March 19, 2013 / 4:52 AM / in 7 years

コラム:キプロス問題は欧州経済の一触即発状況示す=サマーズ氏

ローレンス・H・サマーズ(2013年3月18日)

3月18日、キプロスの金融支援に際して少額銀行預金者を救済しようという欧州当局の決断を取り巻く論争は、欧州において経済がどれだけぜい弱かを示している。写真は昨年10月、ニューヨークで撮影(2013年 ロイター/Carlo Allegri)

欧州経済の状況は、半年や1年、あるいは1年半前に比べればすっと心配の度合いは小さいと考えられている。欧州の政策担当者は、金融安定や成長について論じるよりもはるかに、米国を貿易や投資の協定に関する交渉のテーブルに乗せる仕事に取り組みたいと思っている。

しかし根拠のない自信は、それが必要な政策調整の圧力を弱めるとすれば、危険な要素になりかねない。

金融危機に関しては、人々の記憶と現実の展開に際立った違いがある。記憶の中では、破滅は集中的に発生する。しかし実際は、それぞれのパニックの間に一見沈静したように見える期間が挟まる形で展開する。1997年の韓国の危機から98年のロシアのデフォルトまでは8カ月、2008年のベアー・スターンズの実質破綻からリーマン・ブラザーズの崩壊までは半年の間隔があった。

では欧州は危機を抜け出したのか。いくつかの重要な信用スプレッド、特にスペインとイタリアのスプレッドが相当縮小したのは明らかだ。しかし市場環境が改善したとはっきりと解釈できる状況には程遠い。悲観的な投資家が欧州債券をショートにすることは、数々の規制によって制約されている。また規制によって欧州の銀行は国債をリスクフリー資産として扱え、それを担保にして欧州中央銀行(ECB)から市場よりも有利な条件で資金を調達できる。必要な場合にはECBが力強く介入して、債券保有者を救済すだろうという認識も存在する。病気の症状がいったん落ち着いた後は、治癒することもあれば、時には再発するケースもある。

欧州の大半の地域において最近心配な点は、株価と債券価格が同一方向に動く傾向が顕著なことだ。健全な諸国であれば、市場のセンチメントが改善すれば、リスクプレミアムの縮小と金利上昇に伴って、株価は上がり、債券は値下がりする。ところが、現在の欧州の大半のように不健全な経済では、債券がリスク資産のような姿で、センチメントの変化に対して株式のように動いている。

欧州は、なお深刻な問題を抱えている様相だと言っても驚くべきではないだろう。経済成長はずっと低調だ。ユーロ圏の域内総生産(GDP)は過去6年間、ずっと2007年の水準を下回っており、今年もほとんど成長しない見通しだ。アイルランドのように状況が好転しつつあると感じられる地域が出てくるたびに、フランスのように政治、経済面で政策の持続性への疑念が高まる場所が一方に現れる。

キプロスの金融支援に際して少額銀行預金者を救済しようという欧州当局の決断を取り巻く論争は、欧州において経済がどれだけぜい弱かを示している。人口100万人程度の国において、銀行預金のごく一部を金融支援に充当するという案がシステミックリスクの発生源になりかねないという事実からは、欧州経済が一触即発の状況にあることがうかがえる。

すべては政治的な不透明感によって悪化の度合いが増している。2月のイタリア総選挙は、イタリアの基準で考えてさえ、袋小路の結果をもたらした。スペインではスキャンダルと驚くほど高い失業率が悪影響を及ぼしている。フランスは自らの状況について多くの外部の専門家が騒ぐよりもずっと泰然自若としている。ドイツの主要な関心は、秋の選挙を控えて混乱を避けることにある。

選択肢が与えられれば、だれもが通貨同盟が崩壊するよりは、ある程度異例な経済状態に置かれる方が良いと考えるのはほぼ確実だろう。ただ、各国が偏狭な関心事項を追い求めていくにつれ、政治・経済状況が修復不能な地点まで悪化してしまうという深刻なリスクが存在する。

困難に陥っている大半の国で構造改革を続けることが不可欠だ。ユーロにとってより満足できる組織的な土台を築く作業も続けなければならない。成功に向けて重要なのは、(遅まきながらも)一部への恩恵が必ずしも全体の利益にはならないという経済政策におけるパラドックスを認めることだろう。

ドイツの政策担当者は常に、財政健全化と構造改革こそが同国を「欧州の病人」から今日の強い立場に押し上げた鍵だと指摘する。とはいえ、ドイツの輸出の伸びと膨大な貿易黒字は、欧州周縁国の借金のおかげだ。もし欧州の債務国がドイツの歴史上の修正路線を踏襲するなら、そこには彼らの生産物に対する外需増加を保証する戦略がなければ経済は行き詰る。単純に言えば、輸出は輸入なしに存在しない。これは巨額の貿易黒字を縮小する態勢が整ったドイツ経済から、あるいは成長や競争力を促進するECBの金融緩和から、もしくは欧州投資銀行などユーロ圏全体の投資基金の利用拡大から、もたらされるかもしれない。重要な点は、どんな債務返済の戦略でも、債務国の輸出需要を高める手段を提供しなければ成功しないことだ。

必要性を訴えるというのは戦略ではない。1920年代のドイツの経験を学習した人ならだれでも承知しているように、ある国に対して外需が伸びていないのに厳しい態度で多額の債務返済を求めるのは実行可能な戦略とは程遠い。

欧州の政策担当者や国際通貨基金(IMF)その他欧州の利害関係者は、金融危機の歴史とは機会の窓を閉ざすことの歴史だと認識する必要がある。新規の事業は、仕掛かり中の事業よりもわくわくする。そして賛否が分かれるような事態がある場合、政策担当者にとっては選択するよりも強制されて動く方がたやすい。なぜなら強制的な動きは、選択ではなく必要な措置とみなされるからだ。だから部外者は対立を避け、内部関係者は大勢に順応する。それは深刻な結果をもたらしかねない。

(ローレンス・H・サマーズ氏はハーバード大学教授。元米財務長官)

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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