に資すると期待できる。

<欧州は低迷続くも今年後半が底>

米国経済の自律回復力の改善は、次の局面の緩慢な世界経済を支える要となろう。欧州では、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が南欧重債務国の国債をECBが無制限に購入する方針を示し、市場の下方テールリスクを後退させた。日本や米国の事例を振り返っても、甚大な被害を波及させかねない債務問題への対応は究極的に、問題となる国や金融機関の資金繰りをつけ、破綻を回避させつつ債権・債務の損失処理を進めることに尽きる。ECBはようやくそこに踏み出した。

日米の事例を振り返れば、欧州経済は今後5年、10年と債務処理に圧迫され続けよう。それでも欧州にとって危機回避こそが第一の課題。それがなされれば、実質国内総生産(GDP)成長率は今年後半に底入れすると見られる。ただし、今年通年でマイナス0.5%のリセッションから、来年はプラス0.3%成長と、かなり厳しい低成長にとどまりそうだ。

一方、新興国経済もまた減速中だが、中国を筆頭に主要国が今年後半に底打ちしていくと見ている。リーマンショック後の「100年に一度」級の危機からの立ち直りに貢献した、中国など新興国・資源国の経済は、3年にわたる景気拡大サイクルを一巡させた。今春から夏には、米指標低迷、欧州不安から新興国経済は一段と減速したが、金融緩和や財政出動といった自助努力によって、景気のソフトランディングから回復を志向している。

ただし、中国の実質GDP成長率の予想が今年プラス7.7%と、政府が考える巡航目処プラス7.5%の土俵ぎりぎりで、来年もプラス8.2%にとどまる。ここで米国に自律回復の芽が伸びてくることは、新興国・資源国の景気浮揚を促すうえでも重要だろう。

<2013年から米国と新興国の好サイクルが重なる>

通貨への含意を考えよう。サイクル上は2013―14年に、景気拡大一回分を先行した新興国・資源国が周回遅れの米国の回復軌道と歩調を合わせる可能性が出てきた。新興国・資源国のうちで市場の関心が高いのは、趨勢(すうせい)的な経済成長のレールに乗った対外債務国の高金利通貨である。これら債務国のリスク通貨は、その債務のファイナンスをどれだけ円滑にできるかできないかで、景気サイクル局面に沿った上下動のパターンが生じる。

世界的な景気回復期には、まだ金融緩和下のドルをキャリーしてリスク通貨群は反発する。その後、景気拡大過程では高金利の魅力が増して海外マネーが流入し、リスク通貨は華々しく上昇する。

しかし、やがてインフレ体質の国ほど高金利が嵩(こう)じて景気に陰りが出て、債務の収支構造が脆弱な国から順にリスク通貨は反落していく。日本の投資家が好む通貨の最近の展開でも、資源輸入国のインドやトルコ、次いで資源輸出国でも経常赤字を賄いきれない南アフリカやブラジルの通貨の順でサイクル上の反落に転じた。豪ドルは、ひと昔前だったらすでに反落組であったろう。しかし、今回のサイクルでは、国際投資の中核であるドル、ユーロ、ポンドが全て債務問題で傷を負い、豪ドルは駆け込み寺のように海外マネーが流入し続けた。その結果、豪ドル高は持続しているが、豪州経済自体が通貨高に喘ぐ事態に至っている。

2013―14年が想定通り、米国と新興国・資源国が景気拡大で歩調を合わせる場合、米金融緩和が持続する間はドル・キャリーでリスク通貨群が高くなり、ドル指数は軟化しやすい。しかし、米金利に先高観が出てくるにつれて、ドルは対円では堅調になると想定される。円は、対ドルはもちろん、新たな上昇サイクルに入る新興国・資源国に対しても安くなる局面となろう。

ユーロ相場は、危機的事態での投げ売りが回避される限り、ベースは金利相場である。このため、米国にじわり金利先高観が出る一方で、欧州では景気低迷と債務問題への対応で金融緩和傾斜が続くという巡り合わせから、ユーロは対ドルで劣勢だろう。好経済環境下で進む円安は、米欧金利差が示唆するユーロ安よりやや大きく進行し、ユーロ/円でも若干円安気味になりうる。

<今後半年は米回復でじわり80円台の円安も>

世界経済が再浮揚に向かう時、円安と日本株の堅調が相伴い、日本にも明るさが増す。しかし「鬼が笑う」来年のことを語る前に、向こう半年の焦点として、まず米国経済指標が本当に、そしてどの程度改善しうるのかを注視しなければならない。

季節調整の歪みに期待するような弱気の予想であり、データが実際に発表されるのを一つ一つ確認していくしかないが、それでも想定通りであれば、指標の持続的改善で、米成長見通しが巡航速度のプラス2.5%を超えるにつれて、2年物国債金利がじわり上昇しよう。最近は同金利が0.25―0.30%でドル/円は78―79円中心の展開。これが巡航速度以上の景気回復となれば、第4四半期辺りに0.3―0.5%で80円台前半に軸足が移る。

米経済が順調なら、毎年春先に恒例となった投機筋の円売り仕掛けと、日本の決算期末に絡む一部ヘッジ(ドル・ショート、ユーロ・ショート)の巻き戻しで85円をトライするかもしれない。

*田中泰輔氏は、ドイツ証券のグローバルマクロリサーチオフィサーでチーフ為替ストラテジスト。日本長期信用銀行、クレディ・スイス、野村証券などを経て、2011年11月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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