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コラム:「円安第3波」を呼び込む2つの条件=上野泰也氏

[東京 11日] - ドル円相場が狭いレンジ内で推移し続けている。今年に入ってからでは、ドル高値(円安値)が105.45円(1月2日・ロンドン市場)、ドル安値(円高値)が100.76円(2月4日・東京市場)で、値幅は4.69円にすぎない。

 7月11日、みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、米長期金利上昇と日銀追加緩和観測の再燃という円安再開のヤマ場は今年10―12月に訪れると予想。提供写真(2014年 ロイター)

年初に筆者を含む多くのエコノミストが予想した100―110円前後のレンジのほぼ下半分に押し込められたまま、半年以上がすでに経過した。

1985年以降についてドル円の年間値幅を調べてみると、最も小さかったのは11年の10.21円(75.32―85.53円)。第2位が12年の10.76円(76.03―86.79円)。第3位が06年の10.91円(108.97―119.88円)である。

このうち11年と12年は、米住宅バブル崩壊後の「リスクオフ」を原動力にした逃避的な円買いの流れに歯止めがかかった重要な節目の年であり、75.32円と76.03円でドルはチャート上でダブルボトムを形成した。トレンドの転換点付近で上下双方向の力がぶつかり合ったため、ドル円の値幅は結果的に狭くなったと解釈できそうである。

これに対し、足元のドル円のボックス圏推移には、相場の大きな転換点が近くにあるといった感触は乏しい。広い意味の「アベノミクス」期待を原動力にして、「スピード違反」的に円売りドル買いの動きが加速する「波」が2度にわたって訪れた後で、調整色の強い取引が連日行われており、それを打破するきっかけになる材料がまだ出てきていないというだけの話のようにみえる。

むろん、実際にそうなってほしくはないが、仮にこのまま年末まで「凪(なぎ)」の相場状況が続く場合、年間値幅は85年以降の最小記録を大幅に更新することになる。

筆者のみるところ、ドル円が円安ドル高方向の動きを再開する「円安第3波」につながる材料は2つある。米長期金利の一段の上昇と、日銀による追加緩和観測の再燃である。いずれも今年10―12月期が大きなヤマ場になると見込まれ、少し先の話である。ということは、何か想定外の大きなイベントでも発生しない限り、夏場は101-102円台を中心とするボックス圏推移がこのまま続きやすい。

<早期の米長期金利上昇は望み薄>

上記の2つの材料について、少し説明しておきたい。

まず米長期金利の上昇シナリオだが、今年前半は「待ち人来たらず」とでも形容できそうな状況だった。米10年債利回りは、1月2日に一時3.05%まで上昇した。しかし、その後は2%台後半でボックス圏を形成。経済指標・要人発言・地政学リスクなどを材料として消化しつつ、2.75%を中心点にして利回りが上下動する時間帯が長くなった。

年金マネーの超長期債購入需要の大きさが注目された5月には、米国の潜在成長率やフェデラルファンド金利の中立水準が大きく低下したのではないかという思惑が浮上。これに月末恒例の債券買い需要や、売り持ち筋による損失確定目的の債券買い戻しなどが加わり、2.40%まで米10年債利回りが低下する場面が29日にあった。

この2.40%が今年のボトム水準になった可能性が高いと筆者はみているが、日本の銀行勢を含めて、金利水準がある程度上昇してから米国債などを購入しようと待ち構えていた投資家がいわゆる「買えていない」状態のまま年央を通過してしまったことから、2.65%前後、2.75%前後、さらには3%ちょうどといった節目水準では米10年債の買い注文が厚くなることが十分予想される。

すなわち、10―12月期に量的緩和の縮小・停止プロセスが完了する中で、米国の物価指標が予想比で上振れるなどして債券の明確な売り材料が提供されるとしても、米長期金利の上昇は段階的で、やや時間がかかる動きにならざるを得ないということである。

<日銀追加緩和はないのか>

次に、日銀の追加緩和問題はどうか。最近の動きで目を引いたのが、黒田東彦日銀総裁がCPIコア(生鮮食品を除く消費者物価)前年同月比について、当面はプラス幅が縮小する可能性が高いと認める発言をしたことである。

黒田総裁は6月23日に経済同友会の会員懇談会で行った講演の中で、「特に、これから夏場に向けては、前年比プラス幅が一旦1%近傍まで縮小するとみられます」と述べた。日銀はCPIコア前年同月比(消費税率引き上げ要因を除く、以下同じ)の今後の推移について、「暫くの間、1%台前半で推移」した後、「本年度後半から再び上昇傾向をたどり」、15年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性が高い、と説明してきた。だが、上記の総裁講演では、プラス幅が「夏場に向けて」「1%近傍まで」いったん縮小するという予想を新たに加えた。

一時的にプラス1%をわずかに下回る(たとえばプラス0.9%になる)可能性についても、あらかじめ含みを持たせた形であり、この部分については民間予想に近づいたと言える。そしてそのことによって、CPIコア前年同月比のプラス1%割れが追加緩和に「直結」する度合いが、日銀によって意図的に弱められたとも言えそうである。

もっとも、プラス1%やプラス0.9%が記録された後で、日銀のシナリオ通りにCPIコア前年同月比のプラス幅が今年度下期に拡大していかないようだと、結局のところ日銀は自らが掲げてきた物価シナリオと現実の物価の動きとのギャップを認めた上で、追加緩和に動かざるを得なくなると見込まれる。

筆者は「円安第3の波」が到来する時期について、前回の当コラム(5月13日配信)で「7月以降」にずれ込むだろうと予想した。その後の米長期金利のパスなどに鑑みると、どうやらその時期はさらに後ずれして「秋以降」ということになりそうである。

米10年債利回りが3%ラインを決定的に超えてくれば、ドル円は105円台を回復して円安ドル高方向に進んでいく余地を模索することになるだろう。その際に日銀の追加緩和観測が再燃していれば、側面支援的な材料になる。だが、それはもう少し先の話である。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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