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G20後にドル安が進行、米金融緩和による「為替操作」も話題に

 森 佳子記者

 10月25日、市場では、米国の量的緩和がドル安を招くだけでなく、インフレ待望論に基づいているとの見方も浮上し、ドル売り安心感を助長。写真は米ドル紙幣。ソウルで2008年10月撮影(2010年 ロイター/Lee Jae-Won)

 [東京 25日 ロイター] 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は23日、通貨安競争を自制すべきとの認識を共有する声明を採択し、中国に為替相場の切り上げを促した。一方、中国の通貨政策批判の急先鋒となっている米国自身の量的金融緩和がドル安を促す「為替操作」に当たる、と批判する声が上がった。

 市場では、米国の量的緩和がドル安を招くだけでなく、インフレ待望論に基づいているとの見方も浮上し、ドル売り安心感を助長した。ドルは一時80.65円まで下落し、15年半ぶりの安値を更新した。

 <ドイツ対米国>

 ドイツのブリューデレ経済技術相は23日、米国の流動性拡大策は為替操作に当たると批判した。

 同相は「(G20会議では)米国の金融緩和策に対する批判が出た。私は議論の中で、それは間違った方法であることを明確にしようとした」と述べた。 さらに「私の見方では、マネーの量を過度に、いつまでも拡大することは、為替相場を間接的に操作することになる」と指摘した。

 ガイトナー米財務長官は、ブリューデレ独経済技術相の発言に対してコメントを控える一方、「米国の政策は、強いドルを支えることである」とあらためて表明した。

 同長官は18日にも、「この国で(ドルの切り下げが)起きることはない」とし、「強いドルの信頼性を維持するために努力しなければならない」と述べ、ドルが世界の基軸通貨としての地位を失う可能性は「われわれが生きている間はない」と断言した。 

 <インフレ待望論>

 しかし、米国が量的緩和で大量のドル紙幣を放出する一方で、「強いドル政策」を主張するのは、独経済技術相のみならず為替市場参加者にとっても違和感があるようだ。

 G20明けの25日の東京市場では、ドルが対ユーロ、対円で軟調な展開となった。ユーロは4日ぶりに1.40ドル後半まで上値を伸ばし、ドル/円は再び80円後半に下落し、15年半ぶり安値をつけた。

 米連邦準備理事会(FRB)は11月2―3日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)で追加緩和策を決定すると予想されており、バーナンキFRB議長も先に、失業率の高さとインフレ率の低さは、さらなる措置が必要であることを示しているとの見解を明らかにした。

 G20声明には「物価の安定を達成し、それによって回復に貢献する適切な金融政策を継続する」とあり、「米国は追加緩和への道程を確保した」と野村証券金融市場調査部の外国為替アナリスト、池田雄之輔氏は指摘している。

 他方、市場では、ドル安による貿易振興策よりも、量的緩和の推進によるインフレが米国の最終着地点、との見方も出ている。

 運用会社のファンドマネージャーは「量的緩和政策の背後には、明確なインフレ待望論がある。インフレになれば財政赤字の返済負担は減るが、日本や中国のような対米債権国にとっては、ドル安で外貨準備は大幅に目減りする」と話す。

 米国の2010年会計年度(2009年10月―2010年9月)の財政赤字は、1兆2940億ドルで過去2番目の高水準。

 他方、「巨大な債務を中央銀行に引き受けさせ、マネタイズすれば、将来的に必ずインフレと通貨価値の下落が起きる」と同ファンドマネジャーは指摘する。

 米セントルイス地区連銀のリサーチディレクター、クリストファー・ウォルター氏は22日、FRBが検討している追加的な資産買い入れ規模について、当初は5000億ドルから開始し、その後、最大で2500億ドルずつ拡大していく可能性があると明らかにした。  

 追加緩和は「FRBの株主や、金などの商品の短期売買に従事する金融機関やファンド等に富をもたらすが、国民には何らメリットがない。スタグフレーション(需要低迷下の金利上昇)を招き、ますます貧富の格差が拡大する危険な橋だ」と前出のファンドマネージャーは語る。

 実際、この危機後の緩和局面でFRBは空前の高収益を確保した。FRBの2009年の純利益は、積極的な債券購入や危機対策としての融資拡大を背景に、前年比約47%増の521億ドルと、1914年のFRB創設以来の最高益を記録した。財務省への納付額も461億ドルと過去最高。これまでは2007年の346億ドルが最高だった。金融機関への配当額は14億ドル。 

 <ゼロ金利の呪縛>

 量的緩和や超低金利政策に反対する声は米国の内外で上がっている。ゼロ金利政策や量的緩和が、価格メカニズムを崩壊し、金融機関の貸出は増えず、流動性がかえって滞留・偏在する現象は、日本が90年代に採用したゼロ金利政策でも観察された。

 東海東京証券のチーフエコノミスト、斎藤満氏は「金利の世界は川と同じ。陸地に傾斜があるという前提で、高い方から低い方へ水が流れる。現在の日・米そして英国では、こうした傾斜をすべて押しつぶしたうえ、中央銀行が力づくで水を流している」と語る。

 「あふれた水(過剰流動性)は、新興国市場に流入し、新たなバブルを形成している。川の流れという秩序を壊し、洪水が起きているが、こうした洪水の度合いがひどくなる前に、量的緩和を止めるべきだ」と斎藤氏は主張する。

 特にインフレ警戒で金融引き締めを実施している新興国では、この洪水の被害が大きい。

 高金利を狙った過剰流動性が流入するため、引き締め効果を減殺し、資産価格や全般的なインフレを助長する。このため新興市場ではより大幅な引き締めを余儀なくされ、自国通貨が対ドル、対元で一段と上昇する。

 名目金利がこれ以上は下がらない中、実質金利を下げる試みとして、「インフレ・ターゲット導入論」が内外政治家らの間で取りざたされているが、「これは、中銀の資産買い入れを正当化するための方便にすぎない」(斎藤氏)という。 

 コロンビア大学のガート・ベカート教授は、最近の論文「リスク、不確実性、金融政策」で、FRBが2002―2005年に実施した低金利政策が、リスク・テークを助長したことを計量経済学で証明した。「弛緩した金融は、リスク志向を増幅させ、その効果は導入後5カ月後から顕著になり、2年間に及んだ」とベカート教授は分析した。

 シカゴ大学のラグラム・ラジャン教授は自身のブログで、「超低金利は、資本の過剰な集中と無駄、短期的レバレッジの増幅、および固定金利投資とクレジットに依存するセクターの過度な成長を意味する」として量的金融緩和の早期終了を促した。

 (ロイター 森佳子記者)

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