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円売り介入は「相場のひずみ」を拡大、円の高値切り上げる可能性

 [東京 31日 ロイター] 15年ぶりの円高進行を目前に、政府内では円売り介入も辞さない気運が高まっている。人為的なドルの押し上げは、一時的に奏功するかもしれないが、相場のひずみを大きくし、自律反転を遅らせ、円の高値を一段と切り上げる可能性もある。

 8月31日、人為的なドルの押し上げは一時的に奏功するかもしれないが、相場のひずみを大きくし、円の高値を一段と切り上げる可能性もある。写真は1万円札。2008年10月撮影(2010年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

 菅首相は27日、「経済情勢について」とする文書を公表し、その中で「為替市場の過度な変動は経済・金融の安定に悪影響を及ぼすものであり、私としては重大な認識を持っている。必要な時には断固たる措置を取る」とした。同様の表現は30日に発表された経済対策の基本方針にも盛り込まれ、政府高官の発言でも繰り返されている。

 「断固たる措置」イコール円売り介入、が市場の認識だ。

 <為替介入の相場力学>

 しかし、為替市場という自由な取引に当局が介入し、相場の長期的な安定がかえって阻まれるという過去の事例は枚挙にいとまがない。

 最近では、スイス国立銀行(中央銀行=SNB)の為替介入が話題にのぼった。スイス中銀はスイスフラン高によるデフレリスク回避を名目に、昨年から大規模なスイスフラン売り介入を継続し、スイスの外貨準備は1年強で5倍以上に拡大した。だが、介入は奏功せず、1―6月期決算で28億スイスフランの損失を計上したほか、6月に介入打ち止め宣言をした後も、前例のないスイスフラン高が進行している。

 31日の東京市場ではユーロ/スイスフランが1.2934まで下落し、スイスフランは対ユーロで過去最高値を更新した。SNBの介入で市場は自律均衡点を見失った。

 ドルの下落局面では、当局のドル買い介入がなければ、市場が自律的に均衡点を模索し、ドルの現在価値から、例えば10%下落したところで、ドルが止まることが考えられる。しかし、ドル買い介入やその期待感は、実需のドル売りを遅らせ、投機のドル買いを促進するため、潜在的なドル売り需要を拡大し、介入がなかった時に比べて、市場の均衡点は下ぶれする。介入の規模が大きいほど、当局は相場の自律反転能力をそぎ、相場のひずみを大きくし、ドルの振れ幅を拡大する。

 <円高対策は円高の呼び水>

 円高対策も、介入と同じような「相場のひずみ」をもたらしている。

 前日の外為市場では、ドルが日銀の追加金融緩和期待から一時2週間ぶりの高値となる85.91円まで上昇したが、金融緩和策が予想の範囲内に収まったことによる失望感から、84円半ばまで急反落した。市場では、当面の下値メドとして、8月24日につけた15年ぶりの安値83.58円が意識されている。

 「昨日の円相場の動きから分かるのは、一連の追加金融緩和観測を受けて円が売られていたのは投機的な動きだったということだ。日銀が乾いた雑巾を絞るような追加金融緩和政策を行ったところで、市場に影響を与えることはできないということが明確になった」とJPモルガン・チェース銀行債券為替調査部のチーフFXストラテジスト、棚瀬順哉氏は言う。

 「このようなことを繰り返せば、海外短期筋にいたずらに円ショート・ポジションを作らせ、それが損切られる時により急激な円高を発生させるという悪循環が発生する可能性もある」と同氏は警告する。

 一方、日銀の追加的金融緩和によるドル高効果を期待した実需筋はドルを売り遅れている。

 30日の市場では、日銀の追加緩和期待から、本邦輸出勢は目先のドル売りターゲットを86円以上にシフトアップしたが、ドルの反発は85.91円までにとどまった。31日の市場では「(ドルを)売りそびれた輸出企業の焦り」(大手銀)を背景に、ドルが84円台の前半まで下落した。

 <円売り介入の効き目> 

 為替市場では、ドルが83円半ばを割り込み、日経平均が8500円をうかがう局面で、介入が実施されるとみる向きが多い。

 一般的に為替介入はマーケットのポジションが一方向に傾いている時に実施するのが最も効果的とされるが、実際の為替市場ではポジションの大きな傾きが起きていない。

 野田財務相は31日、足元の為替の動きは一方向に偏っている、と指摘したが、為替市場は異なる見方をする。

 「現状ではポジションはこなれている。個人はドルを含む外貨ロングで下がったら買いのスタンス、一方、インターバンクやファンド勢は上がったら売りのスタンスで、たとえ介入が実施されたとしてもドラマチックな展開はないだろう」と大手邦銀幹部は予想する。

 「95円台から85円台に来るまで4カ月間かかっているが、この期間に、パニック的にドルが売られたことは一度もなかった。ドルは顕著な戻り(反発)局面もなく、ジワーッと売られてきている」(同)とし、15年ぶりの円高水準でも、市場に過熱感はないとした。

 <投機筋の弱体化>

 政府・日銀は2004年3月16日を最後に6年5カ月間、為替介入を実施していないが、当時と現在とは、投機筋の勢力に大きな変化が起きており、円相場の今後の展開にも影響を与えそうだ。

 「投機筋も今は弱り気味だ。グローバル・マクロのリターンは悪化し、以前に比べ投機筋が資金を借りにくい状況で、リスクテイクも自ずと抑制されている。クロスアセット取引では、債券と株価が同時に下がるなどアービトラージも難しい」とバークレイズ銀行チーフFXストラテジストの山本雅文氏は言う。

 リターンの低迷や、リスク許容度の低下、資金調達コストの上昇、資金のアベイラビリティーの低下など、投機を取り巻く環境は厳しくなっている。

 「投機筋は短期で勝負するしかなくなっている。「断固たる」というメッセージで円買いを仕掛ける一部のファンドが急にポジションをカバーしたのは象徴的だ」と山本氏は言う。

 円売り介入は一度実施したら「米景気の2番底懸念が後退し、長期金利の低下が終わるまでやり続けなければならないだろう」(外銀)との声も聞かれるが、投機勢力との関連で、これまでとは異なるドル/円相場の展開があるかもしれない。

 (ロイターニュース 森佳子記者)

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