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第2のリーマン発生、金融規制改革でも不可避

 [ロンドン 10日 ロイター] 1年前のリーマン・ブラザーズLEHMQ.PKの破綻は、金融セクターが抱えるリスクの徹底的な見直しを求める声に拍車を掛けたという意味で、自動車レースの最高峰であるF1(フォーミュラ・ワン)の元世界王者である故アイルトン・セナ選手が亡くなった1994年の事故に例えられることが多い。

 9月10日、金融規制改革でも第2のリーマン発生は不可避との見方。写真はロンドンのリーマンオフィスを去る男性。昨年9月撮影(2009年 ロイター/Andrew Winning)

 セナ選手の悲劇的な死はレース規則の変更につながり、コース上での死亡事故がめったに起こらなくなるという効果をもたらした。

 だが各国政府は、金融規制の迅速かつ包括的な変更を成し遂げるという課題がさほど簡単には運ばないことが分かりかけてきている。

 これは、今後数年間にリーマンクラスの企業破綻が発生するリスクがなお残る、ということだ。ただ各国の当局は世界中に金融危機をまき散らさないため、次回は恐らくもっと決然とした対応をとることができるだろう。

 各国政府にとってリーマン破綻の中心的な教訓は既に明確になっている──将来起こり得るすべての危機を規制によって未然に防止しようとするのは無謀だが、危機の影響を限定する方法はあり、政府による救済策も必要だ。

 英国は、複雑でグローバルな銀行が立ち行かなくなったときの法的処理にかかわる悪夢をリーマン破綻によって目の当たりにした。財務省のマイナーズ金融サービス担当次官は銀行が銀行が構造を簡素化し、「生前遺言」を作成するよう望んでいる。

 同次官は「欧州連合(EU)全域で実施に向けて始動しなければならない。理論から実際の行動に移すときが来ている。効果的な取り決めのためには、簡素な構造が不可欠な前提条件だ」と話した。

 ロンドンの法律事務所、ハーバート・スミスのパートナー、パトリック・バッキンガム氏はこの発言について、「リーマン破綻の高度な複雑性が、必然的に、生前遺言という形での秩序だった清算計画を要求するきっかけになった」と説明する。

 銀行関係者は、リーマンの破綻を大きな転換点ととらえている。

 投資銀行業界の関係者は「リーマンは国際銀行界のセナ選手だったのか。イエスだ。システミックリスクを減じるため、規制にあらゆる変更が加えられるだろう。しかし学んだすべての教訓が政策の変更に反映されるかというと、一定程度に限られる」と語った。

 20カ国・地域(G20)首脳会合(金融サミット)は今年4月、金融監督・規制の強化で一致した。そしてリーマン破綻からほぼ1年後の今月24─25日に米国のピッツバーグで再び一堂に会し、銀行の資本増強の必要性や清算に関する取り決めの強化について協議する。

 しかし一部の指導者は公然と、改革のペースが遅過ぎる、あるいは気弱すぎると不平を漏らしている。世界規模で金融監督の共通した新たな枠組みを構築しようとする意気込みは、各国政府が規制変更に関する合意を取り付ける上で厳しい現実に四苦八苦する中、掛け声倒れに終わっている。 

 <総意>

 各国が金融機関救済に合計1兆ドル以上の公的資金支出を強いられたリーマン破綻と信用収縮の教訓は、核心となる部分で意見の一致が見られる。

 G20は特定の市場や金融機関だけでなく、金融システム全体のリスクを監視する必要があることを公に認めている。銀行に予備の資本を持たせようとする世界各国の動きと合わせ、こうした措置によって将来の危機の範囲は限定される可能性が大きい。

 G20はまた、判断を歪めかねない利害の衝突を回避するため、格付け機関の規制を望んでいる。ヘッジファンドの監督や市場での過度なリスクテークに拍車を掛けるような銀行の過剰報酬の抑制も課題に掲げている。

 しかし、リーマンの教訓を行動に移し替えるのが困難であることは、景気が回復し始め、改革の緊急性が薄れてくるとともに各国政府が論争の種となる大改革への意気込みをなくしていることなどから明らかだ。

 例えばEUと米国は、システム全体のリスクを監視するための新機関を創設する計画だが、EUの指導者らは、欧州システミックリスク理事会(ESRB)が問題を見つけた場合でも、各国の主権を維持するために拘束力のない勧告のみをESRBに与えるよう強く求めている。

 米国では将来のリスクを監視する米連邦準備理事会(FRB)の正確な役割についての激論がなお続いている。ハーバード大学法科大学院の国際金融システムプログラムディレクターであるハル・スコット教授は「米国の規制構造は無秩序な状態にあり、改革提案は部分的で、それでさえも激しい抵抗を受けている」と指摘。「構造の大きな変革が成し遂げられるとは思わない。適切な規則と間違ったシステムという形で終わる可能性が高い」と話した。

 大手米銀の関係者は「新しいEUの監督機関がスペインの住宅市場は過熱していると言ったら、留意されるだろうか。FRBの新たなシステム監視機能なら、米国の資産バブルの発生にいち早く対応しただろうか」と問いかける。景気を悪くしたい政府などないため、双方のケースとも疑う根拠は十分と同関係者はみている。

 <メカニズム>

 破綻した国際的金融機関を迅速に清算する仕組みを構築するというG20の公約も、実施の困難さが証明されている。国内の債権者が海外の債権者より不利益を被ることへの恐れもあり、各国は仕組みの詳細に一々口を出している。

 国際的な銀行は国による税制や規制の違いを有効利用しようとするため、極めて複雑な構造になっており、これら2つの問題に対して、より協調したグローバルなアプローチが必要だが、難しい課題だ。

 ロンドンの法律事務所、クリフォード・チャンスのパートナー、サイモン・グリーソン氏は「銀行破綻時のための特別な法体制の必要性を今やだれもが認識している」と指摘しつつ、「法的および実践的な意味合いでの必要性は受け入れられているが、政治的に実行可能かどうかは疑問だ。先は長い」と述べた。

 規制改革のもう1つの分野である銀行の最低自己資本基準については今月、ガイトナー米財務長官が欧州諸国の支持しているバーゼル2規制の置き換えを実質的に呼び掛けたことで混迷状態に陥った。

 欧州からの圧力を受け、米国はバーゼル2の導入計画を再確認したが、銀行資本規制の強化は全面的な効力を発するまでに3年以上かかり、新たに要求される水準の実際的な詳細もまだ合意には至っていない。

 各国政府はこれまで、多くの国で政治的に人気の取りやすい事柄であるにもかかわらず、銀行業界の報酬の制限でも合意できずにいる。

 一部の国は、そうした規制が大きな税源である国内の金融セクターを損なうことを恐れ、一部の国が厳しい規制を採用し、他の国がそうでなければ、銀行ビジネスが規制の緩やかな金融センターに流れていくのではないかと懸念している。

 従ってリーマン破綻の遺産は、寸分のすきもないグローバルな共通ルールというより、国と地域の規制体制のつぎはぎ的な改革と言えるかもしれない。

 監督当局は、金融機関の破綻によるダメージの抑制に向けて一段と積極的に行動し、影響が世界全体に波及しないように努めるだろう。しかし破綻は今後も起きるだろう。

 ロンドンの銀行関係者は「監督当局が投資銀行の破綻を止めたりはしないだろう。しかし、影響の規模はそれほど大きくないだろう」と予測した。

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