[東京 25日 ロイター] 米政府によるシティグループC.N救済策を受けた東京市場は、日経平均株価が急上昇する一方で安全資産としての国債が売られ、対策をひとまず素直に評価した値動きとなった。
経営難に陥った金融機関への救済パターンが、不良資産の政府保証と公的資金注入という形で示され、参加者からは金融危機への対応が一歩前進したとの声も聞かれる。ただ、資産劣化を食い止める具体策などでは課題が残り、米政府の財政余力の問題ともからみ、金融システム正常化への道のりが示されたとは言いがたい。
これ以上の金融危機の広がりを避けたい米政府だが、市場の疑心暗鬼は収まりを見せていない。
米政府が23日、不良資産への政府保証や追加の資本注入を柱とするシティ救済策を発表したことを受け、連休明け25日の東京市場は株買い/債券売りの流れが鮮明となった。市場では「金融機関の救済パターンが示され、金融問題への対応策として一歩進んだ」との見方が広がり、日経平均株価は400円以上上昇、8000円を回復した。
国債市場では、質への逃避の巻き戻しが出たため、長期金利の代表的な指標となる10年最長期国債利回りは、前週末比3ベーシスポイント高い1.420%に上昇する場面があった。
しかし、今回の救済策で市場に安心感が広がるかどうかには、依然として懐疑的な声が多い。
まず、シティ救済策自体への評価だ。ユナイテッド投信投資顧問・シニアファンドマネージャーの高塚孝一氏は「金融機関に不良資産を損切りさせるインセンティブとしてはやや弱い。金融問題解決には金融機関に不良資産の損失を確定させることが大前提であり、今後の課題が残る」と指摘する。
三菱UFJ証券・投資情報部シニア投資ストラテジストの折見世記氏は「市場が注目していた案件に政府が着手したという意味で対応が進展していることは事実だが、1兆2000億ドルといわれる簿外債務にメスが入っておらず、中途半端といわざるを得ない」と話した。
次に、米政府が今後、他の金融機関に対してシティと同様の対応を迫られる可能性があることも、楽観論をはばむ一因となっている。
カリヨン証券・チーフエコノミストの加藤進氏は「IMFが発表したローン市場と証券化商品の残高は今年10月末現在で23.2兆ドル。これに対して評価損は1.4兆ドルにとどまっている」と指摘。「数値をみる限り金融機関の損失が広がるリスクが残っており、まだ楽観できる状況でない」と話す。
ある邦銀関係者は「四半期決算ごとに、シティの次に救済するのはどこか、といった話が必ず出てくる。米財政の余力にも限界があるなかで米株が安定する兆しはみえない。下値不安は幾分和らいだとはいえ、リスクはとれない」と警戒する。
米ウォール街でもシティの次の救済行が早くも話題になっている。ミラー・アンド・ワシントンのマイケル・ファー社長は「困難な状況に追い込まれ、救済される銀行はさらに増える可能性がある」とした上で、「株価を見ると、次に危なくなるのはバンク・オブ・アメリカ(BOA)BAC.Nのようだ」との見方を示す。BOAの株価は11月初めから前週末までに52%下落、KBA銀行指数構成銘柄の中でシティグループに次いで下げがきつい。
主な市場参加者の見方は、以下の通り。(順不同)
◎ユナイテッド投信投資顧問シニアファンドマネージャー 高塚孝一氏
米シティグループ救済策のパターンが他の米金融機関にも適用される可能性が大きい。金融問題への対応策として一歩進んだと評価することはできる。株価にもプラスだろう。ただ290億ドルまでは自ら損失処理をしなければならないということで、金融機関に不良資産を損切りさせるインセンティブとしてはやや弱い感じだ。金融問題解決には金融機関に不良資産の損失を確定させることが大前提であり、今後の課題はその点だろう。
このためオバマ米次期政権の米財務長官に就任することが決まったガイトナー・ニューヨーク連銀総裁への期待は大きい。金融問題に精通する一方でウォール街からは一歩離れた経歴を持つため、金融機関に資産査定を強いることができるのではないかとみられているためだ。
◎三菱UFJ証券投資情報部シニア投資ストラテジスト 折見世記氏
シティ救済策は、市場が注目していた案件に政府が着手したという意味で対応が進展していることは事実だ。ただ、1兆2000億ドルといわれる簿外債務にメスが入っておらず、中途半端といわざるを得ない。
オバマ氏は景気対策にあたり十二分な財政出動を行う必要がある。米国は雇用不安などから貯蓄率が上がってきており、これを消費に向ける環境作りのためには規模は小さくても恒久減税を行うべきだ。今回の米景気対策は景気の建て直しというより、家計も含めたバランスシート調整を混乱なく進めるという意味合いが大きい。これが最後の対策になるとは思えず、今後も景気対策を打ち続けることが予想される。
◎ドイツ証券副会長兼チーフインベストメントアドバイザー 武者陵司氏
