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民間エコノミスト、強いGDPでも先行き懸念が大勢

 [東京 14日 ロイター] 内閣府が14日に発表した2007年10─12月期実質国内総生産(GDP)は前期比・年率プラス3.7%となり、潜在成長率とみられている1.5%─2%の水準を大幅に上回った。

 2月14日、10─12月期実質GDPは予想以上に強い数字となったが、民間エコノミストの大多数は先行きの景気に懸念を示している。写真は06年11月に都内で撮影(2008年 ロイター/Yuriko Nakao)

 この結果、プラス1.3%という2007年度の政府見通しに示された経済成長率の達成はほぼ確実とみられるが、民間エコノミストの大多数は、先行きの景気に対し強い懸念を示している。

 サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン )問題の影響が今年1─3月期から出て、国内景気の足を強く引っ張ると予想しているためだ。

 この日のGDPは、東京市場の参加者にとっても久々のポジティブサプライズとなり、日経平均.N225は前日比500円を超す上昇となった。市場予想のプラス1.6%を大きく上回り「海外勢の株買い戻しが目立った」(外資系証券)という。

 <設備投資が予想外の強さ、07年度政府見通し達成はほぼ確実>

 今回のGDPが市場見通しを大幅に上回ったのは、設備投資が前期比プラス2.9%と、市場予想(プラス0.9%)を大きく上回ったことが主因。2006年4─6月期のプラス5.1%以来の高い伸びだ。内閣府によれば、自動車、ソフトウェア、一般産業機械などが押し上げに寄与したという。

 こうした結果、07年度の政府見通し達成は、ほぼ確実となった。内閣府によれば、1─3月期に前期比マイナス1.6%(年率マイナス6.4%)でも達成が可能という。

 ただ、昨年末にかけての建築着工床面積などのデータとかい離している面もあり、エコノミストの一部では、2次速報などの段階で下方修正される可能性があるとの指摘が出ている。ゴールドマン・サックス証券・シニアエコノミストの村上尚己氏は「2次速報では下方修正される見通し」と述べている。

 <強い先行き懸念、米指標の弱さが後押し>

 民間エコノミストからは、この高成長で、サブプライム問題などの悪影響が払しょくされたとの声はほとんど無い。サブプライムの影響は、今年1─3月期以降、本格的に顕在化してくるとみられるためだ。大田経済財政担当相は14日の会見で「下振れリスクが高まっている」として、今後の米経済動向などを注視していく方針を示した。

  今後、最も注目されるのが純輸出の動きだ。米国の10─12月期GDPはプラス0.6%と大幅減速したが、その影響が避けられないとみられるためだ。ある内閣府幹部も「米経済が減速すれば、日本の輸出には、1─2四半期遅れて影響する可能性もある」と指摘している。

 米国景気については、GDP以外でも、1月ISM非製造業指数の大幅下落、米経済のリセッション入り確率を約50%としたブルーチップ調査など、悪材料が目白押しだ。民間エコノミスト30数人の見通しをまとめた2月ESPフォーキャスト調査でも、米国の08年度成長率見通しは1.82%と、1月調査時点での2.21%から大きく低下している。

 13日公表の1月米小売売上は事前予想を上回ったが、クレディ・スイス証券エコノミストの小笠原悟氏は「12月が悪過ぎた。12月に買い控えがあり、衣料などの価格が下がった1月に買いが入った可能性がある」として、1月統計が必ずしも消費の強さを示すものではないとの見方を示した。

 <エコノミストの間では、デカップリングしないが多数派>

 米国経済が減速しても、新興国の高成長がそれを補うので、日本の輸出への影響は軽微とする、いわゆるデカップリング論についても懐疑的な見方が増えている。内閣府幹部は「米経済が減速してくると、アジア経済にも影響し、デカップリングが続くということにならない可能性もある。アジア、中国ではGDPに占める輸出の割合が日本より大きく、米経済減速の影響は結構大きい」と指摘している。

