[ニューヨーク 15日 ロイター] 米金融セクターは14日、投資銀行リーマン・ブラザーズ・ホールディングスLEH.Nの破産法の適用申請や大手銀バンク・オブ・アメリカBAC.NによるメリルリンチMER.Nの買収という前例をみない規模の激震に見舞われ、連邦準備理事会(FRB)は緊急融資の差し入れ担保としての株式の受け入れなどに踏み切った。
米国および外国の大手銀行10行は14日、700億ドルの緊急基金の設立で合意した。緊急時には参加する銀行のいずれもが、最大3分の1まで資金を利用することが可能だ。
これとは別に、保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)AIG.NはFRBに対し短期資金を要請したと報じられている。
この日の展開は、ウォール街の最高経営責任者(CEO)らや監督当局が選別的救済の必要性を認識した可能性を示唆している。
ナイト・エクイティ・マーケッツのマネジング・ディレクター、ピーター・ケニー氏は「米金融システムは、基礎の下に位置する構造プレートが過去にない規模で移動していることに気付きつつある」とし、「完全な再編を控えた新たな金融世界の出現だ」と述べた。
リーマンの破たんは、証券大手としては1990年のドレクセル・バーナム・ランバートの破たん以降、最も注目を集めたケースとなる。
リーマンが破産法第11条の適用を申請した後、S&P総合500種株価指数先物は3.4%下落した。これは15日の米国株式市場が寄り付きから急落することと、ドルの大幅安を示唆している。
サクソ・キャピタル・マーケッツのセールス責任者Christoffer Moltke-Leth氏は「危機の終えんには程遠いことを示唆している。まだ明らかになっていないことが多いため、事態は半年後にさらに悪化している可能性もある」と述べた。
外為市場でユーロは前週末から1.7%高の1ユーロ=1.4479ドルまで上昇した。債券市場では、米金融システムの安定性への懸念や、FRBが利下げを実施するとの見方の強まりを受け、米国債利回りが5カ月ぶりの低水準を付けた。
この日の出来事は米金融市場の権力構図の変化を示唆している。バンク・オブ・アメリカやJPモルガン・チェースJPM.Nは、より支配的な地位を占めつつある。
リーマンとメリルリンチが退場することで、ベアー・スターンズも含め、米投資銀行上位5社のうち3社が半年以内に姿を消すことになる。
JPモルガンは3月、ベアー・スターンズを格安で買収している。
経営危機に直面する米リーマンの救済策をめぐる週末の官民協議は、3日目となる14日、リーマンの不動産関連資産など不良資産を除いた残りを買収する最有力候補とみられていた英銀大手バークレイズBARC.Lが交渉から撤退した。
これをきっかけにリーマンが破産法の適用を申請するとの見方が強まり、デリバティブ(金融派生商品)市場は14日、ディーラーがリーマンに対するエクスポージャーを減らせるよう緊急に市場を開いた。
リーマンは裁判所に提出した書類の中で、無担保債権を保有する主要金融機関について、米シティグループC.N、バンク・オブ・ニューヨーク・メロンBK.N、あおぞら銀行8304.T、みずほフィナンシャルグループ8411.Tだと明らかにした。
また、メリルリンチは15日朝、1株29ドルでバンク・オブ・アメリカに身売りすることで合意したと報じられた。全額株式による買収で総額は500億ドル。
このほか、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、AIGがFRBに対し、400億ドルの短期資金を要請したと伝えた。
FRBや証券取引委員会(SEC)を含む金融当局は14日夜に声明を発表し、市場を支援する姿勢をみせた。
FRBは、流動性を確保し、市場の混乱の拡大を回避するための一連の措置を発表した。金融機関がFRBから融資を受ける際に差し入れる担保の種類を拡大するほか、流動性増大に向けて、ターム証券貸出制度で実施する入札の規模も拡大する。
リーマンの救済策をめぐる官民協議では、ポールソン財務長官のスタンスが今回の結果をもたらした要因の一つとなった。
関係筋によると、長官はリーマンの危機解決を目指したいかなる合意にも公的資金を投入することに強く反対した。
また別の関係筋によれば、そうした政府の保証のないことが、バークレイズの交渉撤退決定の最大の理由だったという。