吉池 威記者
[東京 6日 ロイター] ロシア通貨ルーブルの対ユーロ・ドル通貨バスケット相場が下げ止まらず、ロシア中銀が設定した変動幅の下限41ルーブル付近で攻防が続いている。ロシア通貨当局は当面、為替介入で防戦する見通し。
ただ、エネルギー価格の下落で経常黒字が縮小しており、レンジを守りきれない場合には国際的な信用が失墜、通貨危機につながる可能性もある。
ロシア中銀は昨年11月からルーブルの対ユーロ・ドル通貨バスケットの変動幅を段階的に拡大し、事実上のルーブル切り下げを進めてきた。しかし、最近ルーブル相場が安定してきたこと受け、同中銀は1月22日、翌日付で同変動幅を26─41ルーブルに設定すると発表、段階的な切り下げに終止符を打ったかにみえた。11月以降、実に20%超切り下げてきたことになる。5日夜の取引で、ルーブルの対通貨バスケット相場は、一時41.0037ルーブルを付けた。その後も40.9600ルーブルと、レンジ下限近くで推移している。
ロシア中銀の金融市場部門責任者、セルゲイ・シュベツォフ氏は5日、投資フォーラムで「(資本流出の)大きな可能性はない」と語った。また、ルーブルの緩やかな下落局面は終わったことが確実であるにもかかわらず、銀行に対し、輸出業者以外に外貨建てローンを提供しないよう求める考えを示し、「為替リスクを顧客に押し付けないよう求めたい」と述べた。ロシア中銀が変動幅を設定した後も断続的なルーブル売りがみられるが、この売りは1)投機筋、2)家計、3)ロシア国内金融機関、の3者のいずれかによるものと金融市場ではみられている。
通貨下落とあいまってロシアからの資本流出が進んだが、「資本流出に伴うルーブル売りのステージはほとんど終わっているというのが共通認識」とロンドンの邦銀筋は指摘する。
ロシア中銀によると、家計のルーブル建て預金は2008年9月30日の5兆0600億ルーブルから10月31日には4兆6120億ルーブルに減少。逆に外貨建て預金はルーブル換算で8310億ルーブルから9236億ルーブルに増加した。また、ロシア企業の対外投資は2008年7―9月の238億ドルから10―12月は282億ドルに拡大。こうしたデータからルーブル売りの圧力になっていることが裏付けられる。
ルーブルの対バスケット相場は下限41ルーブルを一時的に割り込んだ後、いったん40.90ルーブル付近に戻してからもみあっている。「当面は下限辺りで維持されるのではないか」との見方もあるが、さらに下限を引き下げざるを得なくなった場合、「ロシア中銀はどこからも信用されなくなり、現地資産市場の一段の下落が進むだろう。また、ロシアへの海外からの投資は一段と冷え込み、復興が見込めないない状況になる」との声もある。つまりロシア経済は下限41ルーブルを防衛できるかどうかにかかっている、ということだ。
ロンドンの邦銀筋は、「中東欧への悪影響が甚大なほか、新興市場の需要が世界経済復興の牽引力になるというシナリオの実現は、少なくとも数年は先延ばしになる。通貨市場ではデ・レバレッジが一段進むことで、ドルに上昇圧力がかかる」との見通しを示す。
イグナチェフ中銀総裁は、中銀はこの先数カ月は通貨バスケットに対する変動幅の下限を変更する計画はないと言明、これ以上のルーブル安は容認しないことを示唆した。市場関係者の間ではロシア政府がレンジ下限に近づけば為替介入で凌ぐとみている。外貨準備高については、08年8月の水準と比べると3分の2の水準まで目減りしている。
外貨準備高は、1月23日の3865億ドルから同30日には3881億ドルに微増となった。これは「1月22日以降にレンジを設定後、為替介入を行わず、原油取引収入がそのまま外貨準備高に算定されたため」(JETRO)とみられている。
11月以降ルーブルが大きく切り下げられ、通貨危機にもつながりかねないロシアの株式市場だが、代表的な株式指数MICEXは昨年10月に500ポイント付近に落ち込んだ後下げ止まり、足元では600ポイントを挟んで推移している。ロシア政府が輸出税を段階的に引き下げるなど輸出企業への優遇措置を講じていることから、輸出株が株価をけん引している。ルーブル安の「恩恵」を株安の歯止めに生かしている、と言えなくもない。
ロシア国内政治を専門としている東京財団リサーチ・フェローの畔蒜泰助氏は、グルジア問題やキルギス問題など、最近のロシアの動きについて、「米国との対立ではなく、ミサイル防衛で米国の譲歩を引き出したいために仕掛けた駆け引きの一環」と位置づける。畔蒜氏は、「ルーブル防衛とキルギス問題は別次元」としながらも、「ルーブル防衛で介入資金が必要なほか、ロシアからキルギスへの資金援助も伴うため、ロシアの体力がどこまで続くかが焦点になってきた」と指摘している。
(ロイター日本語ニュース 吉池 威記者 編集 橋本浩)