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生産が示す4─6月景気反転、市場は株高/債券安

 [東京 30日 ロイター] 米国で景気回復の兆しに市場の注目が集まる中、日本でも久しぶりに先行きに明るさを見出す強いデータが発表された。30日朝に公表された3月鉱工業生産は6カ月ぶりの上昇となっただけでなく、4月と5月の予測値もこの先の生産回復を示す結果になった。

 4月30日、3月鉱工業生産は先行きに明るさを示す内容となり、市場は株高/債券安で反応。写真は都内のビジネスマン。昨年10月撮影(2009年 ロイター/Michael Caronna)

 日経平均は午前の取引で前日比300円を超す上昇となり、国債先物は大きく下げた。回復力そのものの強さや継続するかどうかなどは不明な点が多いが、4─6月の景気が上向くことを強く示した生産のデータは、マクロ経済のトレンド転換を告げている可能性が出てきたとの声が上がっている。

 <4─6月生産はプラス5.9%の可能性>

 株式市場では日経平均が反発し、上げ幅は300円を超えている。米株高やドル高/円安に加え、寄り前に発表された3月鉱工業生産が事前予想を上回ったことで、買い戻しが加速した。「大型連休中に売りポジションを抱えるリスクが大きいとの見方が広がり、薄商いの中で指数の上昇に弾みが付いた」(準大手証券エクイティ部)という。

 3月鉱工業生産指数速報は、前月比1.6%上昇し、ロイターの事前予測調査の予想中央値(前月比0.8%の上昇)を上回った。中国向け電子部品や海外向け普通乗用車の生産などがけん引役となった。4、5月の予測指数はそれぞれ前月比プラス4.3%、同6.1%。6月が同横ばいと仮定すると4─6月期の生産は前期比プラス5.9%の高い伸びになる。

 こうしたデータを受けて、市場には先行きの景気回復期待が高まった。

 東海東京証券・チーフエコノミストの斎藤満氏は、今回の結果について「輸出の回復傾向を示している」と分析している。米国の政策効果が浸透し始め、米消費が復調傾向をたどり始め、自動車や電機といった最終需要が立ち直り始め、そのことが輸出増へとつながるパスが描けると説明する。

 ある国内証券の株式トレーダーは「決算発表で悪い内容はすでに織り込んでおり、ネガティブな地合いではない。米国内総生産(GDP)は悪かったが、(米国は)株価が下げていない。今後もこういうことが続けば、ネガティブな要因があっても下げないのではないか」とみている。

 <市場に残る腰折れ懸念>

 もっとも連休の谷間で国内外の実需筋が活発に動いているわけではなく、「先物主導の上昇だ。月末のドレッシング買いなどが入れば一段高が見込めるが、現物市場に力強さはない」(大手証券)との声が出ている。

 三菱UFJ証券・シニアストラテジストの白木豊氏は「株価と同様に景気も、自律反発というところだろう。落とし過ぎた在庫が完全に復元するかどうかは疑問だ」と慎重にみている。白木氏は「大恐慌時にも景気はいったんリバウンドしたが、その後は二番底に向かっている。手控え過ぎた消費の反動が出ている程度で、雇用はこれから悪化が見込まれる。急激に落ち込んだ経済の修復は容易ではない。景気回復が限定的なことがみえてくる7―9月には企業業績の下方修正も予想される。今後1―2カ月程度は株高が持続する可能性もあるが、景気、株価の腰折れ懸念は残っている」とみている。

 また、インベストラスト代表の福永博之氏は「鉱工業生産速報は予測を上振れ、市場センチメントは強気に傾いている。米国では金融問題の悪材料をかなりの部分織り込んできたようで、金融株の上昇が目立つ」としながらも「国内では、企業決算で悪い数字が出た銘柄は売られ、決算での悪材料出尽くしで上昇しているのではないことがわかる。東京市場は連休の谷間となっており、明日の買いにつながるような決算が出るかどうかも含めて朝方の上昇を終日保てるかがカギとなる」と話している。

