April 26, 2013 / 5:02 AM / 6 years ago

コラム:ECBとイタリア政局を読み違える欧州市場=カレツキー氏

アナトール・カレツキー

4月25日、今週の欧州市場の反応は、2つの魅惑的だが中世的な政治主体、つまりイタリア政府とECBをめぐる市場の混乱ぶりを表しており、米国にも増して明確な事例かもしれない。写真は1月、フランクフルトで撮影(2013年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

[25日 ロイター] 世界で最も高給を稼ぎ、最も情報に精通したアナリストの見解を織り込む金融市場は、しばしば予想外の出来事を不思議なほど的確に予期する。その対象は景気の好不況から選挙、テロ攻撃まで幅広い。

しかし市場は時として大間違いを犯すこともある。特に政治問題において著しい。典型的な例は、昨年11月の米大統領・議会選挙後の米国株の下落だ。今週の欧州市場の反応は、2つの魅惑的だが中世的な政治主体、つまりイタリア政府と欧州中央銀行(ECB)をめぐる市場の混乱ぶりを表しており、米国にも増して明確な事例かもしれない。

欧州全域で景気・金融面のファンダメンタルズが悪化しているにもかかわらず、欧州株は今週、2つの政治イベントに基づいて急反発した。1つは87歳になるイタリアのナポリターノ大統領が、他に代わりが見つからないという理由で7年間の続投に渋々同意したこと。もう1つは複数のECB理事会メンバーが5月2日の理事会で、政策金利を0.75%から0.5%に引き下げる投票を行う可能性を示唆したことだ。

いずれの出来事も、投資家の浮かれ気分を正当化するには程遠い。ECBのケースは分かりやすい。第1に、複数の有力メンバーが利下げに反対しているため、ECBが市場の期待を裏切る可能性は十分ある。第2に、ECBが行動を起こすとしても、0.25%ポイントの利下げは経済成長に何の効果ももたらさないだろう。第3に、これが最も重要な点だが、そんな小幅な利下げを実施するとすれば、米連邦準備理事会(FRB)や日銀、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)、スイス国立銀行(中央銀行)のような通貨供給量の拡大をECBが拒絶していることを裏付けるだけだ。金利を限界的にいじるよりも、ずっと大きな金融的インパクトをもたらし得る「非伝統的」政策を講じることを拒否しているわけだ。景気が悪化すればECBは利下げを迫られる、すなわち「悪い便りは良い便り」という考え方のおめでたさよ。

イタリアの政局はかつてないほど興味深く、複雑になっている。今週の一連の出来事による勝者は、強力な新ユーロ派であるナポリターノ大統領と、次期首相に決まった中道左派連合のエンリコ・レッタ氏のように見える。しかし実際のところ彼らは敗者で、真の勝者はベルルスコーニ氏だ。ナポリターノ大統領他、責任感のあるイタリアの政治家の宿敵であり、ドイツのメルケル首相他、一目置かれる欧州の政治指導者の大半から憎悪を集める人物だ。

直感に反するこの結論は、選挙劇の最中にあったイタリアで私が今週会った富豪や財界リーダーらに広く共有されている。この結論を理解するため、まずは大半の投資家と責任ある欧州の政治家が朗報と受け止めた出来事から見ていくことにしよう。

コメディアンのグリッロ氏率いる「五つ星運動」が「エリートによるクーデター」と揶揄したナポリターノ大統領の再選を受け、大統領は2月の総選挙で最大票を確保した中道左派の民主党(PD)から首相を選び、モンティ前政権の路線を踏襲しそうな親ユーロの実務派内閣を組織することが可能になった。

つまりイタリアには機能する民主的政権が発足し、欧州連合(EU)本部とドイツ政府が承認するモンティ路線を概ね受け継ぐことになる。その上この政府は少なくとも半年は安泰だろう。有力政党すべてが、現在のような混乱の再燃を防ぎグリッロ氏の躍進を抑えるため、次回選挙までに新選挙法を準備する必要性で合意したからだ。

このことは、2月選挙でのモンティ前首相の敗退とグリッロ、ベルルスコーニ両氏の予想外の健闘によって浮上した最悪のシナリオが根絶されたか、少なくとも先延ばしされたことを意味する。次回選挙まで、財政緊縮策を本気で転換させようとする試みは成されないだろうし、2月選挙でグリッロ、ベルルスコーニ両氏が主張したようなユーロ解体の脅威も遠のくだろう。金融市場が浮かれ、EU本部とドイツ政府が胸をなでおろしているのはそれゆえだ。

悪いニュースに移ろう。次期首相のレッタ氏は形式上、民主党メンバーだが、首相指名に至る陰謀とナポリターノ大統領の再選により、この党は壊れたも同然だ。この結果、イタリアにおいてグリッロ氏の無政府的反乱を抑えられる政治組織はベルルスコーニ氏率いる中道右派の自由国民(PDL)だけになった。

その上、ベルルスコーニ氏はレッタ氏の首相就任に協力したことで、若い中道左派指導者であるレンツィ・フィレンツェ市長の政治的命脈を断ってしまった。レンツィ氏は若く、人気があり、民主党を再生させる可能性を秘めていた人物だ。そしてベルルスコーニ氏から見て最高なのは、レッタ次期政権は議会で過半数を掌握しないため、ベルルスコーニ氏の個人的利益や政治路線と対立する行動を採ればすぐに首を切られる運命にある。

これらすべてが意味するのは、ベルルスコーニ氏が法的な免責状態を今後も享受し続けられるということだ──ベルルスコーニ氏が政治に関わり続けている最大の動機は、免責の確保だとの見方が一般的だ。さらには選挙法の改正を、自身の率いる政党に有利な内容に導く立場も確保した。

さらに好都合なことに、政権に加わらず裏で糸を引くことで、ベルルスコーニ氏はイタリアの経済的苦境の責任を負わずに済む。年末までに彼は、中道左派の親ユーロ実務派内閣とドイツが問題の元凶だという批判を、前回の選挙戦よりも効果的に展開できるようになろう。同時に、グリッロ氏の無政府的な五つ星運動がもたらしかねない混乱からイタリアを救う救世主として振る舞うことが可能になる。その頃、イタリアにおいて有効な中道左派政党は五つ星運動しか残っていない可能性がある。

従って欧州の金融市場が今週祝っているのは、イタリア政界の支配的人物としてのベルルスコーニ氏の驚くべき復活だ。つまり彼は、イタリアがドイツとEUから指示された経済条件に従うか、さもなくばユーロ崩壊の引き金を引くかについて、最終的に采配を振るう地位を奪回したことにもなる。ベルルスコーニ氏がおおっぴらにイタリアの大統領か首相に再選されていたなら、投資家はそんなに浮かれてはいられないはずだ。

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

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