[ニューヨーク/東京 17日 ロイター] 米連邦準備理事会(FRB)は16日声明を発表し、ニューヨーク連銀が保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)AIG.Nに最大850億ドルの有担保融資を実施すると表明した。国内外の市場関係者のコメントは以下の通り。
●一応の安心感、株にプラス材料
<三井住友アセットマネジメント チーフエコノミスト 宅森昭吉氏>
保険商品を扱うだけに一般の人々の関心も高いが、AIGの救済スキームが出たことで、一応の安心感を与えたといえる。株式にはプラス、債券には少しマイナスの影響、ドルは少ししっかりしてきている。
米国の景気がどんどん悪くなると利下げが必要なシナリオだったが、これで少し落ち着くのではないか。ただ、まだ何かあるのではないかという不安感は残っている。
●ヤマは越えるが、株価の回復は緩やか
<みずほインベスターズ証券エクイティ部長 稲泉雄朗氏>
AIGへの公的資金注入により、米金融問題のヤマは越えたという印象を持っている。同社が破たんとなった場合の市場に与える影響は計り知れないものだっただけに、安心感が広がっている。前日にヘッジ売りを入れていた投資家などから買い戻しが先行した。GLOBEX(米24時間金融先物取引)の米株指数が高くなっていることで、今晩の米株高を織り込む動きでもある。
もっとも、現物の買いが膨らんでいるわけではなく、迫力のない株高だ。マーケットは正常化に向かうだろうが、様々な疑念が残り、回復速度は緩やかなものになりそうだ。
●市場の疑心暗鬼晴れず、当面ボラタイル
<三菱UFJ証券 投資情報部長 藤戸 則弘氏>
米政府がAIGAIG.N株を80%近く受け取り2年間融資するということは事実上の公的管理と言える。米リーマン・ブラザーズは破たんさせ、AIGは救うという違いについて、米政府は金融システムへの影響の度合いということを挙げるのだろうが、明確な基準はなく米政府の裁量次第ともいえる。
マーケットは今後、救われる企業と破たんさせられる企業を見極めようと疑心暗鬼になるだろう。AIGは救われ株式市場ではショートカバーが入ったが、ネガティブな材料が出れば反対の動きになる。マーケットは当面ボラタイルな動きが続くだろう。今後の焦点は10月中旬以降の欧米金融機関の決算発表になりそうだ。
●「次のリーマン」回避し株価は自律反発局面に
<丸三証券・専務 水野善四郎氏>
AIGが救済されたことで、市場が恐れていた「次のリーマン」探しのシナリオが回避された。AIGが破たんとなれば、影響はリーマンの比では無かったとみられるため、株価は素直に好感している。
ただ、これで金融問題がすべて解決したとマーケットはみておらず、引き続き神経質な展開を余儀なくされるだろう。それでも、リーマン破たん、AIG救済の一連の動きで、米当局の「救済の仕方」がおぼろげながら見えてきたことは注目できる。
中期的には予断を許さないものの、目先的に危機が回避されたため、株価は自律反発局面に入ったとみている。テクニカル的に下げ過ぎの印象が強く、当面は戻りを試す動きになりそうだ。
●保険大手がもたらすシステミックリスクを警戒
<ペイデン&リゲル・インベストマネジメントのマネジング・プリンシパル、クリス・オンドーフ氏>
米連邦準備理事会(FRB)は、大手保険会社がもたらすシステミックリスクについて、放置するには大きすぎると考えたのだろう。
アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)AIG.Nはウォール・ストリートや金融市場だけでなく、街のメインストリートとも取引を行っており、FRBが救済に踏み切ったのはこのためだ。AIGが破たんしていれば、大きな混乱を生じただろう。
●いったんは悪材料出尽くし、ぜい弱ムードは残る
<日興コーディアル証券 シニアストラテジスト 河田剛氏>
AIG救済が決まり、日米株式は戻りを試す局面に入った。大手の金融機関についてはいったんは悪材料出尽くしとなっている。
法人取引のリーマン・ブラザーズLEH.Nと違いAIGの場合は膨大な保険契約者を抱えており、混乱を防ぐためには救済せざるを得なかったのだろう。
リーマン・ブラザーズ破たんで注目されるのはデリバティブ市場への影響だが、大きな混乱がなければ逆に市場は金融機関の破たんにおびえなくなる可能性もある。浮き足立ったムードが落ち着くのではないか。
しかし、市場のセンチメントはぜい弱だ。次のターゲットを探して売り込む動きが再び出てくる可能性も十分ある。米連邦公開市場委員会(FOMC)では利下げを見送ったが、市場が不安定になったときのために残り少ない利下げの可能性を温存したとみている。
●リスク回避の円高和らぐ、懸念払しょくには至らず
<大和証券SMBC 金融市場調査部チーフFXストラテジスト 長崎能英氏>
アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に対する米連邦準備理事会(FRB)の救済により、経営危機がうわさされていた大手金融機関に対する懸念は薄らぎ、為替市場で強まっていたリスク回避に伴う円高圧力は和らぐこととなるだろう。だが、これで市場の懸念が払しょくされたわけではない。金融システムをめぐる不透明感は残り、新規資金が投じられて円から外貨へ資金が移動するとはいいがたい。市場は依然として不安定だ。慎重なスタンスが必要だろう。金利差などから見てもドルの105円挟みはちょうどいい水準だ。
インベストメントバンクのリーマンは破たんに追い込まれたものの、FRBは政府系住宅金融機関(GSE)やAIGなど個人客を多く抱える金融機関には一定の配慮を示す姿勢を明らかにしたといえる。前日の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文では景気認識を大きく悪化させたが、金融問題が膨らむ中でも利下げを行わなかったのは、信用不安に対する利下げは十分に行ったという意思表示なのかもしれない。これはドルの下落を抑制する要因となり得る。
●アジア経済見通しを変えるものではない
<スタンダード・チャータード(シンガポール)の外為ストラテジスト、カルム・ヘンダーソン氏>
アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)AIG.Nの救済策の発表を受け、各市場では底値を模索する動きが出ている。これは市場心理の好転に役立つだろう。
アジアの株式市場は、米株式市場が反発したため、概ね上昇して推移している。これに伴い、多くのアジア通貨は最近の安値から回復している。
*大和証券SMBC長崎氏の肩書きと名前を訂正します。