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ロイターコラム:米長期金利の動向が、市場の未来を指し示す

田巻 一彦 ロイターコラムニスト 

 9月1日、米長期金利の推移に注目していれば政府・日銀のマクロ政策の行方を予見でき、市場の未来をより早く展望できる。写真は米国の国旗。2007年10月撮影(2010年 ロイター/Scott Audette)

 [東京 1日 ロイター] 金融市場には、ドル/円の動向に一喜一憂する声が圧倒的に多いが、もっと注目度を上げるべきところがある。米長期金利(10年米国債利回り)の動きだ。

 米長期金利の推移に注目していれば、政府・日銀のマクロ政策の行方を予見でき、市場の未来をより早く展望できるだろう。それは、なぜだろうか──。

 たとえば、日本政府が頭を悩ませている株安を考えてみよう。その要因として市場が大きく意識しているのが円高だ。円高は、政府・日銀が対策を小出しにしているからだ、との声が出ているが、実態は違う。根っこにあるのは米景気の先行き懸念と、米連邦準備理事会(FRB)の繰り出すとみられる追加緩和が市場に与えるインパクトへの思惑だろう。

 そこで注目されるのは、米長期金利の推移だ。31日のNY市場で10年米国債利回りは、2.5%を下回り2.470%まで低下して取引を終えた。米長期金利の低下は、日米金利差の縮小という結果をもたらし、31日のNY市場でドル/円は一時83円後半まで下げ、1日の東京市場でも84円前半と円高バイアスがかかり出した。

 円高が進めば、日本株下落を通じて企業経営者や個人投資家のマインドを冷やし、国内景気の下押し圧力増大となって跳ね返ってくる。8月30日に臨時の金融政策決定会合を開催し、追加緩和措置を決めたばかりの日銀にとっても、円高が現状からさらに一段と進み、この経路での景気失速懸念が急速に高まれば、黙って見過ごすわけにはいかなくなるだろう。

 このようにみてくると、為替ほどには注目されてこなかった米長期金利の動向にスポットをあてる必要性が分かるのではないだろうか。さて、米長期金利の今後の展開はどうなるのか。

  <FRB、追加緩和へ明確にかじ>

 大きなヒントは、最近発表された米経済指標の悪化傾向にあると言える。2010年4─6月期の米国内総生産(GDP)改定値はプラス1.6%で、2009年10─12月期のプラス5.6%と比較すると、大幅に減速している。8月中旬の米新規失業保険申請件数も50万件と予想外に増加。7月の米新築住宅販売は年率換算で27万6000戸と過去最低の水準に落ち込み、7月米中古住宅販売は年率換算で383万戸と15年ぶりの低水準を記録した。

 一方、米ジャクソンホールで8月27日、バーナンキFRB議長は景気回復の勢いは予想よりも弱かったと述べ、必要に応じて一段の景気刺激策を取る用意があるとの見解を示した。米市場の一部では、具体的な踏み込みがなかったとの見方が浮上したが、私はバーナンキ議長が、追加緩和へ明確にかじを切る方針を示唆したと考える。これまでのジャクソンホールでの講演で、これほどまでに真正面から金融政策の今後の動向に言及したことはなく、金融政策を正式に決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)を前にして、異例ともいえる踏み込んだ発言が相次いだからだ。

 実際、8月31日に発表された8月10日のFOMC議事録で「見通しが一段と弱まった場合、FOMCは追加刺激策の実施に向け、可能な措置を検討する必要があるだろう」との見解に立ちいたったことを明らかにしている。そこでは、経済は予想よりも弱いとの認識も示されている。足元ではさらに悪化を続ける経済データの発表が続いており、9月21日のFOMCにおいてバーナンキ議長が強い指導力を発揮し、追加緩和に消極的なFOMCメンバーを説得し、何らかの追加緩和措置が決定される可能性はかなり高まっていると判断できる。

  <米長期金利は低下へ、2%の可能性も>

 8月27日のジャクソンホールでの講演で、バーナンキ議長は将来の金融政策の選択肢として、4つの緩和手段を明示した。その中では、いわゆる時間軸効果を発揮しているFOMC声明の表現変更などに加え、証券の買い取りの増額、つまり米国債買い取りの増額が打ち出されている。仮に追加緩和が決断されれば、米国債買い入れ増などの決定を下す可能性が高いだろう。

 以上のような前提に立って今後を展望すると、弱い経済指標が出るにしたがって、米長期金利は、低下傾向を続けていくだろう。市場は、米経済の失速懸念を深めれば深めるほど、金利低下方向へとマネーをシフトさせるとみられる。市場の一部には、米長期金利がリーマンショック直後に記録した2%近辺まで低下する可能性を想定する声もある。この水準までの長期金利低下も、あながち大げさな予想と言えないと私はみている。

 米長期金利が低下を続ければ、2.1%まで低下してきた10年独連邦債利回りも、一段と低下圧力を受ける。すでに1%を割り込んでいる日本の10年最長期国債利回りにも、大きな低下圧力がさらにかかってくると予想される。米、独、日の国債にマネーが流入し、株式市場などにマネーが入りにくい環境が続くという見立てだ。

  <介入に米の支持取り付けか、日銀は国債買い増しに消極的>

 すでに指摘したように米長期金利の低下は、日米金利差の縮小を通じて、ドル安/円高の材料として意識されやすい。ただ、日本政府がドル買い/円売り介入に対する米国の支持を取り付けたとの観測もあり、市場にはこれまでにも増して介入警戒感が強い。この介入警戒感がどこまで効力を持つかによって、政府・日銀のその後の対応を変わってくるだろう。

 他方で、日銀がFRBのように国債買い入れの増額を早期に決断する可能性は、相当に低い。白川方明日銀総裁が30日の会見で示した見解をみても、国債買い入れ増への抵抗感を強く示していた。したがって介入で大幅な円高を当面、阻止した場合、日銀の対応は、市場が期待している大幅な資金供給の増加ではない別の対応になる可能性がかなりありそうだ。

 そうした中で、じりじりと下がって来る米長期金利の影響が、市場全体にジワリと広がっていくことになると私は予想する。しばらくの間は、米景気失速懸念とFRBの追加緩和観測を背景に、マネーは米国債市場に流入しやすい地合いが続くだろう。

  <米が紙幣増刷に踏み出せば、長期金利は急上昇>

 だが、別の要素もある。その一端は、27日のNY市場での米国債市場で垣間見えた。その日、米長期金利は前日の2.4%台後半から一気に2.6%台後半まで上昇した。市場では、バーナンキ議長の講演で、具体的な緩和策実施への言及を期待していた参加者が、具体的な言及がないために米国債を売ったとの見方が広がっていた。

 参加者の一部では、バーナンキ議長が4つの選択肢の中でインフレターゲットを1つの方策として挙げたことに、将来の紙幣増刷の可能性をかぎ取り、米国債の中で長期ゾーンを中心に売りが出たとの声もあった。実際、ジャクソンホールでのイベントを前に、今回の会合では、紙幣増刷の可能性についても意見が交わされるとの観測も出ていた。

 もし、FRBの国債買い入れ規模が大幅に膨らみ、その先に紙幣増刷のような魂胆があるとマーケットが感づけば、米長期金利は低下から一転して、急上昇するだろう。

 米長期金利の動向は、市場の未来を展望するうえで、何にもまして重要なヒントになる。

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