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コラム:グリーン・オプション、日本の市場強化戦略にも重要なピース=井上哲也氏

[東京 22日] - 企業や政府によるグリーン・ファイナンスが顕著に拡大しつつある中で、そうした取引にかかわるグリーン・デリバティブの活用も欧州を中心に注目を集めている。異常気象や自然災害をトリガーイベントとするデリバティブは、保険の領域と併存する形で以前から存在していたが、足元で注目が高まっているのは、企業や政府による気候変動対応と関連付けた取引である。

企業や政府によるグリーン・ファイナンスが顕著に拡大しつつある中で、そうした取引にかかわるグリーン・デリバティブの活用も欧州を中心に注目を集めている。写真は2016年2月、都内で撮影(2021年 ロイター/Toru Hanai)

<注目されるグリーン・デリバ>

つまり、既存のデリバティブが金利や為替、株式、コモディティの市場リスク、あるいは企業や政府の信用リスクを金融市場を通じて取引する金融手段であるのに対し、グリーン・デリバティブは気候変動リスクを対象とする点が異なる。その一方、商品性や仕組みの面では両者に共通する面も少なくない。

例えば、株式指数ファンドにとっては、組成の際に株価指数先物を活用することが取引コストの削減や市場インパクトの制御の点で有用であるが、グリーン資産に運用するファンドにも同じように、グリーン・ボンド指数の先物を活用するメリットが存在する。

同様に銀行や投資家には、与信リスクを抑制しつつ企業に資金を供給する上でクレジット・デフォルト・スワップ(CⅮS)が有用であるが、同じ意味で気候変動リスクに対応したスワップのメリットが存在する。

<グリーン・オプションの特性>

グリーン・デリバティブの中で注目されるのはグリーン・オプションであり、具体的には気候変動に関するサステナビリティ・リンクの債券やローンに関する条件部分を考えるとわかりやすい。

つまり、こうした債券やローンでは、借り手が事前に設定した気候変動対応に関するKPI(重要業績評価指数:例えば、炭素排出量の削減に関する数値目標)を事後的にクリアしたかどうかで金利等の取引条件が変わる(具体的には、クリアしないと金利が上がるケースがある)。

従って、概念的には普通の債券やローンとオプション(またはスワップション)とを合成した商品であるので、後者を切り離して独立した取引にしたものと考えれば良い。

気候変動に関するサステナビリティ・リンクの債券やローンは、一般的なグリーン・ボンドに比べて資金使途が柔軟である点で借り手側のメリットが大きく、市場規模が今後大きく成長することが期待される。

これに伴って、借り手と貸し手の双方にとって増加する気候変動リスクを適切に管理する上で、オプション(またはスワップション)のニーズも高まることが想定される。

加えて、気候変動対応にはオプションに親和性の高い領域が多く存在する。例えば、炭素排出量の削減目標やそのマイルストーンは、それらの達成如何で気候変動リスクの顕在化を左右する。

同様に、多様なエネルギーの需要や供給の計画にも実現に関する不透明性が存在するだけでなく、実際の移行如何で価格を大きく左右する結果、需給双方の事業者の収益などに顕著な影響を与える。これらの資金供給にオプションを活用することが望ましい点は言うまでもないであろう。

<需給の実態>

気候変動対応を進める企業や政府、そのための資金を供給する機関投資家や銀行にとって、グリーン・オプションはリスクヘッジの手段として有用となりうる。

これに対し、リスクテイクの需要はあるのかという疑問もあろう。気候変動対応に最も熱心な欧州ですら欧州連合(EU)が実施の遅延を踏まえて投資計画を改定しているだけに、気候変動のリスクは上方に偏っているように見える中で、リスクテイクは一方的に不利と見えるかもしれない。

需要側としては、金利や為替のオプション取引と同じく、リスクを取りつつプレミアムの取得を目指す投機的な投資家の活動が想定できる。社会的にヘッジニーズが高いのであれば、少なくとも表面的なプレミアムも良好な水準となりうる。

また、代替エネルギーの供給事業者にとっても、オプションが行使されるように気候変動が悪化する状況になれば、本業の収益も良好になっている可能性が高い点でリスクを吸収しうる。

加えて、需要側には裁定取引の機会も生じうる。気候変動への対応は、国際的な合意や各国内の政策パッケージによって推進されるが、現実には、技術的ないし経済的な制約のために各国間あるいは国内の産業間で進ちょくにばらつきが生ずる可能性がある。

これに伴って気候変動リスクの価格にばらつきが生じれば、グローバルな投資家にとっては、グリーン・オプション取引による裁定を通じて、リスクテイクを抑制しつつ収益を確保する余地も生ずる。

<環境整備の課題>

このようにグリーン・オプションの潜在性は高いが、定着に向けては課題の克服も必要である。

なかでも重要なのは、オプションの行使条件を客観的に明確で確認可能にすることである。オプションを個別の借り手のKPIにひも付ける場合には、条件が当事者間で共通の定義に基づく用語で事前に定義され、KPIの達成状況が第三者の監査や認証の下でタイムリーに開示されることが求められる。

また、オプションを業界ないし国全体のKPIにひも付ける場合は、業界や政府による炭素排出目標の削減に向けたマイルストーンやその達成状況の公表も必要となる。

ただし、これらの条件は既に官民双方で進められている対応-グリーン・ファイナンスに関するタクソノミ(分類方法)の整備や標準化、認証機能の整備、企業情報開示の充実や標準化といったミクロ的な対応と、炭素排出目標のより詳細なブレークダウンのようなマクロ的な対応-によって満たされるものである。

同時に、国際スワップ・デリバティブ協会(ISⅮA)のような組織もオプション取引の標準化に向けた取り組みを開始するなど、金融市場からの対応も既に始まっている。

つまり、グリーン・オプションの普及のためだけに特別な対応が必要というわけではなく、グリーン・ファイナンス全体の環境整備を進めることが、結果的にグリーン・オプションの成長促進にも繋がることが期待される。

<日本にとっての戦略性>

日本が国際金融センターとしての機能を強化する上で、グリーン・ファイナンスを柱に置くのであれば、成長途上にあるグリーン・デリバティブの取引の場を先行して整備することには意味がある。先に見たようにグローバル投資家には裁定の機会が存在する以上、アジア各国のニーズを取り込む視点も重要である。

また、グリーン・オプションの取引が充実してくれば、民間の金融事業者にとっては既発の国債とマクロ的なKPIを持つオプションとを組み合わせた「合成サステナビリティ債券」を組成して販売することも選択肢となりうる。

元本の安全性が相対的に高い国債を活用することで、機関投資家の間で顕著に増加するグリーン資産に対するニーズを満たしつつ、将来のグリーン国債の市場整備に向けた足がかりを作ることにつながる。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部シニア研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。金融イノベーション研究部・主席研究員を務め、2021年8月から現職。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

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