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焦点:日本国債格下げ連鎖に警戒感、新首相の財政再建手腕に期待

 [東京 24日 ロイター] ムーディーズ・インベスターズ・サービスが日本国債の格付けを引き下げたことから、他の格付機関も格下げに踏み切るのではないかとの警戒感がマーケットに広がっている。

 8月24日、ムーディーズが日本国債の格付けを引き下げたことから、他の格付機関も格下げに踏み切るのではないかとの警戒感が市場に広がっている。都内で撮影(2011年 ロイター/Issei Kato)

 東日本大震災の復旧・復興が本格化する中で財政拡大リスクがぬぐえないためだ。8月末にも選出される新首相の財政再建手腕に期待する声が出ている。

 <ムーディーズが日本国債を格下げ、方向性は安定的>

 日本国債の連続利下げの可能性が低下したことで短期的にJGB(日本国債)は買い材料だ──。ムーディーズの日本国債格下げを受けて国内金融機関の債券担当者は相場先行きに強気な見方を示す。下期の債券運用を見据えて徐々に投資家の買いが顕在化し、10年最長期国債利回り(長期金利)は短期的に0.8%までの低下余地が出てくるとのシナリオを描いているという。

 ムーディーズは24日、日本政府の自国通貨建て・外貨建て債務格付けをAa2からAa3に引き下げたと発表した。1段階の引き下げ幅は市場予想に沿った水準だったが、見通しはネガティブから安定的に変更。 同社の日本国債担当アナリストのトーマス・バーン氏は、ロイターとの電話インタビューで日本の格付けを12─18カ月のうちに変更する計画はないと表明した。

 ムーディーズによる日本格下げ観測が浮上して以来、金利低下を阻害していた要因の一つは連続利下げへの警戒感だ。1998年から2002年にかけて、ムーディーズが日本国債の格付けをAaa格からA2に5段階引き下げた時の残像が市場参加者の脳裏をかすめる。衆参両院のねじれで政権基盤が不安定化する中、経済対策などで財政拡大圧力が強まる状況は、当時とかなり類似している。

 このため今回、格付け見通しが「安定的」と変更されたことで「当時のような懲罰的な連続格下げの可能性が後退した」(同関係者)として、日本国債のクレジットリスクが安定に向かうとの期待が出ている。野村証券チーフ・クレジット・ストラテジストの魚本敏宏氏は、格付け見通しを安定的にとどめたことで「スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)による米国格下げ後に株価が急落したように、市場を過度に混乱させたくないという一定の配慮も感じられる」と話す。

 <国内主体の国債消化にも限界との声>

 ただ日本の財政状況が改善に向かっているわけではない。ムーディーズは、日本国債格付け見通しを安定的に変更した理由を1)国内主体の消化構造で財政赤字の補填資金を世界最低水準の名目金利で調達可能、2)2011年度・12年度に多額の財政赤字が発生しても調達コストの優位性が持続されること──を挙げている。

 しかし、「2014年ごろには、家計の純貯蓄と政府の借入残高がほぼ均衡する。少子高齢化が進展する中で、貯蓄の取り崩しが生じるため、銀行の国債購入原資が減少に転じる可能性がある」(野村証券の魚本氏)として、国内だけで95%近くが消化されている日本国債が近い将来に海外資金に依存せざるを得なくなる時期は確実に近づいている。

 ニッセイ基礎研究所・上席主任研究所の徳島勝幸氏は、日本国債を国内で安定消化できる時間軸はあと数年とした上で「政府が掲げる2020年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化の目標達成は難しいかもしれないが、とにかく財政再建に向けて道筋を示すことが大切」として、新首相には財政再建に向けた手腕が求められるとの見方を示す。

 <R&Iが年内にも格付け見直し>

 財政再建に向けて問われる政治のリーダーシップ。日本格付投資情報センター(R&I)は24日、新政権の財政運営を見極めた上で年内にも日本ソブリンの格付けを見直すと発表。2021年度以降、安定的に政府債務残高の対GDP比率を引き下げていくという目標に向けた確固たる政治的意思が必要と指摘した。そのために必要となる経済政策、制度改革が一体となって進められる意思が来年度の予算で読み取れなかった場合には、最上格AAAを格下げする公算が大きいとの認識を示している。

 また、S&Pも1月、外貨建て・自国通貨建て長期ソブリン格付けを「AA」から「AA─」に引き下げ、その3カ月後の4月には、政治リスク格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」にして、一段の引き下げの可能性を示唆している。

 R&Iが格下げに踏み切った場合のインパクトは大きい。日本国債を大量に保有し、リスク量がケタ外れに大きい国内勢が重視しているのは、日系のR&?とJCR(日本格付研究所)の格付け。ある国内金融機関の債券運用担当者は「日系の1社だけでも格下げに踏み切った場合には、国内勢の国債残高が大きいだけにわずかな売りでも市場に動揺が走りかねない。国内勢主体の保有構造に限界が近づくにつれて、ジワリと金利上昇圧力がかかってくるのではないか」と警戒している。

(ロイターニュース 星裕康 編集;伊賀大記)

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