信用収縮の悪循環に陥っている時の出口は単純だ。民間コストの財政移転で解決する。2003年りそな銀行の国有化により、日本株式13年間の下落は大底をつけた。それは完全国有化ではなく部分国有化により、株主の財産が守られることが明確になったからだ。シティグループに対する公的資金注入と政府保証は、まさしくそれに当たる。財政資金による問題資産の取得と資本注入、民間バランスシートのクリーニング、財政資金による民間経済の救済――などあらゆるコストが政府に移転されるメカニズムが確立し、それが始動すればパニックは収まる。オバマ次期大統領は巨額の財政資金によるリフレ政策も準備している。財政が全てを引き受ける体制はほぼ整ったとみてよい。
◎大和証券投資情報部長 多田羅信氏
きょうの東京株式市場は、米シティグループの救済策をひとまず好感した形だが、前週の下げ分を取り戻したに過ぎない。米政府の対応は、売り方に一定の抑止力となりそうだが、それ以上のものではない。日経平均は当面、底練りを脱するには至らないとみている。米国がGMGM.Nの経営問題や景気対策について、どの程度迅速に効果のあるものを打ち出せるのか見極めたい。
◎カリヨン証券チーフエコノミスト 加藤進氏
米政府が発表した米シティグループ救済策の背景には、大きすぎてつぶせないとの判断があったのだろう。金融システム全体や実体経済への悪影響を考えると破たんにできないというところまで米政府が追い込まれたとの印象だ。ある意味で金融問題がそこまで深刻な状況にあることを再認識させられた。
商業銀行は企業や個人など取引範囲が広いのが特徴。この点が投資銀行とは異なる。金融の仲介機能が働かず、米産業が資金繰りに窮する状況になれば破たんの連鎖につながり、世界大恐慌の再現という危機的なシナリオが迫ってくる。そのリスクを米政府として取れないとの最終結論に達したのだろう。
シティへの公的資金注入が決まったとはいえ、資本のき損をどこかで止めないと負の連鎖につながる。資産劣化を止めるには、不良資産を本体から切り離して処理を進めていかないとバランスシートにいつまでも残る。不良資産への政府保証も資産劣化を止める抜本的な政策が明確に見えていない。市場はまだ半信半疑だ。
公的資金の注入はシティだけに限定するわけにはいかない。米政府は今後、他の金融機関に対してシティと同じ対応を迫られる可能性がある。そもそも、IMFが発表したローン市場と証券化商品の残高は今年10月末現在で23.2兆ドル。これに対して評価損は1.4兆ドルにとどまっている。数値をみる限り、金融機関の損失が広がるリスクが残っている。まだ楽観できる状況でない。
シティ救済策を受けて米国市場は株高/債券安で反応した。しかし東京時間に入ると、ドルはジワリと売られ、日経平均は朝高後に上がりきれない。シティへの資本注入を評価しているが、必ずしもこれで本格的な解決につながらないと市場はとらえているのだろう。
◎セントラル短資執行役員総合企画部長 金武審祐氏
株価反発でひとまずの好感はみてとれる。しかし、今回の米シティ救済策は、市場に催促された場当たり的な対策との印象も拭えない。一部金融機関の国有化などに踏み切らない限り、金融不安の払しょくには至らないのではないか。日銀の白川方明総裁は21日、企業金融の円滑化を図る狙いで民間企業債務の適格担保としての取り扱いや、民間企業債務を担保とする資金供給面の工夫について、速やかに検討するよう執行部に指示した。金融不安がさらに広がり、年末越えの資金繰りが悪化するようなら、12月の決定会合を待たずに担保拡充が実施される可能性もありそうだ。
政策金利である無担保コール翌日物金利は、誘導目標を0.3%前後に据え置く公算が大きい。ただ、年末に向けて潤沢に資金を供給する過程で0.3%を維持することが難しくなりかねない。日銀は、超過準備への付利レベル(0.1%)までの下ブレを一時的に容認する時期がくるかも知れない。
◎みずほコーポレート銀行国際為替部参事役 竪智司氏
足元の軟調な地合いがいつ底を打つのか、今なのか、1カ月後か、2カ月後か、様子見ムードが広がっているというのが現在の状況だ。シティへの救済で米財務省が動き、市場の不安を緩和させたが、他の金融機関はどうなのかという懸念は残る。シティの株価をみても、それほど効果があったとは思えない。オバマ次期政権の財務長官に指名されたガイトナー・ニューヨーク連銀総裁は金融市場の救済に手腕を発揮してくれるとの期待は強いが、特にまだ具体的に何か手立てを講じたわけではないし、米国内の問題として自動車業界の救済問題も残っている。景気下振れ懸念もあるし、オバマ次期政権の動向を見極めたい。自動車業界救済策は、あったとしても短期的な延命策に過ぎず、将来は楽観視できない。ドル/円は目先93―98円のレンジに戻ったとみられるが、徐々に下値を探る動きになるとみている。
(ロイター日本語ニュース 金融マーケットチーム 編集 橋本浩)