[東京 31日 ロイター] - 日銀の追加金融緩和に対し、金融市場ではサプライズ感が広がっている。緩和内容の評価は分かれているが、タイミングは意表を突いた。日経平均.N225が約7年ぶりの高値を付けたほか、ドル/円相場は、約6年10カ月ぶりの水準に上昇。中長期国債利回りは昨年春以来の水準まで低下している。
市場関係者のコメントは以下の通り。
●ドル/円にポジティブ、市場インパクトの最大化を優先
<野村証券 チーフ為替ストラテジスト 池田雄之輔氏>
黒田総裁は、今までの(景気に関する)説明や、日銀の原理原則よりも、市場へのインパクトを最大化させることを優先させている。さらに、今回は、日銀と年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の協調体制がアピールされた。この日、国内メディアでは、GPIFが国内債券を中心とした運用方針を大きく変えると報じているが、追加緩和によって、債券市場での需給懸念は和らげられるだろう。
消費税の再増税は、ほぼ既定路線になっているようだが、今回の追加緩和は、日銀がその目的のために、なんでもするという決意を示したことに等しい。同時に、日銀が円安の行き過ぎを懸念しているとの市場の見方は、打ち消された。以上から、追加緩和はドル/円相場にとってポジティブなインプリケーションがある。
●GPIFと合わせ技で増税支援、総力戦に
<JPモルガン証券 チーフエコノミスト 菅野雅明氏>
GPIFの国債運用の減額を日銀が引き受け、次の増税を支援するという合わせ技だ。これで日本は総力戦に入った。これはやや漏れ聞こえていた部分もあり、計画されていたシナリオだとみている。それにしても、自分が予想していた以上のメニューが並び、サプライズだ。これで、政府・日銀のハネムーンが継続して、アベノミクスをさらに推進させようという意図が海外にも伝わったことと思う。
●消費増税実施に向けた強い意志の表れ
<松井証券 シニアマーケットアナリスト 窪田朋一郎氏>
日銀の追加緩和は市場にとってサプライズとなった。GPIFによる運用比率見直しに合わせたような印象で、10%への消費税引き上げに向けて政府・日銀サイドの強い意志が感じられる。国債市場でマイナス金利が付く中で、国債買い入れ額80兆円への増額を決定したほか、ETFやREITの買い入れ額も前回から3倍に引き上げられ、市場に与えるインパクトは十分だ。実務面や出口戦略云々よりも、消費増税を実施し財政を健全化させることに重きを置いているのだろう。
日本株は目先、乱高下しそうだが、昨年4月の異次元緩和実施後のように上昇基調を強めるだろう。日経平均は年内に1万8000円を目指す展開を想定している。
●ハロウィーン緩和は機動性重視、中身は小ぶり
<第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生氏>
今回の追加緩和は機動性を重視したもので、中身は小ぶりの緩和だった。長期国債30兆円の追加というのは、金額としては大きくない。黒田総裁としては、兵隊は少ないが機動性により大きく見せることに成功したのではないか。まさに増税への側面支援となった。
今日はバレンタイン緩和ならぬハロウィーン緩和となったが、カボチャが食べるところが少ない割に形が大きい、ということにあやかったものともいえるだろう。ただし心配なのは、円安が進んでいることだ。昨日のFOMCでもドル高の弊害に関する議論が出てきている。隣の芝生を荒らすことで文句がでないといいのだが。
●物価2%遠のく見方阻止へ、円安・株高で物価にプラス
<RBS証券 チーフエコノミスト 西岡純子氏>
日銀は短期的な物価下振れには対応しないと予想していたが、一番時間軸の短い足元の物価に対応してきたのは意外だ。なぜこのタイミングで実施したか、第1には、おそらく足元で2%目標の見通しが遠のいたことで、ショック療法によりデフレ脱却を何としても確実にしたいという意図だろう。追加緩和により、円安で輸入物価上昇を伴って直接的に物価に効くルートや、株高でマインド効果や与信効果が強まる。第2には、デフレ期待の転換により経済活動にはプラスになることもある。
今回の緩和は、日銀が先に追加緩和に踏み切るから安倍政権も次の増税に踏み切るべきとのメッセージは特にないとみている。あくまでも、短期的に物価下振れ・デフレ脱却に対応したものだ。ただ、結果として、株価の上昇もあり、政府による経済対策も実施されれば、財政・金融の両面から、増税実施への追い風にはなるだろう。
