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コラム

コラム:世界経済に物価上昇の逆風、政策引き締めや購買力低下も

[ロンドン 14日 ロイター] - 世界的なインフレは、より幅広いモノやサービスに波及しつつある。消費の回復スピードが、製造業や運輸業、サービス業が短期的に拡大できる供給能力よりはるかに急速なためだ。

 10月14日、世界的なインフレは、より幅広いモノやサービスに波及しつつある。消費の回復スピードが、製造業や運輸業、サービス業が短期的に拡大できる供給能力よりはるかに急速なためだ。ペンシルベニア州のショッピングセンターで2018年12月撮影(2021年 ロイター/Mark Makela)

新型コロナウイルスのパンデミックに起因する、かつてないほど深刻な景気後退から経済が持ち直したことに伴うこうした物価上昇について、政策担当者は以前、「一過性」の現象だと説明した。しかし物価上昇は彼らの想定よりも規模が大きく、期間が長くなっている構図が明らかになってきた。

物価上昇加速は既に消費者と投資家の期待に織り込まれており、家計や企業が失った購買力を取り戻そうとする過程で加速の流れが一層定着する蓋然性が高まっている。家計が賃上げ要求を達成した場合は、賃金主導の物価上昇スパイラルを誘発する条件が生まれ、財政・金融政策はより積極的な引き締めを迫られる確率が切り上がる。そうしなければ、実質ベースの所得と購買力が目減りして消費を圧迫し、景気拡大は現在の勢いが相当弱まる。

いずれにしても物価上昇加速は世界経済にとって大きな逆風であり、この流れが定着するほど、来年の経済成長に及ぼすマイナスの影響が増大する。

<米国の状況>

米国では消費者物価指数(CPI)の過去2年間でみた年間上昇率は約3.4%と、米連邦準備理事会(FRB)が非公式の目標としている2%強よりもずっと高い。この上昇ペースが続けば、賃金の実質購買力は20年ごとに半減する形で、大半の世帯にとっては到底無視できないスピードと言える。

変動の大きい食品・エネルギーを除くコアベースでも、過去2年の年間上昇率は2.9%で、この25年間で最も急速だ。コアCPI上昇率は、ロックダウン解除に伴う企業活動の影響で第2・四半期に異例の上振れを見せた後、ここ数カ月はやや伸びが鈍化した。とはいえ、6月から9月までの前年比上昇率は2.7%強と、1995年以降の3カ月間の数値としては上から17番目の高さだ。

物価上昇はこの25年間でも比較的急速なので、人々は直感的にインフレを素早く体感している。

<予想物価上昇>

消費者は、直近の物価情勢を巡る経験を踏まえて、予想物価を認知し、修正し始めた。ミシガン大学の月間調査によると、米国の消費者は今、物価がこの1年で平均4.6%、5年では年間3.0%上がると見込んでいる。向こう1年の予想物価は2011年以降で最も高く、1995年からの全ての月の数値でも上から2番目。家計が相当な物価高局面に備えている様子がうかがえる。

向こう5年の予想物価も13年以来の高い伸びで、1995年からの全ての月では上から26番目。最近の物価上昇加速のかなりの部分が持続することを示唆している。

プロの投資家と債券トレーダーも物価上昇加速を認識し、それに見合う利回りを求めるようになったため、債券と株式の価格に下押し圧力をもたらしている。通常の米国債と物価連動国債の利回り差で、市場の予想物価の指標となるブレークイーブン・インフレ率(BEI)で想定される今後10年のCPI上昇率は年間平均2.5%強になった。

このBEIが示す予想物価は、1997年初め以降の全ての月で上から7番目。ここからも相対的に物価が高い環境が根を下ろしそうなことが読み取れる。

<世界的現象>

物価上昇加速は米国に限った話ではなく、世界の主要国全体、また原材料から生産者物価、消費者物価と供給網のあらゆる段階で顕著だ。

中国では9月の生産者物価上昇率が前年比10%超と過去最高の伸びを記録。製造業は十分な原材料と電力の確保に苦戦を強いられている。ユーロ圏の9月CPIの前年比上昇率は3.4%で08年以降最も高い伸びになった。最近の天然ガスと電力の価格高騰により、今後一段と上振れるだろう。

世界銀行のコモディティー価格に関する月次調査からは、エネルギーが過去2年で年間20%、食品が同19%上がったことが分かる。

そこで今、問題となるのは、賃金と所得の上向くスピードが物価に追いつけず、物価上昇と景気過熱に必要な「燃料」が奪われて失速してしまうのか、あるいは中銀が物価圧力を再び制御できる地点まで弱めるために金融緩和措置をある程度巻き戻すことを迫られるかだ。

<失速リスク>

この先最もあり得そうなのは、来年中ないし23年の初めに、米国と世界経済の勢いがある程度弱まり、景気回復が早い段階で停滞するか、景気拡大中盤で減速する展開だろう。

景気循環は「拡大」と「交代」の二分論で説明されることが多い。しかしこれは分かりやすく単純化したにすぎない。現実の成長率は変動が激しく、加速と減速の局面が入れ替わり、最も大きな落ち込みだけが後退と定義される。

米国の供給管理協会(ISM)製造業景気指数で見ると、1980年以降に少なくとも11回の著しい減速局面があった。平均して3─4年に1回だ。ところが全米経済研究所(NBER)の景気循環日付認定委員会が定めた景気後退は6回で、平均6─7年に1回にすぎない。

ほとんどの(公式認定された後退期と後退期の間の)景気拡大局面には、少なくとも1回は景気回復の早い段階での停滞か、景気拡大中盤での一時的減速が含まれていることになる。例えば過去2回の景気拡大には、それぞれ02/03年と12/13年の回復段階序盤の停滞があった。当時政策担当者はこれらの時期を「ソフトパッチ」もしくは「一時休止」と表現していた。

直近の景気拡大でも15/16年に踊り場的な動きがあり、いずれ拡大期中盤の減速、疑似後退、あるいは宣言なしの後退などと定義される可能性がある。

こうした15/16年の景気後退に近い経済状況への不満が、既成政治体制に対する反感を呼び、ドナルド・トランプ氏が米国の大統領になった理由だとも説明できそうだ。

中銀当局者は、過去に起きたような景気回復の早い段階での停滞が再燃するのを避けたがっており、それだからこそ超低金利政策と債券買い入れをより長く続けようとしている。目指しているのは景気回復をできるだけ根付かせ、基本的な経済の勢いを最大限に高めた後で緩和を巻き戻すという路線だ。ところが物価上昇が、非常に厄介な存在となる。

現在の景気拡大は18カ月目を迎え、今後12─24カ月以内に失速するリスクが相当あることを示唆している。物価高と緩和巻き戻しがその引き金となる公算が大きい。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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