 カリヨン証券・チーフエコノミストの加藤進氏は「今後はタイムラグを伴って4─6月期には純輸出の大幅な減速で、カップリングの様相を呈する」と予想する。

 ニッセイ基礎研究所・シニアエコノミストの斎藤太郎氏も「輸出は米国向けが低迷してきたが、中国をはじめとした新興国向けがカバーし、全体としては高い伸びを続けてきた」ものの、今後については「米国経済の急減速は、高成長を続けてきた世界経済の減速につながり、このような構図は今後崩れる可能性が高い」と警告した。

 輸出との相関が強い鉱工業生産の見通しは、輸出減速を先取りする形で1月、2月と前月比マイナスの見通しとなっており、民間エコノミストの間では、1─3月期生産が、4四半期ぶりに前期比マイナスに転じるとの見方が支配的になっている。

 ゴールドマン・サックス証券の村上氏は「少なくとも08年前半は後退局面が続き、1─3月期GDPはゼロ成長程度にとどまるなど停滞が続く」と予想している。

 加えて、最近の円高も輸出企業の収益を下押しするなど、景気にマイナスだ。

 ただ、こうした見方に対しては、反対論もある。東海東京証券・チーフエコノミストの斎藤満氏は、今回のGDPの結果は、世界的な「金融部門とマーケットセンチメント」のカップリング、実体経済面でのデカップリング現象を示している可能性があると指摘する。斎藤氏は、原油価格などの上昇を背景に、中東産油国に代表される新興国は富の流入現象に直面し、米国の減速とは無関係に輸入を増やしていると指摘。「日本はそうした現在の勝ち組に輸出して、富の一部の還流を図っており、昔のように米国の減速で世界中がリセッションになるとの見方は、最近の現実とかい離している」と分析している。

 <弱まる消費点火への期待、設備投資の強さも持続困難か> 

 GDPの最大項目であり、長らく伸び率加速が期待されてきた消費についても、点火する気配はうかがえない。雇用者報酬は2四半期連続で前期比横ばいとなり、改善は見られていない。内閣府幹部も「雇用者所得が横ばいで、ウォッチャー調査などでもマインドが悪く、消費が伸びる環境ではない」と慎重だ。

 年明け以降の世界的株価下落による先行き不透明感や、石油製品・食料品などの値上げラッシュで消費者マインドの委縮も著しい。1月の消費者態度指数は前月比0.5ポイント低下の37.5と、03年6月の36.9以来の低水準となった。

 1月の消費関連統計はまだ発表されていないが、ロイターの調査によると、1月の百貨店売上も12月比で目立った改善はなさそうだ〔ID:nTK0069205〕。株価下落などの影響について「(富裕層に近い顧客の割合が多い一部店舗で)ラグジュアリーブランドなど高額品の動きが悪い」(J.フロントリテイリング)などの指摘も聞かれた。 

 企業業績やマインドの悪化を受けて、みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「08年度の設備投資計画を作るにあたり、企業は規模を問わず慎重化するものと見込まれる。この先も設備投資が持続的に景気をけん引していく可能性は非常に低い」と予想した。

 一方、1─3月期GDPのプラス要因もある。1つは、このところGDP下落に貢献してきた住宅投資。エコノミストからは「着工ベースが持ち直してきており、成長率の足を大きく引っ張るのはこの10─12月期で終わり」(三井住友アセットマネジメントの宅森昭吉氏)との声が少なくない。

 今年がうるう年であることも、同四半期の押し上げ要因との指摘もある。内閣府の季節調整では、うるう年要因が完全に除去できていないとみられるためだ。うるう年だった2000年、04年の1─3月期をみると、それぞれ年率プラス7.4%、プラス4.4%と、周辺の四半期に比べて目立った高成長となっている。

 ニッセイ基礎研の斎藤氏は、うるう年要因で1─3月期は前期比0.1%(年率0・5%)程度押し上げられると試算した。ただ、そうした要因をもってしても1─3月期は前期比・年率でゼロ─1%程度の成長にとどまると予想している。 

  (ロイター日本語ニュース 児玉 成夫記者;編集 田巻 一彦)

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