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インタビュー:異次元の高齢化、病院刷新で建設業に恩恵=野村総研

[東京 27日 ロイター] - 少子高齢化と人口減少への危機感が高まっている。避けて通れない構造問題に日本経済はどう対応できるのか。野村総合研究所の上席コンサルタント、山田謙次氏は、ロイターとのインタビューで、日本が2025年に「異次元の高齢化社会」を迎えると指摘。医療費膨張による財政危機を防ぐにはジェネリック医薬品の使用や在宅医療の拡大が重要とする一方、病院の刷新・拡充の需要で建設業などが恩恵を受けるとの見方を示した。

8月27日、野村総合研究所の上席コンサルタント、山田謙次氏は、日本が2025年に「異次元の高齢化社会」を迎えると指摘する。写真は都内の病院改築現場。昨年12月撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino )

インタビューの主なやり取りは以下の通り。

──高齢化の進行ペースと財政への影響は。

「日本で最も人口が多い世代である団塊の世代が2012─14年に65歳以上の高齢者となり、2022─24年には後期高齢者となる。その前後の世代も含めれば、2025年には人口の3割が65歳以上の高齢者、2割近くが75歳以上の後期高齢者となり、まさに異次元の高齢化が日本で進行する」

「国民平均での医療費は一人当たり約30万円だが、高齢者一人あたりの年間医療費は70万円から90万円程度になる。現時点では、2025年には医療費が70兆円程度、介護費が20兆円程度、合計90兆円程度と、現状の倍になると予測されている。高齢者が増加するにつれ医療費は増えるが、総人口は減り続けるため、一人当たりの負担や財政負担は著しく増えるだろう」

──そうした医療費・介護報酬には歳出削減のメスが入ると考えられる。どのような改革が考えられるのか。

「政府は確かに医療費・介護費抑制に向けて動き出している。現時点で取りざたされているのは、ジェネリック医薬品使用の普及、医療・介護連携による在宅医療・看護へのシフトの推進、ITを用いた健康診断・検査結果の共有による予防の促進や重複診療の回避、終末期医療のあり方などだ。一般にジェネリック医薬品は新薬より3─5割安で処方されるため、医療費抑制に寄与する」

「在宅医療へのシフトは入院日数の削減と医療費の抑制が目的だ。一般に入院治療は在宅医療よりも費用が高い。入院患者には、在宅医療で十分な人や病院で最期を迎えようとして入院する人も多い。在宅で医療や介護を受けたり、終末期を過ごしたいというニーズに対応する体制や仕組みが十分できていない」

──ITの活用はどうか。また、終末医療の抑制は可能なのか。

「2008年から特定健康診断・特定保健指導が制度化された。生活習慣病の放置による心・脳血管疾患の発病・悪化予防が目的だ。ITによる医療保険・医療機関・本人の情報共有がより進めば、効果が明確になるものと期待されている。また、健診・検査結果のITによる共有は、異なる専門医療機関間でも、診断や治療方針の共有ができることになる」

「世界的には高齢期・終末期の治療そのものを制限する考え方もある。例えば、透析については、医療費支出は患者一人当たり、ひと月で50万円かかる。過激に聞こえるかもしれないが、透析開始年齢に制限が設けられている国もある。しかし、日本で年齢制限が設けられることは、終末期の医療のあり方の検討や議論が国民的に進む必要があり、現段階では政治的にありえないだろう」

──在宅医療・介護へのシフトはどう進む見通しか。

「このシフトは、地域包括ケアシステム構想と一体になっている。これは人口1万─2万人が居住する移動時間約30分以内の日常生活圏域で、日常的な医療・介護を十分に供給する体制を再構築する構想だ。しかし、需要と供給がまだうまく均衡しておらず、例えば病床数のミスマッチが問題視されている」

「老人医療には、高度な医療が可能な高機能病院、中間的な医療を提供する亜急性期医療病院、介護などの日常のケアを受ける老人病院がある。本来なら病床数は老人病院が最も多く、亜急性期病院、高機能病院の順で少なくなるピラミッド型になるべきだが、亜急性期医療病院の病床数は少ない。今後は病院の集約・再配置が進むだろう。介護面について、高齢者にまとめて近隣に住んでもらうという動きがある。サービス付き高齢者向け住宅などに移ってもらうことで、見守り機能の強化とより効率的な介護が図られている」

──関連企業への影響は。

「業界への影響を考えれば、医療・介護サービス需要そのものの伸びは抑制されながらも、全体の市場規模は大きくなり続けるだろう。さらに、建設業・設備産業・医療機器メーカー・情報システムなどへの需要も拡大する」

「地域包括ケアシステム構築への動きの中で、医療機関や介護施設・サービスなどの集約・再配置が起こると考えられる。加えて多くの医療機関は築30、40年となるため建て替え需要の時期とも重なる。サービス付き高齢者向け住宅へのシフトは既に建設需要を後押ししている。医療機器、情報システムなども、医療・介護の再編・集約に伴い新規・更新需要が伸びると考えられる」

──製薬会社は、ジェネリック医薬品の普及政策にどう対応しているのか。

「もちろん古い先発薬だけを頼りにする企業にとっては影響は大きいが、多くの製薬企業はそれを見越した戦略をとっている。新薬開発に力を入れる企業も、自らの傘下にジェネリック医薬品の製造販売をする部門を持つなど、対策を講じている。第一三共4568.Tやエーザイ4523.Tはジェネリック事業会社や部門を持っているほか、武田薬品工業4502.Tは関連会社のあすか製薬4514.Tがジェネリック事業を展開している」

「また、各新薬製造会社は主力医薬品の特許が切れる『2010年問題』を早くから認識していた。だからこそ、研究開発力を高めるために合併を進めたり、バイオベンチャーに投資するなど、新たな医薬品の開発に尽力している。合従連衡や再編は今後も進むと思われるが、備えもある程度はあると考えるのが自然で、倒産が相次ぐような悪影響は拡大しないだろう」

──高齢化進行でヘルスケア産業には恩恵が予想される。どういう分野が対象になるのか。

「(ヘルスケア産業とは)狭い定義では、医療費・介護報酬によりカバーされる分野のことだ。政府はこれらに対し、2012年度で約45兆円(医療費37兆円、介護費8兆円)の支出を行っていると推計されている。より広いものには、健康産業がある。これには健康食品やフィットネスクラブ、いわゆる大衆薬などが含まれ、市場規模は調査や統計によるが、順に1兆円以上、約4000億円、約6000億円となっている」

*インタビューは19日に行いました。

喬淳 編集:伊賀大記

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