 <円債市場には、国債増発も重しに>

 円債市場では、国債先物が相場の下げを主導し、10年最長期国債利回りが一時、2営業日ぶりに1.450%に浮上した。米金利の上昇や鉱工業生産が予想を上回ったことが弱材料にされたという。

 クレディスイス証券・債券ストラテジストの福永顕人氏は「連邦公開市場委員会(FOMC)で一部参加者が期待していた国債買い取り増額などの措置がとられず、米債券相場が売られた流れを継いだ」と指摘した。大和証券SMBC・チーフストラテジストの末澤豪謙氏は「米金利上昇や株高を背景に商品投資顧問業者(CTA)などから売りが出た影響が大きいとみられる」と話した。

 また、みずほ証券・シニアマーケットエコノミストの清水康和氏の試算によると、最近の実現率が1.9%程度下振れしていることを勘案しても、4―6月期は前期比プラス2.8%となる見通し。外資系証券の債券ディーラーは「新規で売りに持ち替えた参加者も少なくなさそう」とみている。

 先物主導で相場が下げる一方で現物債利回りの上昇ピッチは鈍り、「国内投資家はむしろ残高積み増しに傾いている」(国内証券)との見方も残った。「現物市場では大きなロットで売りが出されているというよりは、押し目買い意欲がみられた」(前出の国内証券)という。

 また、国債の発行増も、市場関係者の思惑を左右している。ニッセイ基礎研究所・金融部門主任研究員の徳島勝幸氏は「円債市場ではもともと、国債の発行増が重石としてベースにくすぶっている。今回の追加発行計画の年限分散には果たして消化できるのかという疑問が残るうえ、今後の税収不足は回避できないことを踏まえると年後半にかけて再び増発せざるを得ないことになるだろう。債券市場はなかなか買い進めない地合いの中、株価が上昇すると敏感に反応してしまう状況だ」と述べている。 

 <円が急反落、依然乏しい方向感>

 為替市場では円が急速に売り戻されている。米国株が2%超の切り返しを見せたことなどを手掛かりに、今週前半にドルやユーロに対して1カ月ぶり高値を付けていた円が急反落した。ユーロ/円はきょう午前の取引で一時130.25円と17日以来の水準を回復。ドル/円も前日海外でつけた24日以来の98円乗せに迫った。28日からの上昇幅はユーロ/円や英ポンド/円が6円弱、ドル/円も2円超に達した。

 急速な円売り戻しのきっかけとなったのは米国株の反発。29日海外では、クライスラー破たんの可能性やストレステストをめぐる報道を受けても強含みが続いたことで「株がかなり底堅くなってきた」(外銀)として、株高が続けば投資家のリスク回避姿勢が緩和し、円が売られやすくなるとの見方が広がったという。

 ドル/円上昇の一因として、ドル買いの側面を指摘する声もある。前日に米国で発表された第1・四半期国内総生産(GDP)速報値は年率換算で前期比マイナス6.1%と事前予想を大きく下回り、1974―75年以来の3四半期連続マイナス成長となったが、在庫の大幅な落ち込みがGDPを押し下げただけに、市場では逆に、景気回復に向けた支援材料と位置づける声も上がってきたためだ。

 米連邦準備理事会(FRB)も前日に公開したFOMC声明で、米景気は「収縮のペースが幾分減速している(somewhat slower)ように見受けられる」としており、市場では「なりふり構わず(対策などを)やれば(景気回復という)結果が出るということだろうが、世界景気が回復に向かうときは、米国が頭ひとつ(他国を)リードする可能性も出てきた。ドルの下支えとして機能するかもしれない」(別の外銀)との声が出ている。

 ロイターがFOMC後に実施した聞き取り調査では、米プライマリーディーラー11社中5社が、第3・四半期にプラス成長に転じると予想している。

 ただ、ここ1週間程度で値動きを見ると、ドル/円の97円台、ユーロ/円の130円台は、一時の円高圧力が後退して前週後半の水準に戻ってきただけ。結局「為替市場はトレンドが見い出せない中、ポジション繰りで上下している」(さらに別の外銀)と、引き続き方向感は乏しいとする声が上がっている。

 (ロイター日本語ニュース 田巻 一彦)

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