[東京 24日 ロイター] 為替市場では、避難通貨としての円の位置づけが弱まってきた。キャリー取引の解消と見られる円買い地合いが一服し、一段の円高進行に賭ける短期筋が利益を上げにくくなっている。
円手仕舞い売りの材料を求め、大幅マイナス成長となった国内総生産(GDP)など日本の景気悪化にあらためて着目する参加者も増え始めた。
ドル/円が95円台に乗せ、3カ月ぶり高値を更新した。きっかけは米政府による米金融サービス大手シティグループC.Nの株式取得報道で「政策対応が進むことは金融システムの安定にプラス」(外資系証券)との見方から、円買い/ドル売りポジションの巻き戻しが起きたためだが、その裏には避難通貨の円に対する見方の変化もあるという。
市場では、2月16日に発表された2008年10―12月期実質国内総生産(GDP)にあらためて注目する声が増えている。同GDPは前期比年率マイナス12.7%。2009年1─3月期GDP予想も、16日時点でマイナス10%前後が多く、GDPが2四半期連続で2けたマイナスという前例のない事態になる見通しだ。
ここにきて日本の景気悪化が材料視された背景には、リスク回避の円買いをベースに短期筋による円買いポジションがいったん大きく膨らんだという事情もある。「腰を入れて円買いポジションをキャリーできる参加者が減っている。短期売買で取れるリスクは限られており、ポジションが円買いに傾くと円売り材料に敏感になる」(邦銀)という。
避難通貨としての円買いは、円キャリー取引の解消による円買いが支えた面も大きい。この円買いが短期筋による円買い仕掛けを促し、ポジションを膨らませてきた。しかし「長く続いた円キャリーの巻き戻しが足元で細ってきた」(外資系銀行)。円買い圧力が低下してきたことで「市場は円の売り材料に焦点をあてるようになっている」(同)といい、27日に発表される1月鉱工業生産など円売りにつながる可能性がある日本の材料に注目が急速に集まりつつある。
ロイターが民間調査機関に聞き取り調査したところ、1月の鉱工業生産指数の予測中央値は前月比マイナス10.0%。昨年12月(マイナス9.8%)に続き3カ月連続で過去最大の低下率を更新する見通し。
みずほコーポレート銀行国際為替部シニア・マーケット・エコノミスト、福井真樹氏は「GDP発表直後の為替の反応は限定的だったが、景気実態の悪さがじわじわと円に効いてきており、リスク回避の動きのなかで逃避先としての円の位置づけが弱まっている」としている。
<経常黒字減少に着目、通貨を売り仕掛け>
さらに、市場筋によると、一部投機筋の間では経常黒字国の通貨を売り仕掛ける戦略を取る動きが出始めている。長引く金融危機で運用成績の悪化している投機ファンドが積極的な取引を見送る一方、世界同時の大幅利下げで為替取引の重要な手掛かりである金利格差も小さくなってきたことで、為替市場では従来以上に実需に伴う資本フローが値動きに与える影響が大きくなっているとの見方だ。
実需に絡む資本フローの影響が大きくなれば、経常黒字国通貨には当然買い圧力が強まるものの「世界同時の景気減速で貿易取引が急減少しており、それに伴って経常黒字額が急減少し、自国通貨買いオペレーションが従来より劇的に減る」(外銀)ことで、日本などの黒字国通貨が下落しやすいとのシナリオだ。
ドルは、テクニカルには100円を上抜ける可能性も出てきているが、見方は割れている。「95円で上値を押さえられることはないだろうが、それほど上値余地が大きいとも考えていない。米国の政策対応はスピーディーではあるが米経済の課題も多く、積極的にドルを買えるわけではない」(みずほコーポレート銀行国際為替部シニア・マーケット・エコノミスト、福井真樹氏)、「この先1─2週間でみればドル上値は97─98円。その次は103円が節目になる」(外資系銀行)などの声が出ている。
(ロイター日本語ニュース 松平陽子 編集 橋本浩)