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焦点:金融界を震撼させる英FSA流動性強化策、投資銀行業は後退へ

 [東京 17日 ロイター] 100年に一度の危機を経て、世界の金融監督当局は規制強化に動いているが、なかでも英金融サービス機構(FSA)が10月に公表した流動性基準強化試案は、徹底的な流動性リスク管理を金融機関に求めるもので、金融界に波紋を呼んでいる。

 これが導入されれば、短期債務に依存した欧米金融機関のビジネスモデルは軌道修正を余儀なくされ、金融市場にも少なからぬ影響を及ぼすことが予想される。

 英FSAのヘクター・サンツ最高経営責任者は9日、銀行その他の金融業者は金融危機において自らが果たした役割について責任を負うべきだとし「ビジネスモデルの本源的な変革の必要性を、金融機関の経営陣がどれほど真摯に受け止めているのか、個人的にはまだ確信が持てない」と苦言を呈した。

 英FSAの流動性強化策は、金融機関に安定的な長期資金の調達を促す一方で、短期債務を圧縮し、その残高については資金繰り悪化に備えて十分な適格資産(国債)の保有を要請する。

 金融機関にとっては、確実にコスト増となり、レバレッジ・ファイナンス(小さな自己資金で大きなポジションをとること)は抑制される。

 「今後は、各々の銀行が巨額のファンディング・リスクを背負って利益を最大化させるというビジネスモデルは立ち行かなくなるだろう」と在京外銀のマネージャーは言う。

 英FSAのターナー長官は2日「トレーディング・ブックに対する資本規制を根本的に見直し、リスクの高い自己勘定取引については保守的な規制が必要だ」と述べている。

 これに対して金融界では「FSAの規制は投資銀行業務を全否定するもの」(欧州銀)との意見や「今まではレバレッジ・ファイナンスを1、2年続けると(金融商品等に)バブルが発生したが、今後はコスト高になるので、ポジションを減らすしかない」(別の外銀)との声も聞かれ、金融界では反発や諦念が渦巻いている。

 <試案の概要>

 英流動性強化策は、金融機関における10のリスクドライバー(短期の市場性負債等のポジション)特定し、これらに対して十分な流動性バファーを積み上げることを金融機関に求める。

 これらのポジションが、短期金融市場の機能不全等のストレスシナリオにさらされた場合にも、資金繰り倒産に陥らない程度に潤沢な流動性を確保することが至上命題となる。

 英FSAが想定するのは、期日を迎えた大口預金が延長されず、証券担保の資金融通(レポ取引)もできず、自行が格下げされ、為替市場でもフォワード取引を介した資金調達の道も閉ざされるという究極の流動性枯渇状況だ。このシナリオが2週間継続し、その後3カ月間も、特定の資産が現金化できない等のストレス環境が続くと仮定する。

 試案では、一律の数値基準は設けていないが、各行が12月から段階的に流動性強化策を導入し、英FSAの査定を経て、来年6月から個別行が流動性ガイダンスを導入する予定だ。

 英FSAの見積もりでは、流動性強化策のもとで、金融機関が短期市場性資金への依存度を低下させなかっった場合、流動性バファー(国債)の不足額は最大6200億ポンド(約93兆円)に達し、バファーの新規保有により発生する追加的コストは92億ポンド(1兆3800億円)となる。

 <邦銀への影響>

 日本では、1997年に三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券が相次いで資金繰り倒産した経験を経て、金融機関の日々の流動性管理について日銀による綿密な流動性モニタリングが機能している。英FSAの強化策も、日本のモニタリングを参考に組み立てられたとの見方もある。

 しかし、ロンドンに拠点を置く邦銀各行は、流動性強化策のうち、特に“self-sufficiency”ルールについて気をもんでいる。これは、流動性確保について、本店や他の支店からの資金融通に頼らず、自前で調達・確保するルールだ。

 政府筋によれば初期の試案では英国で営業する金融機関は国内外とも例外なく適用が前提だったが、外国規制当局の反論を踏まえ、最終試案では、本店のある当該国の規制が英規制と100%同じでなくても、ほぼ同一とみなす”broad equivalence”のことわり書きが付け加えられた。

 日銀は、邦銀の円貨にかかわる流動性リスクについては、預金の割合が高いことや、売却や担保差入によって資金化可能な有価証券を大量に保有していること、偶発債務等の規模が小さいことなど、「全体として、流動性リスクに対し頑健な資産・負債構造(オフ・バランスを含む)を有している」と評価する。

 一方で、外貨については、「運用・調達のギャップが高水準で推移している」ものの、「短期の外貨ポジションは全体として保守的に運営されている」と判断している。

 ただ、外銀がロンドンで円のブックを持つことや、邦銀が東京でドルのブックを持つことなど、マザーカントリー以外での外貨保有は「流動性強化策の基本理念と相容れない」(市場関係者)との指摘も聞かれる。

 <市場インパクト>

 英FSAが適格な流動性バファーとするのは、ダブルAマイナス以上の格付けを有する国債、国際機関債、当座預金等のみで、通貨は英ポンド、ユーロ、米ドル、円、スイスフラン、デンマーククローナ、ノルウェクローナ、スウェーデンクローナ、カナダドル、豪ドルとなっている。

 規制導入のインパクトについて、「大型公募増資ラッシュと先進国の国債イールドの低下が市場的な帰結となるだろう」(金融機関)とされ、金融機関からの需要で主要国の国債利回りが一段と低下することが予想される。

 英10年物国債利回りはリーマンショック直前の5.3%付近から3月に一時3%を割り込み、現在は3.75%付近となっている。

 米格付け会社ムーディーズは、今後3年間に期落ちする世界の金融機関の短期債務は7兆ドル(623兆円)以上にのぼり、これを長期債務に置き換えるとすれば、金融機関の利益は圧縮され、長期債の発行コスト増にもつながると分析している。

 <英政治、国際金融>

 英国では労働党政権のもとでは、英FSAの権限が強化し、保守党政権になるとイングランド銀行(BOE)がより大きな権限を持つ傾向がある。

 野党保守党が7月に発表した改革案では、英FSAは全廃され、BOEが金融機関監督についての全権を掌握する内容になっており、英FSA案の持続可能性を案じる見方もある。

 ただ、リーマンショックの反省に立ち、世界の監督当局は流動性強化で足並みがそろっており、欧州では英国と同様の規制をフランスが導入予定のほか、EUも資本強化ディレクティブ(CRD3)を発表し、20カ国財務相・中央銀行総裁会議(G20)では流動性強化の議論が進んでいる。FSA案の実施が滞っても世界の潮流は変わりそうにないのが現状だ。

 (ロイター日本語ニュース 森 佳子)

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