December 20, 2012 / 5:47 AM / 8 years ago

コラム:日本の金融政策改革は世界をリードできるか=カレツキー氏

アナトール・カレツキー

12月19日、日本では、経済と企業の環境は相変わらず暗いが、政治と金融政策がにわかにエキサイティングになってきた。写真は18日、都内での記者会見に臨む自民党の安倍晋三総裁(2012年 ロイター/Toru Hanai)

2012年の暮れも押し迫った今、米国の「財政の崖」は回避される見込みとなり、米国の政治と金融政策の進路は確定し、欧州の政治は来年9月のドイツ総選挙まで動きが止まり、中国は指導部の移行を終えた。

つまり、金融市場を絶えず悩ませ企業活動を麻痺させてきた政治・金融面の不確実性が一掃されたわけだ。

この結果、2013年は企業と投資家が再び経済ファンダメンタルズや企業収益に集中できる年となりそうだ。息を殺して次のユーロ圏首脳会議、あるいは米連邦公開市場委員会(FOMC)や欧州中央銀行(ECB)理事会を待ち、決断を先送りする日々は終わる。しかし、事態が逆方向に進んでいる場所が世界で一カ所だけある。

日本では、経済と企業の環境は相変わらず暗いが、政治と金融政策がにわかにエキサイティングになってきた。世界は日本への関心をほとんど失っているが、この世界第3位の経済大国における「ゲシュタルト転換」は世界の経済界に大きな意味を持ち、政府と中央銀行に対する有権者の考え方も大きく左右しかねない。

先週末の選挙で安倍晋三総裁──強力な首相になる可能性を秘めている──率いる自民党が圧勝した主な原因は、彼が日本経済を20年間の昏睡状態から叩き起こす金融政策改革を約束したことだ。安倍総裁が約束を実行するなら──それにはまだ大きな「もしも」が付くが──とりわけ選挙で選ばれた政治家ではなく主として官僚が権力を振るう国であるだけに、世界的な影響は甚大なものになり得る。

具体的に安倍総裁が約束したのは、インフレ率が2%まで上昇して成長を回復できるまで、日銀に強制的に金を刷らせて円安に導くことだ。約束通りの行動を起こせば、ドルは円に対してだけではなくユーロその他の主要通貨に対しても上昇するだろう。

円相場が大幅に下がるなら、ドイツその他欧州諸国の高級製品の輸出業者は、日本の競合他社からシェアを奪うことによって米国市場での競争力喪失を補えなくなる。これは、円高に苦しむ日本の競合他社を踏み散らしてきた韓国と中国の輸出業者にも当てはまることだ。

しかし、さほど目につかないがより重要なのは、マクロ経済運営をめぐる世界的な論争に及ぼす日本の影響だ。金融政策が単にインフレ制御を目的としていた時代は終わった。レーガン元米大統領とサッチャー元英首相による政治改革と、ほぼ同時期に経済学の分野で起こったマネタリスト革命が醸成したマクロ経済学をめぐる共通理解は崩壊した。

1980年代には大半の国において急激な物価上昇が最大の問題だったため、インフレ率だけに注目することが妥当だった。レーガン、サッチャー両氏を筆頭とする政治家らが至った理解は、インフレを止める唯一の確実な方法は、情け容赦なく金利を引き上げることで従来考えられなかった水準の失業率を生み出すことだというものだった。

だれも労働者の首を切る政治的責任を取りたくなかったから、経済学者は、失業は自然で不可避だと証明する理論構築に強いインセンティブを持った。失業に関してマクロ経済政策にできることはなく、金融政策が唯一効果を表すのはインフレ率だと。当然の、そして都合の良い帰結は、政府から金融政策運営の責任を免除してやり、政治から独立した中央銀行に移転させることだった。

経済学者はインセンティブというものを熟知しているから、1980年代のマネタリスト革命の3つの柱を彼らが一斉に主張し始めるのに時間はかからなかった。具体的には(1)「自然」失業率の受け入れ(2)インフレ・ターゲティングへの全面的依存(3)中央銀行の独立性──という要素になる。

これと異なる考え方、例えば、政治家は金融政策と財政政策を組み合わせてインフレ率だけでなく失業率も管理すべきだという考え方を示した経済学者や政治アナリストは嘲笑され、大学の経済学部から、そして財務省や中央銀行から追われた。こうしたパージ(公職追放)はもう終わりだ。

過去数週間、中央銀行家は失業の責任を認めるというタブーを破った。バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は失業率を6.5%まで低下させることにコミットし、間もなくイングランド銀行(英中央銀行、BOE)総裁に就任するカーニー・カナダ中銀総裁は名目国内総生産(GDP)目標を提案した。これは経済学者らにとって大地を揺るがすような出来事だ。彼らは過去30年間、金融政策が失業率や経済成長に持続的な効果を持ち得るという考えを否定するよう、自らと生徒を訓練することに時間を費やしてきたのだから。

しかし、経済目標に対する姿勢をめぐって革命が進行している一方で、こうした目標を達成するための新たな政策手段をめぐる議論はほとんど始まっていない。バーナンキ、カーニー両氏が示した失業率と名目GDPの目標は、現在のデフレ的環境下で雇用と成長を押し上げる強力な手段を欠いたままでは空手形に終わる。そこで日本の出番だ。

日本のように20年間もの経済停滞に苦しんだ国は他にない。従って、デフレに対処する真に革新的な手法において、日本が草分けとなるのは不思議ではない。

日本以外の国々では、量的緩和を通じて国債市場に通貨を供給すること以上の策に踏み出した中央銀行家や政治家はまだいない。そしてだれ一人として、少なくとも公式には、中央銀行が直接政府に金を貸したり、一時的な減税をファイナンスすべきだと提言してはいない。

こうした真に革新的な政策は、新たに創出したマネーを企業や家計に手渡すのと等しく、時に「ヘリコプター・マネー」とか「民衆向け量的緩和」と称される。この政策が世界をデフレから救い出すのは間違いないが、欧米では公に議論することはまだ不可能だ。政府支出や減税の中央銀行によるファイナンス、および中央銀行の独立性という、マネタリストにとって最後のタブーが破られるからだ。

中央銀行から独立性を奪い、インフラ投資や減税のために金を刷るよう日銀に命じるという2つの禁じ手が今、日本において議論の中心を占め始めた。

1970年代のマネタリスト革命が生み出したタブーを破ることで、日本は2008年に始まった経済学思想の革命を加速、増強することが可能だ。日本は20年間も冬眠を続けたが、世界は再び「メード・イン・ジャパン」のアイデアによって変化を遂げることができるだろうか?

(19日 ロイター)

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

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