[東京 8日 ロイター] - 米中通商協議の先行き懸念で米国株が大幅安となったことやトランプ米大統領の対中関税発言を受けて、8日の東京市場ではリスクオフムードが強まり、ドル/円が1カ月半ぶりに110円台を割り込み、日経平均株価も一時400円を超える下落となった。
市場関係者のコメントは以下の通り。
●ドルの下値余地拡大、105円も視野に
<CKキャピタル代表取締役 西原宏一氏>
令和の市場は堅調推移を期待する声が多かったものの、トランプ米大統領の対中関税引き上げ発言で、市場心理が急速に悪化している。
これまで大統領が「(対中交渉は)早晩合意に至る」などと発言していたわりに具体的な進展が見えないことを懸念していたが、やはり大統領が豹変(ひょうへん)した形となった。
直接協議が10日にかけて行われるようだが、時間切れはもう目前で、関税引き上げとなる可能性は極めて高い。そうなれば、リスクアセットである米国株の下値余地が拡大するとの見方から、ナスダックを筆頭に大きな調整が入るだろう。
テクニカル的には、トリプルトップになる可能性が高まったダウの下げが大きくなる可能性がある。
トランプ大統領の中国に対する強硬姿勢は、今後の日米通商交渉の難航をも予想させる。日銀の金融政策は円安誘導だと糾弾されるかもしれない。
ドルの下値は110.00円が目先のサポートだが、その水準を割り込めば105円台を目指して下値を模索する展開になるとみている。
●米の対中関税、新興国通貨安・米利下げのトリガーにも
<三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主席研究員 廉了氏>
米中通商協議が難航する中、米政府が中国製品に対する関税を10%から25%に引き上げる可能性については、既に表明している2000億ドル分のみならず、まだ明らかにしていない3250億ドル分にもあるとみている。
米中貿易摩擦の激化は中国経済を弱体化させ、新興国通貨全般にダメージを与えるだろう。
中国経済は最近の景気刺激策によって公共事業を中心に底上げされているが、民間企業の設備投資や個人消費は依然として脆弱であり、今年半ば以降は頼りない回復が失速する公算が大きいと考えている。こうした環境で、米国による制裁関税は中国経済の危うさを増長させるリスクが高い。
新興国通貨は、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを停止したこともあり昨年末から反発トレンドにあったが、中国経済が再度失速すれば、下落圧力がかかることは避けられない。
米国では、政治家からFRBに対して利下げのプレッシャーが高まってきているもようだ。FRBは政治的な圧力に屈したと市場に解釈されるのを避けるため、少なくとも今年前半は利下げを実施しないだろう。
しかし、新興国の状況が厳しくなれば、外部要因を理由に利下げをする余地も出てくる。
今年後半は米国の利下げが重要テーマの一つとなり、金利差縮小を背景にドル/円は年末までに105円程度まで下落する可能性があるとみている。
●米中協議は不透明、身動きとれず
<大和証券 チーフグローバルストラテジスト 壁谷洋和氏>
米中通商協議がどのような展開になるか見通せない中、身動きがとれない。米国株安の流れを引き継ぐ形で日経平均は寄り付きで大きく下げたが、そこから下げ幅を拡大しているわけではなく、米株先物も値動きがほとんど止まっている。米中交渉の動向を固唾を飲んで見守っている。
米国は中国の時間稼ぎにしびれを切らしており、これ以上、中国に時間の猶予を与えることは認めにくいだろう。米中首脳会談のスケジュールを詰めた上で通商協議に臨むのであれば関税引き上げの延期もあり得るだろうが、具体的な話がない中で単純に延期するという可能性は低そうだ。
中国の代表団が訪米するということは、(通商合意に向けて)ある程度の覚悟をもって臨むということかもしれない。一方、訪米を中止するということになれば、交渉の妥結の道は遠のく。その二者択一の状況だろう。
マーケットは、米国が対中関税を実際に引き上げることを完全に織り込めきれていない。半信半疑、五分五分とみているだろう。むしろ、希望的観測を含め、何とかまとまるのではないかという楽観的にとらえている向きも多い。
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