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不透明な民主党マクロ政策、日銀出口戦略に影響も

 中川 泉記者

 7月8日、民主党政権が誕生した場合のマクロ政策のスタンスが不透明なため、市場では日銀の出口戦略にも影響が出るのではないかとの思惑が浮上。写真は日銀本店。3月撮影(2009年 ロイター/Yuriko Nakao)

[東京 8日 ロイター] 民主党政権が誕生した場合の金融政策を含めたマクロ経済政策のスタンスが依然として不透明なため、市場関係者の間では日銀による金融危機対応策である「異例の措置」の出口戦略にも影響が出るのではないかとの思惑が浮上している。

 民主党の政策スタンスが明確になるまで、日銀は様子見をせざる得ないというのが、その根拠だ。一方で民主党の政策は財政拡張的な色彩が濃いにもかかわらず財源が不明瞭であるため、国債発行増に拍車がかかり長期金利が上昇しやすいとの観測も出ている。「異例な措置」が長期化すればだぶつくマネーが全く新しいバブルを生むリスクについても市場ではささやかれており、総選挙後のマーケットは波乱含みだ。

 <民主党政策の不透明感や資金需要の弱さが足かせに>

 市場では、日銀の出口戦略を見極める上で、9月末に期限を迎える金融危機対策が期限通り終了するのか、あるいはいつまで、どの措置を延長するかに注目が集まりつつある。第一生命経済研究所・主席エコノミストの熊野英生氏は「(判断は)選挙を控えた時期で、その先に民主党政権が誕生する可能性もあり、日銀は安易に動けないだろう」と見ている。民間資金需要弱さなど実体経済面への配慮に加えてこうした政策不透明感から、「異例の措置」はCP買い取りなどを除きほぼ延長されるのではないかというわけだ。 

 5日の静岡県知事選では、分裂選挙になった民主系候補が自民、公明両党の推薦候補を破って当選。12日に投開票される東京都議選をめぐる報道各社の世論調査でも、民主党の支持率が自民、公明両党の支持率の合計を上回っている。このまま解散、総選挙になれば、民主党政権が誕生する可能性が高まっているとの見方が、市場関係者の間でも急速に広がっている。

 ただ、民主党が政権をとった場合、マニフェストで掲げた経済政策を具体的にどのような手段で実行し、その影響が経済にどのようなインパクトを与えるのか全く読めないとの声が市場では圧倒的に多い。

 野村総研金融市場研究部の主席研究員・井上哲也氏も、「選挙前は日銀も動きにくいものだが、今回の場合は特に政権交代を意識せざるを得ず、慎重になるだろう」とみている。

 <財源明示なく国債買い入れ増額圧力につながるおそれ>

 仮に民主党政権になった場合、政府と日銀の関係や、国債買い入れオペの増額圧力の行方も、市場にとっては大きな関心事だ。JPモルガン証券・チーフエコノミストの菅野雅明氏は「民主党はこれまで日銀の政府からの独立性を支持してきたが、政権党になったら同様のスタンスを維持できるのか不明だ。特に新規財源が不透明な民主党の(政策の)場合、財政規律はどうなるのか不安がある」とみている。

 民主党は、子ども手当の支給や高速道路の無料化、暫定税率の廃止など新たな政策を実現するため、一般会計と特別会計の無駄削減や、いわゆる「霞が関埋蔵金」の活用などで4年で17兆円程度の財源を確保する方針。だが、具体的な財源ねん出は「やってみなければわからない」(同党幹部)のが実情といえる。

 政策実現や高齢化の進展に伴う社会保障費の増大などを考えれば、当面は国債増発が継続する可能性が高く、長期金利上昇懸念が強まると予想される。そうした中での日銀による国債買い入れをめぐって「政治からの圧力が強まることは確実」(菅野氏)とみられている。

 熊野氏は「今後、市場が次々と発行される国債を持続的に消化するのは難しいのではないか」とし、「長期金利の上昇懸念は引き続き強く、その面からも景気への不安がある」と指摘している。

 <資金だぶつきの新局面、国債バブルの声も>

 他方、政権交代の可能性や実体経済の弱さに引きずられ、過剰流動性の供給が長期化することを懸念する声も多い。日銀短観からもうかがえるように、大企業を中心に資金繰りや借り入れ環境は改善傾向にあり、日本国内における金融システムの状況は、危機を脱したとの見方が政策当局から出ている。

 野村総研の井上氏は「現在は世界中の中央銀行が大量の資金を供給している状況。超金融緩和からの出口が遅れ、過去の教訓が生かされないという懸念もある」と指摘する。

 熊野氏も「金余り」の状況は徐々に強まっていると述べ、「過剰流動性供給が続く一方で、経済活動には結びつきにくい状況。企業の資金需要は弱含み傾向が続くため、金融機関は運用難に直面している」として「バブルの予兆」に警鐘を鳴らしている。

 国内では、だぶついたマネーは再び債券市場に向かっているように見える。国債増発シーズンを迎えても長期金利が抑制されており、「一種の国債バブルが始まっている」(菅野氏)との見方もある。

 海外では、米国やEU(欧州連合)などを中心に、中央銀行が非伝統的手段を駆使して大量の流動性を供給しており、原油や商品市場などに再びマネーが流入しやすい環境にある。水面下でマネーのゆがみが進行している可能性に対し、市場の警戒感が足元で急速に強まっている。 

(ロイター日本語ニュース 取材協力:伊藤純夫 編集 田巻 一彦)

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