[東京 16日 ロイター] 機械メーカーの受注増勢傾向が続いている。中国を中心にアジアでの需要が拡大しているためだ。中国向けの売り上げは金融引き締め策による影響が懸念されているものの、足元では勢いに衰える気配は感じられない。
さらにストライキ問題に端を発した中国国内の賃上げの動きから、省力化、自動化のニーズが強まるとみられ、機械株はその関連銘柄として好調を持続するとの見方も出ている。
機械メーカーの受注回復は、これまでおう盛な中国における需要に支えられてきたため「中国の輸出先として2割を占める欧州経済の先行き不透明感や、中国国内の金融引き締め策に対する懸念などから、他のセクターと同様に機械株も大幅な値幅調整を余儀なくされた」(準大手証券情報担当者)という。
その風向きが、外為市場におけるユーロ安の落ち着きとともに、足元で変わってきた。10日に中国税関総署が明らかにした5月の同国輸出は前年比48.5%増と、予想以上に大幅な伸びだった。この発表を受け、欧州の債務危機が中国の経済成長を圧迫するとの懸念が和らいだ。さらに日本工作機械工業会が9日発表した5月工作機械受注額(速報値)は、前年比2.9倍の804億2600万円となり、6カ月連続の増加となった。内訳は内需が前年比2.3倍の286億1400万円、外需が前年比3.4倍の518億1200万円。外需の急拡大には中国向けの好調が背景にあった。
たとえばツガミ6101.Tでは、5月の月間受注高が30億円と昨年11月時点の2倍を超す水準を確保。「中国や周辺アジア国の需要が拡大していることが大きい。当面は増加傾向が続くとみられる」(広報IR担当者)という。電子機器や自動車など幅広い分野で生産が拡大しており、各社に受注が舞い込み、操業度が上向いている。好調なのは工作機械だけではない。繊維機械大手の津田駒工業6217.Tでは、中国向けにウォータージェットルームが好調に推移している。この製品は、ダウンジャケットの生地やスポーツウェアなどを製造する際に使用されるが、引き合いが活発化している要因として、会社側では「(中国における衣料など繊維関係は)輸出も好調である上、所得水準の向上から内需の拡大も読める状況だ」(広報担当者)と指摘していた。
もっとも、足元の受注は好調ながら「金融引き締め策を強化した時の失速が怖い。かつての日本のような好況期の作り過ぎによる反動から、中国の設備投資が急速に落ち込むリスクも考える必要がある」(岡地証券・投資情報室長の森裕恭氏)といった見方も少なくない。業界からも「現状はまったく心配はないものの、金融引き締めが加速した場合、夏以降に受注した案件が実行されるかどうか不安も出てきそうだ」(津田駒工業)といった声もあった。
このうように先行きへの不安が生じている一方で、それを打ち消す材料もある。中国のストライキ問題とその後の賃上げ受け入れの動きだ。労働争議の多発化によって「中国の賃上げの流れはもはや避けられない。そのため中国に工場を持つ世界中の企業にとって、工場自動化が今後の競争力を左右する大きなファクターとして浮上している」(大和証券投資情報部)という。
株式市場でも「半導体、液晶などの回復がけん引していることに加え、機械株は(中国の)省力化、自動化の観点から注目できる。この観点から受注が拡大が見込めそうだ」(証券ジャパン・調査情報部副部長の大谷正之氏)との指摘もあり、ファナック6954.Tや安川電機6506.Tなどのロボット関連株が直近の相場で人気を集めた。
ロボットメーカー向けに精密減速機を供給していることを手掛かりに買われ、16日の株式市場で年初来高値を更新したナブテスコ6268.Tでは「精密機器事業はピークの9割まで回復している。日本企業だけではなく(中国で)現地生産を行っている欧州メーカーからも引き合いが活発化している状況」(広報担当者)としている。安川電機6506.Tは、今年度から上海にある現地法人にロボット事業部を新設した。ここを拠点に「国内メーカーだけではなく、中国に進出している欧米の自動車メーカーなどにも働きかけ、販売・サービスを強化していく」(広報担当者)という。
ただ、工場の自動化を急げば、中国国内における雇用問題に大きな影響を及ぼす。ある機械メーカーのIR担当者は「流れとしては自動化が進むことが想定される」とした上で「自動化、省力化が進むことで中国の雇用問題が大きくなった場合、政府がどう動くかなど不透明な部分は残る」と指摘していた。
また、労働争議や賃上げの問題に関しては、中国に現地生産拠点を設ける当の国内機械メーカーにとっても人ごとではないが、現時点では「日本の社員と中国現地雇用者における賃金の差葉かなり大きな開きがある。仮に賃金上げが実施されても、影響は大きくないとみられる」(ツガミの広報IR担当者)との声が出ていた。
(ロイター日本語ニュース 水野 文也記者)