[ワシントン/パリ 5日 ロイター] 1年にわたる世界的な金融市場動揺の副次的悪影響は、信用バブルに浮かれていた国々に最も大きな打撃を与えた。真っ先に米国が、次いで英国とスペインが痛手を被った。
しかし、食品とエネルギー価格の急上昇が一般消費財支出を抑制し、中央銀行の短期金利引き下げによる信用危機への対応を阻害する中、問題が震源地から遠く広範に波及することは確実視されている。
シティグループのエコノミスト、スティーブン・ウィーティング氏は「金融市場が激しく動揺する中で、世界経済が著しい減速局面に入りつつある兆候が増えている。最悪の数字が出てくるのははまだこれからだ」と指摘した。
市場がサブプライムモーゲージ(信用度の低い借り手への住宅ローン)の焦げ付きに対する懸念に支配されていた1年に、金融機関の損失と評価損計上額は4000億ドル前後に達した。金融機関の融資余力は低下し、世界経済の原動力である消費者と企業への与信のフローが鈍化している。
退職後の生活費を賄うため住宅価値の上昇を当てにし、可処分所得を水増ししていた米国の消費者は現在、支出は収入以内に収めるという昔ながらの節約法を迫られている。これは米国の標準を下回る成長率が長期にわたり、巻き添えの被害が世界中に広がることを意味している。
モルガン・スタンレーのエコノミスト、リチャード・ベルナー氏は「アジア、欧州、南米で、ペースは異なるものの、ほぼすべての地域の成長率が減速している」と指摘。「問題の原因は、米国の景気減速の波及、インフレ高進、エネルギー補助金の削減、金融政策引き締め、金融状況の引き締まりだ」と述べた。
ドイツ銀行は、与信の縮小が米経済成長率を2010年まで年1.5%ポイント近く押し下げると推定しており、ユーロ圏でも同程度の下押し要因になる可能性が高いとみている。
<悪循環>
信用収縮の直接的影響は米国で最も顕著に表れている。サブプライムモーゲージはほぼ消滅し、銀行は(評価額からローン残高を差し引いた)住宅の実質価値を担保にしたホームエクイティローンに消極的になっている。ホームエクイティローンは02年から06年まで続いた5年間に及ぶ消費ブームを裏側から支えてきた。
また中小企業から大企業向けまで多くのローンの融資条件が厳格化されており、商業建設に対する融資基準も厳しくなっている。クレジットカードの発行さえ鈍化している。
米連邦準備理事会(FRB)は引き続き、銀行の融資縮小が経済成長の足かせとなり、それがさらに銀行融資の減退を招くという悪循環の可能性を懸念している。
既に、企業は支出の削減に動いており、新規出店や工場への投資を先送りしている。メリルリンチのエコノミスト、デービッド・ローゼンバーグ氏によると、第2・四半期の設備投資は年率にして3.4%減少した。
米国では雇用が7カ月連続で減少しているが、これは通常リセッション(景気後退)に伴う現象だ。ローゼンバーグ氏は、これまで多くの企業が雇用削減よりも労働時間の削減を進めてきたため、この先数カ月は雇用削減ペースが速まる可能性があると指摘する。
平均週間労働時間は7月に33.6時間と、記録的低水準に減っていることから、これ以上の削減余地は乏しいのが現実だ。
<原油高と信用収縮>
欧州での信用収縮の影響は比較的軽微にとどまっている。ウォール街の大手投資銀行の多くが街のメインストリートに支店を構える米国とは違い、欧州系銀行が直接的な消費者金融に関与している度合いが低いためだ。
そもそも、英国とスペイン、アイルランドを除き、欧州の銀行は融資に極めて慎重であり、ハードランディングは予想されない。実際、支出により大きな影響を与えているのは原油価格の高騰だろう。
ウニクレディト銀行(ロンドン)のチーフ・エコノミスト、マルコ・アンヌンツィアータ氏は「燃料および食品価格の急上昇の方が、世界の成長にはるかに大きな打撃を与えていると思う」と指摘。「信用収縮も阻害要因だが、少なくともこれまでは懸念していたほどではない。加えて、信用収縮の影響は一様ではない。米国や英国などが受けた影響の方がずっと深刻だ」と付け加えた。
原油価格はここ数週間でバレル当たり25ドル前後下落しており、もしこの傾向が続くようであれば、インフレ圧力の緩和につながるのは間違いない。しかし他の問題は残る。
欧州中央銀行(ECB)のデータは、平均住宅ローン金利の上昇ペースが07年8月以降よりも以前の方が急だったことを示している。ユーロ圏の指標となる住宅ローン金利は07年8月の5.15%から08年5月には5.33%に上昇した。
この上昇率もわずかとは言えないだろうが、07年8月まで1年間の上昇率は4.21%から5.15%と、その5倍だった。
問題は、欧州が今後の副次的悪影響に耐えることができるかどうかという点だ。ドイツ銀行のエコノミスト、トーステン・スロック氏は、信用の引き締まりとインフレ高進、米個人消費需要の鈍化の組み合わせが世界の成長に重くのしかかり、完全に影響を免れる地域はないと予想する。同氏を含むドイツ銀のエコノミストらは顧客向けの調査ノートで「米住宅バブルの崩壊による第1ラウンドの影響は今後9カ月以内に収束するかもしれないが、2次的影響は今後数年間、先進国の成長を圧迫する可能性が高い」との見方を示した。「現在、先進国の重しとなっているマイナス影響が消滅するまで、米国と欧州のリセッションは明白な可能性として存在する」という。
(Emily Kaiser記者、Brian Love記者;翻訳 関佐喜子 ;編集 宮崎亜巳)