●長期金利は年内0.25%がメド
<東海東京証券・チーフ債券ストラテジスト 佐野一彦氏>
日銀は追加緩和を決定した。追加緩和の理由について、展望リポートや総裁会見などで確認する必要があるが、物価目標2%達成のためには追加緩和が必要と判断したのだろう。
2013年4月の異次元緩和決定直後には、長期金利が乱高下した。その時の経験が生かされて、長期金利は緩やかに低下するだろう。長期金利(10年債)は年内0.25%程度が低下のメドとみている。しかし、「天災は忘れたころにやってくる」ということわざがある。マーケットに何らかのショックが加わった場合、金利が低下しているだけに、その反動が起きる可能性はある。
●機動性を証明、日経平均1万8000円接近も
<岩井コスモ証券 投資調査部副部長 有沢正一氏>
若干サプライズだが、日銀の機動性を証明した。規模としてはそれほど大きなものではない。ただ、朝方発表された9月全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)から、消費税率引き上げによる押し上げ分2%を差し引くとプラス1.0%。タイミングとしては、物価目標2%の公約実現に向けた日銀の強いメッセージとなるが、来年4月まであと半年もない。冷静に考えてみれば、ここから動いても遅い印象もあり、日銀は物価に対し楽観視していたのではないかともとらえられる。
外為市場ではドル115円、日経平均は1万8000円をタッチする場面もあるだろう。株式市場にとっては円安はほぼ100%メリットとなるが、実体経済ではそうではない。輸出企業はメリットを受けているが、このメリットをすみずみまで波及させる政策が欲しいところだ。
●ポジティブ・サプライズ
<SMBCフレンド証券 チーフマーケットエコノミスト 岩下真理氏>
リスク資産の部分を増額したことで、マーケット的には大幅な株高となり、ポジティブ・サプライズとなった。円安もあり、強く効果が表れた。委員の追加緩和に対する賛成は5、反対が4と拮抗した点も注目される。
今回の追加緩和はマネタリーベースの増額まで踏み込んだ。テクニカルなことだが、国庫短期証券の買い入れが限界に近づく状況で、長期国債をいじる必要性が出てきていたようだ。金融市場の状況に応じて柔軟に運営することに配慮したと思われる。
景気判断の物価について短期的な部分が細かくなっている。展望リポートで物価見通しを落とすので、追加緩和を実施したと受け止めている。
●マネタイゼーション政策、円安とインフレ上昇招く
<BNPパリバ証券 経済調査本部長 チーフエコノミスト 河野龍太郎氏>
本日、経済が完全雇用に近い中で、追加緩和が行われた。追加緩和は、GPIFのリスク資産のウエート引上げ、2014年度補正予算の編成(3―4兆円)とパッケージで考えるべきだ。中央銀行が政府支出や政府機関のリスク資産購入資金をファイナンスするマネタイゼーション政策だと言える。追加財政の原資が税収の自然増だと言っても、本来、税収増が国債減額に充当されるはずだったことを考えると、結局、減額されなかった国債を日銀が購入しているという点でマネタイゼーションには変わりはない。
こうした政策を追求しても、トレンド成長率の上昇は期待できないが、間違いなく円安進展とインフレ上昇は生じる。ゼロ成長の中で、インフレ率ばかりが高まっていくことになる。
●ドル115円視野、「質的緩和」がインパクト
<三井住友信託銀行 マーケット・ストラテジスト 瀬良礼子氏>
マネタリーベースの観点からは、10兆円という規模では逐次投入の感が否めない。デフレ脱却にどういうメカニズムで効いてくるのかが釈然としない。ただ、国債のデュレーション長期化や、株式、REITの購入を織り交ぜるといった工夫によって「質的緩和」の面でのインパクトは出たといえるだろう。
足元では、円安に振れるスピードが速まった。目先のめどは、07年末につけた115円手前の水準。場合によっては118円─120円も視野に入ってくるだろう。基本シナリオは、日米金融政策姿勢の差による緩やかな円安だが、12月にも政府が判断する見通しの消費再増税が先送りなら「悪い円安」も想定される。財政健全化への意思が疑われると、長期的には真の意味での日本売りが来る可能性もある。
*内容を追加します。
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