[北京 6日 ロイター] 中国人民銀行(中央銀行)が今週実施した利上げで、中国の引き締めサイクルは終着点に近づいた可能性がある。政策スタンスが修正されれば経済成長を支える一方で、再び資産バブルのリスクが高まる恐れもある。
中国は昨年10月以降、インフレ抑制を目指して緩やかな引き締め策を継続。マネーの伸びや物価上昇圧力の抑え込みに努めている。
消費者物価ベースのインフレ率は3月に前年比5.2%、6月には6%前後まで上昇する見込みだが、今年下半期には急ピッチで鈍化すると予想されている。
当局者は日本の大震災や欧州債務危機が景気に及ぼす悪影響を懸念していることもあり、ブレーキから徐々に足を離すゆとりが生まれそうだ。
シティグループのKen Peng氏は「全般的に見ればインフレ率は落ち着きつつある。成長ペースが鈍化する兆しも現れているため、ここからさらに大幅な引き締めを行う必要はない」と語っている。
中国では物価上昇に歯止めが利かなくなる恐れは薄れた。むしろ、インフレの落ち着きに伴い当局による引き締めスタンスが後退する結果、過剰投資や不動産バブルを生み出すリスクの方がはるかに大きい。
もっとも、今のところ金融が緩和されると見る向きはおらず、市場関係者の大半は引き締めが徐々に解除される程度にすぎないと予想している。
ロイターが実施したエコノミスト調査では、今年の利上げはあと1度だけで、預金準備率はあと3回引き上げられるとの見通しが示された。
エコノミストはさらに、人民銀行が商業銀行に指示している融資規制も緩和されると予想している。
クレディ・スイスのエコノミスト、Dong Tao氏はリポートの中で「成長が鈍化し、銀行による融資姿勢も改善してきたため、人民銀行は一時的に行動を休止する可能性がある。それは公に発表されないかもしれないが、当局は銀行融資に対し寛容な姿勢を取るだろう」との見方を示した。
<バブル懸念>
だが、短期的な引き締めの休止であれば妥当な措置で、今年の成長率は9%前後の巡航速度になるかもしれないが、休止期間が長期化すれば、新たな問題を引き起こしかねない。
問題は、構造的な賃金上昇や食料需要の高まりにより、「新たな正常なインフレ率」がこれまでよりも高い4%前後に上昇することだ。
そうなれば、現在は3.25%にある1年物預金金利は実質的にマイナス金利となり、低すぎる水準となる。
その結果、何年か前に不動産や株式市場のバブル抑制に苦労した中国にとって、再び資産価格高騰や金融不安定化のリスクにさらされることになる。
UBSの中国担当チーフエコノミスト、Tao Wang氏は「家計部門の多くは銀行預金を通じて貯蓄している。金利が過度に低い水準、特にマイナス金利になれば貯蓄は投資に向かい、不動産市場に資金が流入するだろう」と指摘している。
Wang氏は、人民銀行は結局のところ、実質預金金利をプラスにするため来年には再び利上げに着手せざるを得なくなるとみている。
政府系シンクタンクである中国社会科学院のリサーチャー、Yi Xianrong氏も同じ見解だ。同氏は「過去2年に及ぶ爆発的な融資急増の後始末は容易でない。大量の紙幣を増刷した影響を消すには、4度の緩やかな利上げ程度では不十分で、金融政策を正常化するにはさらなる行動が必要だ」との見方を示す。
人民銀行もそのことは認識しているもようで、ある当局者は前日、中国経済には依然として過度のマネーがあるとして、銀行に対し、マネーの伸びを抑えるため、満期を迎える手形を買い入れるよう求めた。
だが、人民銀行がどんなに積極的にオペを実施したとしても、数カ月あるいは数年に渡って実質金利を低水準にとどめておけば、バブルのリスクは高まらざるを得ない。
中国政府は3月に発表した2011―15年の5カ年計画で、持続不可能なほど高い投資への依存度を引き下げるため消費を促す方針を示した。
しかし、シティグループのPeng氏は、さらに強力な利上げを実施しなければ、その目標は実現できないと指摘、「資本コストがあまりに低くなっている。それは5カ年計画の意図するところではない」と述べている。
(Simon Rabinovitch、Xin Zhou記者;翻訳 長谷部正敬)