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地政学リスク拡大し市場大荒れ、警戒されるエネルギー価格上昇

[東京 8日 ロイター] - マーケットは大荒れの展開となった。オバマ米大統領がイラクへの限定的な空爆を承認したことで、リスク回避の動きが強まり、株安・円高・金利低下が加速した。一方、ウクライナ情勢の緊迫化によっても比較的落ち着いていた原油価格が、足元で上昇。エネルギー価格が、中東情勢の悪化により上昇に転じれば、世界経済に大きなダメージを与えかねないと警戒されている。

 8月8日、マーケットは大荒れの展開となった。オバマ米大統領がイラクへの限定的な空爆を承認したことで、リスク回避の動きが強まり、株安・円高・金利低下が加速した。写真は都内で撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)

    <ウクライナの高まる緊張感が背景>

オバマ大統領のイラクへの空爆承認がダメを押したが、もともとマーケットには地政学リスクに対する警戒感が広がっていた。ウクライナをめぐる情勢が、ここにきて一段と緊迫化していたためだ。

北大西洋条約機構(NATO)によると、ウクライナ東部の国境に約2万人のロシア軍が集結。ロシアは人道的任務または平和維持活動を口実に、ウクライナ東部に派兵する可能性があるとみられている。

さらに欧米の制裁措置に対し、ロシアは野菜や肉など食料品の輸入禁止を表明。報復に打って出た。これまで市場ではロシアと欧州の経済的な結びつきの強さから、対立はエスカレートしないとの見方が多かったが、「マレーシア航空機撃墜で状況は一変した」(国内証券)という。

「民間人が犠牲になったことで、欧米側は生ぬるい制裁では許されないという雰囲気になり、ロシア側も妥協は許されないという国内世論が強まった」とニッセイ基礎研究所・上席研究員の伊藤さゆり氏は指摘する。

制裁・報復措置は今のところ、どちらの経済にも破壊的な影響を与えない内容となっており、妥協への道が閉ざされていないのが救い。

だが、マレーシア航空機撃墜のように突発的な出来事が発生し、対立がエスカレートする可能性もあり、市場の警戒感は強い。

<中東情勢も一気に緊迫>

そこに米国によるイラクへの空爆承認のニュースが流れ、マーケットは一気にリスクオフに傾いた。

オバマ米大統領は7日、イラク北部に展開しているイスラム過激派組織「イスラム国」に対する限定的な空爆の実施を承認したと表明。大統領は、地上部隊を投入することはないと強調。米国がイラクの戦争に深く関与することはないと述べたが、2011年末のイラク駐留米軍撤退から大きな政策転換となる。

日経平均.N225は450円を超える下落となり、2カ月超ぶりの安値水準となる1万4700円台後半まで水準を下げた。ドル/円も102円台前半から101円台後半まで軟化。10年国債利回りJP10YTN=JBTCは一時0.505%と4月以来の低水準を付けた。

もっとも、他のアジア市場では、香港ハンセン指数.HSIは前日比ほぼ横ばい、韓国総合指数.KS11は1.14%の下落と日経平均の3%近い下落は突出している。投機的な売りが日本株に集まった可能性もある。

野村証券エクイティ・マーケット・ストラテジストの伊藤高志氏はパニックになる必要はないと指摘。「ユーロ安が続けば、欧州企業と競合する日本の工作機械や社会インフラ産業などが、受注で苦戦する可能性もある。だが、全体としてみれば日本企業にとって欧州はかつてほど利益を稼ぐ市場ではなくなっている。日本への直接的な影響は限られる」との見方を示す。バリュエーション面からみて日本株は割安圏に入っているという。

    <安定していたエネルギー価格に転機か>

ただ、ロシアの経済が疲弊すれば、欧州経済も少なからずダメージを受ける。さらに欧州が主力輸出先の中国も影響を受けるといった負の連鎖が起きれば、日本も無傷ではいられない。さらに警戒されるのがエネルギー価格の上昇だ。

シナリオが変わったといわれる7月17日のマレーシア航空撃墜の後も、実は原油価格は下落していた。米国産標準油種WTIの中心限月9月物CLU4は7月16日に1バレル100.60ドルだったが、前日7日終値は97.34ドルだ。

「ロシアと西側諸国に妥協の余地が残されているとみられていたほか、実際に貯蔵施設や精製施設などエネルギー施設への直接的な攻撃には至っていなかったためだ」(ばんせい投信投資顧問・商品運用部ファンドマネージャーの山岡浩孝氏)という。

しかし、米国のイラク空爆承認の報で、原油価格も反発。WTIは1ドル超上昇し、98ドル台前半、北海ブレントも1ドル超上昇し、106ドル台まで水準を切り上げている。

ウクライナなどでの地政学リスクの高まる中でも、マーケットが世界経済の減速を限定的にしか織り込んでいかなかったのは、エネルギー価格が安定していたことが大きい。原油価格などが上昇に転じれば、実体経済へのダメージだけでなく、インフレ圧力が強まり、先進国の金融緩和路線の障害にもなりかねない。

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は7日の理事会後の会見で「特にエネルギー価格に起因した(経済)リスクが見られる」と指摘。日銀の黒田東彦総裁も8日の会見で、原油価格の高騰が起きれば、原油輸入国である欧州やアジア諸国の経済に影響を与えかねないとの見解を示した。

SMBC日興証券・シニアマーケットエコノミストの嶋津洋樹氏は、地政学リスクについて「マーケットは大きく反応しているが、今は日本経済に大きな影響は出ていない。しかし、エネルギー価格が上昇すれば話は別だ。大きな下押し圧力となりかねない」と警戒感を示している。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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