[ロンドン/オタワ 18日 ロイター] 6月26─27日にカナダのトロントで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議は、世界共通の銀行課税構想を正式に断念し、銀行により厳格な資本確保を求める新自己資本規制の策定や、税金を使わない銀行破たん処理策に重点を置くとみられる。
6月初めに韓国の釜山で開催されたG20財務相・中央銀行会議は、共通の銀行課税構想について合意を断念した。これを受け、G20の首脳は、将来の銀行救済費用を金融セクターが負担することにし、実施方法は各国に委ねることで合意すると予想される。
国際通貨基金(IMF)の銀行課税案は、日本、カナダ、ブラジルなどから、金融危機下でも銀行に公的支援をする必要がなかったとの主張が出て宙に浮いた状態。
リプスキーIMF筆頭副専務理事は14日の週、G20首脳会議は共通の銀行課税では合意しないものの、金融セクター自らが救済資金を負担するという原則は支持するとの見方を示した。
日本のある政府当局者は、金融セクターの破たん処理への対応策はすでにとっているとし、共通のルールは必要なく、各国がそれぞれの事情に応じて対応できるようにすべきとの考えを示した。
欧州連合(EU)は17日の首脳会議で、銀行課税について世界的な合意ができなくても、導入を目指すとの認識で一致した。
Centre for International Governance Innovation(カナダ)のエコノミスト、Daniel Schwanen氏は「いざという時には各国の裁量で実施という方向で合意だと思う」と述べた。
<バーゼルIIIの不透明感払しょくへ>
各国間で温度差のある銀行課税問題がG20でさほど重要視されない見通しに、政策当局者や監督当局者は胸をなでおろしているだろう。
トロント首脳会議は、危機対応の柱である銀行の資本・流動性規制の強化に向けたバーゼルIII推進に集中しやすくなる。
バーゼルIIIの年内とりまとめ、11月のG20首脳会議での承認、2012年末までの実施という予定は厳しい情勢。
そこで、トロント首脳会議は、業績が改善している銀行に新規制への対応が大変という言い訳をさせないために、最終案の概要を公表することで合意する可能性がある。
G20の間には、バーゼルIIIの内容をあらかじめ示すことは、欧州が銀行のストレステスト(健全性審査)結果を公表する動きとともに、市場に影を落としている不透明感を払しょくできると同時に、バーゼルIII順守のための時間的猶予が少ないとの銀行側の不満を封じることができるという思惑がある。
カナダ銀行協会のナンシー・ヒューズ・アンソニー会長は、銀行はバーゼルIII導入までの移行期間に注目すると指摘。
「私の希望は、トロントサミットが、銀行課税構想に邪魔されることなく、改革プロセスが進んでいるという信頼の構築につながること。それが最も重要だ」と述べた。
トロント首脳会議は「大き過ぎてつぶせない」問題への対応に関する監督当局の勧告策定の正式なガイダンスでも合意する公算。
<国際協調を再確認へ>
トロント首脳会議は、ドイツが単独で空売り規制に踏み切ったことで市場が混乱したことを踏まえ、ルール作りで協調する必要性をあらためて確認する場になる見通し。
ストロスカーンIMF専務理事は14日の週に、「時々、モメンタムの低下が心配になる。ドイツの単独行動で市場が混乱し、各国首脳はいまや国際レベルで共に行動しようという意欲を失いつつある」と述べた。
G20が昨年約束した金融規制改革は、一定の進展をみせているが、国によって違いが生じるのは避けられず、市場に歪みが生じる可能性がでてきている。米国では、1930年代以来最も大々的な金融規制改革案が成立する見通しとなっているが、それにはEUがすでに反対を表明している要素が盛り込まれている。
それでも、規制をめぐる足並みの乱れに対する懸念は行き過ぎとの見方も一部にある。
Centre for International Governance InnovationのSchwanen氏は「始まりの環境は公平ではなかったが、このプロセスの終わりにはより公平になるだろう。透明性や標準という意味で一定の水準ができる」とみている。
(Huw Jones/Louise Egan記者;翻訳 武藤邦子;編集 吉瀬邦彦)