[東京 14日 ロイター] - 原油価格の上昇が一服したにも関わらず、国内のガソリン価格は上昇を続けている。ガソリンスタンドが採算改善のため、価格転嫁を進めているためだ。
イラク情勢緊迫化で原油価格の先行きは不透明感が強く、仮にガソリン価格の高止まりが継続するようなことになれば、物価上昇圧力となり、日銀も動向を注視しているもようだ。
<ガソリンは11週連続の上昇>
アジア市場の指標となるドバイ原油のスポット価格は6月に大幅上昇し、6月末にはバレル約109ドル近くを付けた。
その後は、イラク情勢こう着による供給懸念後退で下落基調に転じ、10日は105.80ドルと約1カ月ぶりの安値をつけた。
一方、ガソリン価格は11週連続で上昇しており、資源エネルギー庁が9日発表した7日時点のガソリン店頭価格(全国平均)は前週比1.3円高の1リットル169.7円と、約5年10カ月ぶりの高値となった。
石油情報センターは、この原油価格とガソリン価格の推移のかい離について「これまでの原油高や円安によるコスト増を転嫁できなかったガソリンスタンドが、価格を引き上げている」と説明している。16日公表予定の14日時点での価格も「原油下落で(ガソリン精製)コストは下がるはずだが、ガソリン価格は引き続き上昇する見通し」(同センター)という。
<変わる過当競争体質、値上げ通りやすく>
ガソリンスタンドは、典型的な過当競争業界として有名だったが、ここにきて様子が変わってきている。ピーク時の2004年度に全国で6万軒を超えていたが、2012年3月末には3万7000軒台に減少し、足元ではさらに減っている。
消防法の改正による地下埋蔵タンクのガソリン漏えい防止対策の義務付けによって、対策のためのコスト負担に耐えられないガソリンスタンドが廃業し、減少ペースを加速させているという。
そうした中で今年4月から消費税が引き上げられ、ガソリンの販売価格に上乗せされた。同業他社が一斉に上乗せしたので、これまでの過当競争体質から一転、値上げの動きが広がった。
最近の値上げの動きの背景には「値上げできる」という業界のムードが影響しているという。エネルギー情報会社のリム情報開発(東京都中央区)によると、ハイブリッド自動車や燃費の良い自動車の普及で、ガソリン需給にひっ迫感はみられないが「同業他社の動向をみて価格を転嫁している」という。
中期的には国主導の石油元売りの供給過剰是正が、元売りによるガソリンの卸価格引き上げ要因となる。経済産業省は6月30日、石油元売り各社に対して国内の原油処理能力を2017年3月末までに最大約1割削減するよう促す新基準案を示した。
<原油価格の先行き、見方分かれる>
ただ、ガソリン価格の方向性を左右する原油市況の見方は分かれている。住友商事グローバル・リサーチの高井裕之社長は、世界的な原油の実需は弱いうえ、イラクの原油埋蔵量の大部分は、武装組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の占拠していない南部にある上、ニューヨーク市場の原油先物の動きをなどから「上昇より下落要因が多い」と指摘する。
一方、みずほ総合研究所・市場調査部の井上淳主任エコノミストは「潜在的な中東リスクが高まっている状態が長期化する可能性がある」と指摘。1990年のイラクによるクウェート侵攻のような軍事衝突が勃発すれば「150ドル程度まで上がってもおかしくない。起きなくとも下値は切りあがった」とみる。
<ガソリン値上げ、物価上昇率の低下に歯止め>
ガソリン価格の上昇や高止まりが続けば、国内の物価上昇圧力となる。日銀は、2%の物価上昇率を目指し、量的質的金融緩和(QQE)を継続しているが、原油価格とかい離して上昇するガソリン価格を注視している。
目安とする消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)は、今年4月に消費税の影響を除き前年比1.5%まで上昇した後、円安効果のはく落で8月は1.2%程度までプラス幅が縮小するとみている。
だが、ガソリン価格の動向次第では、1.3%でコアCPIの上昇率縮小が止まると試算しているようだ。
みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「冬場までガソリン価格の高止まりが続けば、景気へのダメージが大きい。物価上昇には寄与するが、悪い物価上昇だ」と警戒している。
竹本能文 編集:田巻一彦
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