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コラム

コラム:ウクライナ侵攻、プーチン氏の「脅し」にあらず

[7日 ロイター] - ウクライナ軍が同国東部で攻勢を強め、親ロシア派が支配する都市を制圧する構えを見せる。一方、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナへの侵攻の準備とばかりに国境付近に約2万人の兵士を集結させた。ロシアが侵攻する可能性が高まっているのは明らかだ。

 8月7日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナへの侵攻の準備とばかりに国境付近に約2万人の兵士を集結させた。侵攻の可能性が高まっているのは明らかだ。写真は5日撮影(2014年 ロイター /Alexei Druzhinin/RIA Novosti/Kremlin)

だが、それはまだプーチン大統領にとって2番目の選択肢にすぎない。なぜそうなのか、何が大統領の考えを変え得るかについて考えてみたい。

プーチン大統領は何としてでもウクライナを「ロシア圏内」にとどめておきたいと考えている。それには、以下の2つを確実にすることが欠かせない。1)ロシアが引き続きウクライナ南東部への影響力を維持すること。2)ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)への加盟をめぐり、ロシアが事実上の拒否権を持つことだ。この2つには、ウクライナ東部に独自の対外経済政策を許し、NATO加盟に関しても拒否権を発動できるようにする同国の連邦化が必要だ。言うまでもなく、ウクライナのポロシェンコ大統領にとっては全く受け入れられない話だろう。故に、プーチン大統領には強硬な手段(介入)か、超強硬な手段(侵攻)のどちらかを取るしかない。

プーチン大統領が現在取っている政策は、持続的な介入だ。親ロ派を通して不安定な状況をつくり出し、統一国家としてのウクライナがロシアから離れることを困難にしている。「長期戦」となれば、ウクライナ政府がロシアの影響力が強まる連邦制を受け入れざるを得なくなるまで、ロシアは親ロ派への武器支援やウクライナへの経済圧力を続けることになる。

一方、侵攻に出れば、介入よりはるかに高い代償を伴うことになる。そもそもロシア国民はそれを望んではいない。国民の大半はプーチン大統領のウクライナ政策を支持しているが、ロシアの調査機関レバダ・センターによる最近の世論調査では、51%がウクライナ侵攻に反対と答えている。一方、賛成と答えた回答者はわずか29%だった。

侵攻して手に入れた領土の保持にはばく大な費用がかかるだろうし、スラブ民族同士の血で血を洗う争いがロシアで報道されれば、プーチン大統領の人気は急落するだろう。また、明白な侵略行為は、対イラン制裁のような一段と厳しい制裁を米国から受けることにつながりかねない。そうなれば、欧州も米国と足並みをそろえることになるだろう。

プーチン大統領が今は介入策を選んでいるとはいえ、侵攻に向けて準備していてもおかしくない。侵攻の脅しだけでも戦略的利点があるからだ。第1に、ドネツクとルガンスク両州の包囲がどんな結果を招くかを示すことで、ポロシェンコ大統領に対する抑止力となる。第2に、プーチン大統領がすでに取っている不明瞭な形での介入から気をそらし、西側諸国に「ロシアは侵攻するか否か」という点に注意を向けさせることができる。

ただ間違ってはいけない。プーチン大統領は、抑止力として、または状況を混乱させるための「はったり」だけで進攻を準備しているわけではない。これは大統領にとって「バックアップ・プラン」でもある。

もしウクライナが親ロ派の拠点の制圧をやめるなら、もしくは失敗するなら、介入という長期戦が続くことになるだろう。市街戦の難しさを考えると、その可能性が最も高いように見える。しかし、もしウクライナ軍が親ロ派を圧倒するなら、侵攻はプーチン大統領に残された唯一のカードとなるかもしれない。

そうなった場合、プーチン大統領はどのように侵攻するだろうか。すでに下準備は整っている。親ロ派の人道的支援の要請に応える形で、平和維持活動という任務を装って侵攻は進んでいくだろう。すでに平和維持活動の記章をつけたロシアの車両が国境付近に現れたとの報告もある。

プーチン大統領はウクライナからの独立の是非を問うたドネツク州とルガンスク州の住民投票に「敬意」を表した。もしかしたら侵攻したうえで、それはウクライナの本当の領土ではないという驚くべき主張をするかもしれない。

平和維持活動という口実が米国の強硬姿勢を和らげることはないだろう。だが、欧州には、すぐに腰を上げない国も恐らくあるはずだ。そして他のBRICS諸国は、傍観する姿勢を崩さないだろう。

差し当たり、プーチン大統領にとって最善の選択は侵攻ではなく、介入だ。しかし、ウクライナ軍が優位となれば、大統領の考えは変わる可能性がある。侵攻は、単なるはったりや交渉の切り札ではない。そのリスクは極めて現実的なのだ。

*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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