[ニューヨーク 23日 ロイター] 政情不安が緊迫化するなか、いかなる展開となろうともリビアの石油産業が影響を受けることはほぼ確実で、長期にわたる供給停止や恒久的なダメージにもつながりかねない。
政治的展開がどうであれ、結果がリビア石油産業あるいは原油価格にとって厳しいものとなることは必至。海外の専門家が相次いで出国するなか、全面的な内戦によるエネルギー産業のインフラ破壊から貯蔵タンクの損傷など、あらゆる展開が想定される。
過去数十年にわたりイラン、イラク、ベネズエラなど石油輸出国機構(OPEC)加盟国の政情不安は石油産業に爪痕を残してきた。リビアも同様の展開となることは想像に難くない。
ヒューストンのライス大学のエネルギー研究フェローで中東問題専門家のエイミー・ジャフ氏は「混乱によりリビアの石油精製・操業はおそらく中断される。軍部はカダフィ大佐を見捨てつつあり、誰が石油設備を守るのかは不明だ。多くの外国人が国外退避しており、誰がリビアの石油産業の指揮をとるのか。労働者ですら確保できるかわからない」と述べた。
リビアはアフリカ3位の産油国で、推定440億バレルの備蓄を保有。生産量は世界全体の2%を占める。
イタリアの石油需要の4分の1をまかなっており、1月に中東の政情不安が始まって以来影響を受ける初の主要石油輸出国となった。
ロイターの最新の試算では、各石油会社の従業員の退避などにより、リビアの1日あたりの生産量160万バレルのうち約30万─40万バレルが停止している。
リビアの石油産業は、昔からカダフィ大佐が実権を握るリビア国営石油(NOC)が支配する一方、多くは伊ENIENI.MI、スペインのレプソルREP.MCなど外資企業に依存している。
<回復には長期間の時間が必要>
石油産業のインフラが権力と資金のカギを握るOPEC加盟国では、戦争やその他の危機が、回復に数年・数十年を要する供給停止に至るのはよくあること。
1979年のイラン革命では同国の生産の半分以上が止まり、現在に至るまで完全には回復していない。1990年のイラクによるクウェート侵攻では両国の生産量は数年間にわたり減少、クウェートの油井は荒廃した。2002年のベネズエラの石油産業の大規模ストライキでも生産は滞り、ストライキ以前の水準には戻っていない。
これらの時期にOPECの盟主であるサウジアラビアが増産を行ってきたのは確かで、サウジの石油相は22日、必要であれば増産の用意があることを明らかにした。また米当局者は、サウジが1カ月以内にリビアの供給分を埋め合わせることが可能と述べた。ただそうなればサウジに集中している世界の余剰生産能力を縮小することになる。
リビア騒乱により北海ブレント先物は18日以来約8%上昇、23日には111ドルを突破し2年半ぶり高値をつけた。価格上昇は世界12位の原油輸出国であるリビアの混乱だけが原因ではなく、より大規模な輸出国への波及リスクを反映している。
ナイジェリアやアンゴラなど原油のほとんとが沖合いに存在するアフリカの原油輸出国と異なり、リビアの生産設備のほとんどは陸地に存在しているため、より脆弱とみられている。
ユーラシア・グループのアナリストは22日「リビアの原油生産はおそらく完全には停止しないだろう。ただ、深刻な操業停止に至るかどうかはわからない」と述べた
またエネルギーコンサルタント会社のPFCは、石油会社がスタッフを国外退避させており、リビアの石油産業は「困難な環境下で操業を行わなければならない。安全の保証がないため、海外の石油会社は当面追い詰められるだろう」との見解を示した。
これまでのところエネルギーインフラに対する攻撃の報道はないが、東部の部族長らは輸出を止め、通常はトリポリに流れる収入の差し止めを示唆している。また首都トリポリ付近では、すでにイタリアへのガス供給が停止している。
精製品の供給がすでに縮小しているということは、労働者が製油所や爆発の危険性があるプラントを離れた可能性を示唆している。
リビアの油井のほとんどは離れた砂漠地域にあり、危険にさらされる可能性は小さい。ただ油田の突然の停止はインフラに永久的な打撃を与え、数年にわたり危険な状況にさらすことになりかねない。
ライス大学のジャフ氏は「将来もインフラをコントロールできると考える勢力は、爆破しようとはしないだろう。ただリビア国営石油などの企業は難しい決定を迫られる。後の生産再開を容易にするため整然と停止するか、突発事態により打撃を受けるリスクを抱えながら生産を継続するかのどちらかだ」と述べた。
(Joshua Schneyer記者;翻訳 中田千代子 ;編集 佐々木美和)