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日本版「本国投資法」、円高推進力は限定的

 森 佳子記者

 4月2日、日本版「本国投資法」の円高推進力は海外子会社の外貨資金繰りひっ迫で限定的とみられる。写真は都内の為替ディーラー。先月19日撮影(2009年 ロイター/Toru Hanai)

 [東京 2日 ロイター] 日本版「本国投資法(Home Investment Act、以下HIA)」が2009年度から適用されるのに伴い、本邦企業の海外子会社からの配当収入は無税となり、これまでの「二重課税」が解消されることになった。

 為替市場の一部では、今回の改正で海外子会社からの利益の本国還流(リパトリエーション)が加速され、為替需給面で円高要因になるとの見方が浮上している。しかし、現状ではドル資金市場の機能不全から、海外子会社の外貨資金繰りがひっ迫しているため、利益が日本へ向けて大量に還流する余地は小さそうだ。

 為替市場で円高の思惑が台頭する背景には、米国版HIAが時限立法で導入された2005年度の後半に、米国の海外子会社による利益還流が加速し、約2300億ドルもの資金が米国へ回帰し、ドルの下支え要因となったことがある。

 ただ、日本版HIAは、1年限りの時限措置だった米国版HIAと異なり、恒久的措置であるため、現在海外子会社に滞留している内部留保については、「数年度にわたり平準化される可能性が高い」とゴールドマン・サックス証券・チーフエコノミストの山川哲史は指摘する。同氏は、今年度の利益還流額を1.6―3.6兆円(2008年度見通しは2兆円)と予想している。

 海外に留保された利益は15─20兆円程度と推計され、米国HIA導入時に匹敵する利益還流が起こり、為替相場になんらかの影響を与えるとすれば、「内部留保全額が一年で還流する状況を想定する必要があるが、こうした想定は非現実的である」(山川氏)。

 <外貨資金繰り難>

 特に今年度は本邦企業の海外子会社からの利益送金が盛り上がらない理由として、金融危機後のドル資金市場の機能不全とドル資金調達難がある。

 「海外子会社における外貨資金繰りが依然ひっ迫傾向にあり、為替円高下で子会社の当期利益、あるいは内部留保を円転したうえで国内へと還流させる動機は乏しい」と山川氏は言う。

 さらにドイツ証券シニア為替ストラテジストの深谷幸司は「現状では、むしろ本社サイドが日本において円をファンディングし、外貨にスワップして海外子会社のファンディングをサポートするという動きもみられる」と指摘する。

 企業の動きとしては、ソニー6758.Tが三菱東京UFJ銀行など邦銀3行と15億ドルのドル借入枠を契約し、ホンダ7267.Tが自動車ローン債権を裏づけとする証券発行で約3億ドルの資金調達を行うなど、企業サイドもドル資金確保に奔走している。

 他方、企業に頼られる邦銀も、ドル資金確保に苦戦しているもようだ。日銀によると邦銀の海外支店は国内本店から2月に18.4兆円の資金を借り入れた。借入額は前年比で倍増しており、海外支店の総資産の約3分の1に当たる。大半の借入金は円からドルなどの外貨にスワップして海外業務に充当されていると思われる。

 <アジア>

 外貨資金繰り以外にも、企業が海外子会社に利益や内部留保を置きとどめる理由がある。

 「特に、成長性が高いアジア諸国における海外子会社利益、及び内部留保については、現地における再投資ニーズが高い」(ゴールドマン・サックスの山川氏)ことだ。事実、アジア諸国については内部留保額と海外投資額の格差が小さく、その分利益還流の余地は小さいと山川氏はみている。

  (ロイター日本語ニュース 森佳子)

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