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コラム:米利上げ期待を冷ます「静かなサプライズ」=村上尚己氏

[東京 20日] - 18日に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文では、金融政策の方針を示す「忍耐強く(patient)」の文言が大方の予想どおり削除された。代わりに金融政策の方針としては、「雇用の改善と中期的に2%インフレに戻るという合理的な確信が得られれば利上げが適切になる」という文言になった。

 3月20日、 アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト、村上尚己氏は、米金融政策当局者による政策金利見通しの下方修正は、6月利上げのハードルの高さを示したと分析。提供写真(2015年 ロイター)

先月のイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長による議会証言で、「忍耐強く」の削除と上記の方針変更が示唆されていたので、これはほぼ想定どおりの内容である。これによって、6月以降の利上げ判断のフリーハンドが確保された。

一方でサプライズだったのが、FOMCメンバーが示した2015年末のフェデラルファンド(FF)金利見通し(いわゆるドットチャート)の中央値が、前回12月の1.125%から0.625%に大きく下方修正されたことである。

タカ派メンバーが想定していた高すぎる金利水準が下方修正されることは予想されていたが、6月利上げ開始を視野に入れていたとみられるメンバーの多くが、2015年の政策金利の想定を前回12月から25ベーシスポイント(bp)引き下げたことが判明した。この年末のFF金利を前提にすると、2回の利上げとすれば利上げ開始は9月となる。

これまでのFOMCメンバーの発言や、過去2カ月極めて強かった雇用統計の数字などを踏まえれば、これらのメンバーによる政策金利の想定は大きく変わらないと予想する向きが多かった。例えば、9月利上げを見込む予測者でも、政策金利の想定を0.625%の中心値に下方修正するメンバーは少数にとどまるとみていたようである。

ところが実際には、5人以上のメンバーが、年末の政策金利の想定を引き下げたとみられる。この中には、イエレン議長も含まれていた可能性が高い。

<米国株・新興国株に好材料、ドル高にはブレーキか>

年初から最重要指標である雇用統計に大幅な改善が続いている。非農業部門雇用者や「忍耐強く」の削除だけみれば、2004年の利上げ開始のケースとほぼ同じである。

ただ、今回は、これまでのドル高がもたらす景気減速の悪影響、そしてインフレ率や賃金をみるまで、利上げ判断に踏み出すのは難しいとFOMCメンバーは考えているのではないか。「2%インフレに戻るという合理的な確信」を得るハードルは相応にまだ残っていると思われる。

もちろん、消費者物価や雇用コスト指数(ECI)などの今後の経済指標次第では、6月利上げの可能性は残されているし、イエレン議長もその可能性に言及している。ただ、前述したドットチャートの大きな変更は、FOMCメンバーの多くが本音では、そのハードルの高さを認識し、利上げ開始に慎重になっていることを示唆していると言えるのではないだろうか。

ところで、ドットチャートにはもう一つ興味深い点があった。それは、政策金利の2015年や2016年の想定が大きく下方修正される一方で、長期の想定については、3.5%とする人が増えて若干下方修正されたものの、半数以上のメンバーが依然3.75%以上とみていたことだ。

リーマンショック後に、先進国経済が長期停滞局面に入り、その成長経路が大きく屈折している可能性が議論されている。市場では、FRBが利上げを始めても2%程度で打ち止めになるというシナリオも一部では検討されているようだ。

ただ、多くのFOMCメンバーからみれば、潜在成長率がやや低下しているとしても、生産性上昇率が保たれているため、FRBは大幅な均衡金利の下方屈折を想定する必要はないということだろう。これは、利上げを始めたとしても、過去の利上げ局面と同様に、2%前後の成長率と2%のインフレ率という定常状態を実現することを、FRBがなお強く意識していることを意味する。

イエレン議長を中心とした現FOMCメンバーによる、目指すべき定常状態は変わらないし、その実現への意識は強い。このことが、今次の利上げ開始において、過去のケースよりも「万全を期す慎重な判断」となっていることに影響しているのかもしれない。

最後に補足すれば、利上げ開始が2015年後半か年末という見通しが今後強まるとすれば、当面は金利上昇余地が限られることになる。2月初めからの米国を中心とした金利上昇トレンドが、しばらくは止まるかもしれない。

一方で、FRBが利上げを急がないというメッセージを発したことで、「流動性相場」的な様相が強まるとすれば、これまで上昇していない米国株あるいは新興国株にとっては、目先のリスクが薄れたという意味ではポジティブだろう。為替についても、これまでFRBの6月利上げ開始を織り込んで、一方的なドル高が進んでいたが、それが落ち着く可能性がある。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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