[ロンドン 14日 ロイター] 11日に東北の太平洋岸を中心に壊滅的な被害を及ぼした東日本大震災の復興費用は少なくとも1800億ドル(約14兆6800億円)、国内総生産(GDP)の3%相当と試算されている。1995年の阪神淡路大震災(阪神大震災)の総復興費用を50%以上上回る規模だ。
試算は、阪神大震災の事例をモデルに算出。より長期、数年間にかかる費用の予測は1兆ドルに近付く。
すでにGDPの2倍もの債務を抱えている日本は、今回の震災で、第2次世界大戦終了後以来の大々的なインフラ再建を迫られる。
ムーディーズ・インベスターズ・サービスは14日、東日本大震災の復興のため巨額な資金が必要になったことで、日本の債務返済能力に対する投資家の信頼感が低下し、日本の借り入れコストが上昇すると警告した。
ムーディーズのシニア・クレジット・オフィサー、トム・バーン氏は声明で、「日本の各政党が今回の危機をきっかけに、長期的な財政問題に取り組まない限り、そのような(信頼が失われる)転換点の到来は地震によって若干早まった可能性がある」と述べた。
今回の地震、それに続く津波で壊滅的な被害を受けた東北地方は日本のGDPの6─8%を占めると試算されている。阪神大震災の被災地域(約12.4%)を下回るが、危険な状態に陥っている原子力発電所などの固定資産や人的資本の損失ははるかに大きい可能性がでてきた。
地震が世界経済に及ぼす影響は限定的で、日本経済も一時的に落ち込むが、復興需要に押し上げられ、アジアの建設セクターも恩恵を享受する、とアナリストは予想しているが、復興費用が当初の予想を超えるとの見方もでている。
三菱UFJ証券インターナショナルのエコノミスト、ブレンダン・ブラウン氏は「これまでの経験からすると、コストは過小に見積もられる傾向がある」と述べ、停電がいつまで続くのか、など不確実要因は多く、それらがコストを押し上げると指摘した。
<計画停電>
阪神大震災の復興費用は1150億─1180億ドル、当時のGDPの2%相当と推定されている。東日本大震災については、クレディ・スイスとバークレイズが1800億ドル、三菱UFJ証券インターナショナルとサラシンはGDPの5%相当と試算している。
三菱UFJ証券の試算は、税収の減少、さまざまな被災地域の産業支援措置、計画停電による生産の損失も考慮している。
水素爆発や炉心溶融を起こした東京電力9501.T福島第1原発では、原子炉を冷却するため廃炉覚悟で海水が注入されている。ざっくりした試算で、原子力発電所の再建だけで50億ドルかかる。
フィッチ・レーティングスは、東日本大震災による保険対象損失額は過去最大規模との見通しだが、保険・再保険業界は、ソルベンシー(支払能力)の問題拡大や過度の財務的緊張を起こすことなく損失を吸収できる、との見解を示した。
<資本ストック>
しかし、地震で損壊した資本ストックの再構築にかかる、より長期のコストを考慮した場合、復興コストはコンセンサスをはるかに超える。
ロンドンのシンクタンク、チェイサム・ハウスのシニアフェロー、バネッサ・ロッシ氏によると、今回の地震で10%の資本ストックが失われた。
「より大きなコストは資本ストックの再構築だ。施設、発電所、住宅、工場、港湾などのインフラに甚大な損害が出ている。その再建は、1─2年でできるものでなく、4─5年かかると予想する」と述べた。
そこで、民間セクターが、巨額の債務を抱えた政府を支援する形で海外の資産を売却する可能性があるとみている。
IHSグローバルの自動車業界アナリスト、ポール・ニュートン氏は、自動車業界への影響に関し、復興は国内生産拠点の再建にとどまらず、日本経済の立て直しを考えたものでなければならないと指摘。
「大切な人命や住宅が失われたということは、たとえインフラや工場を再建しても、その工場を支援してきたコミュニティが消えたことに変わりない」と述べた。
(脇奈津子記者;翻訳 武藤邦子;編集 加藤京子)