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焦点:世界の穀物生産、混乱長期化へ 見えない価格高騰の出口

[28日 ロイター] - 米ノースダコタ州で農業を営むエリック・ブロテンさんは今年、5000エーカー(約2023ヘクタール)ほどの農地でトウモロコシを作付けする予定だった。しかし、春に雨が降り続き、作付けできたのは3500エーカーにとどまった。

 重要な北米の収穫期を前に、カナダのマニトバ州から米インディアナ州にかけて穀物の種まきに遅れが出ており、生産量の落ち込みを懸念する声が上がっている。写真はマニトバ州で、飛行機で畑にキャノーラをまき、トラクターで作物を植えている農家の人々。5月27日撮影のStefanie Lepp氏提供写真(2022年 ロイター)

ノースダコタはいつもなら6月半ばにトウモロコシが膝の高さまでは成長しているはずだが、今年は3分の2程度が芽を出しただけだ。

ブロテンさんがトウモロコシを作付けしたのは5月下旬。品種を2度にわたり、生育期間が短く、収穫量の少ないものに代えた末、これ以上の作付けには時期が遅過ぎると判断した。本来なら5月第1週までに終えるのが理想で、土が乾くのを待てなかった。

「限界に挑み、湿り過ぎた畑で作業し、必死に作付けした」とブロテンさん。畑にはまだ、農機のわだちが残る。「生産目標は大幅に下がる」と言う。

トウモロコシは、生産量が世界最大の穀物。そのトウモロコシの米北部での栽培に混乱が生じ、世界で広がる農作物収穫を巡る問題が、また1つ増えた。そのことで、農産物の供給不足と食料コスト高騰は、今後数年にわたり続く見通しだ。

主要な農産物輸出国であるウクライナにロシアが侵攻し、小麦、大豆、トウモロコシの価格は今年初めに記録的な水準に達した。また、中国、インド、南米、ヨーロッパの一部は天候不順で穀物収穫量が減少。さらに肥料不足により、世界各地で多くの作物の収穫量が減っている。

ロイターの取材に応じた農業関連企業の経営者、アナリスト、農家、経済学者によると、世界の農業はおそらくこれほどまで同時多発的な混乱に見舞われた経験がなく、世界の食料事情が安心できる状態に戻るには、何年もかかる恐れがあるという。

肥料メーカーであるニュートリエンのチーフエコノミスト、ジェーソン・ニュートン氏は「通常の需給逼迫は1回の栽培シーズンで立て直しが可能だ。今は生産増加に制約がかかり、ウクライナで戦争が起きており、現在の状況から抜け出すには2年から3年かかるだろう」と述べた。

国連のグテレス事務総長は先週、世界は前例のない飢餓の危機に直面しており、年内に複数回の飢饉が発生し、来年はさらに状況が悪化する恐れがあると警鐘を鳴らした。

重要な北米の収穫期を前に、カナダのマニトバ州から米インディアナ州にかけて穀物の種まきに遅れが出ており、生産量の落ち込みを懸念する声が上がっている。

トウモロコシは生産量トップの米国で収穫量が減れば、サプライチェーン(供給網)に波及する。また、トウモロコシは家畜の重要な飼料であるため、消費者は肉の価格上昇にも見舞われる。

世界のトウモロコシ供給は2020年のパンデミック発生以来、輸送の問題や旺盛な需要によって逼迫が続いているが、今後の供給はさらに落ち込むと予想されている。

米農務省は先月、春の作付けペースが遅かったとして、国内のトウモロコシ収量見通しを1エーカーあたり4ブッシェル引き下げざるを得なくなった。この見直しだけで米国の収穫可能量は900万トン以上減少する計算で、これは過去最大を記録した中国の昨年の米国からの輸入量のほぼ半分に匹敵する。

バイデン政権は、すでに過去数十年で最高となっている食料価格高騰を抑制する手段として、作付け奨励策を導入。環境面で配慮が必要な土地での作付けに関する制限を解除し、国内の肥料生産への資金援助を増加、今年は二毛作で保険の対象となる郡を増やした。だが、種子や農薬、肥料の価格が高騰している今、農家は二毛作に及び腰だ。

イリノイ大学の経済学者チームによると、米国の農家はトウモロコシ用に確保された約320万エーカーを作付けせず、代わりに天候により植え付けができない場合に補償が受けられる保険の請求を行う可能性があるという。

カナダのマニトバ州ドーフィン近郊で農業を営むゲーリー・モモチュックさん(49)は、4月まで大雪が続いた上、5月に暴風雨に見舞われて畑が被害を受け、夜中にパニック状態になった牛を移動させなければならなくなった。「水の高さがとにかく尋常ではなかった。農地で魚が釣れたのは初めてじゃないか」と話す。6月中旬になっても1200エーカーで作付けができないままだ。

マニトバ州は春小麦とキャノーラの栽培が国内第3位の州だが、農業担当部局によると、作付けしていない農地が88万エーカーと過去8年間で最大だ。

マニトバ州リバーズ近郊の農家、カサンドラ・レップさんは春の大雨の後、10年ぶりに他の農家のために飛行機で作付けした。

飛行機による種まきは、農家が苦しい状況のときにも生産を確保する手段になる。半面、この方法はコストが高いほか、精度が低いために発芽率が低下し、収穫量が落ちることもある。

レップさんは「天候がどんどん厳しくなっているのは間違いない早く方針を転換しないと」と話した。

<資材も値上がり>

肥料から農機用燃料まで農業関連資材のコストが高止まりしているため、農家は今シーズンの難局を乗り切るのに苦労するかもしれない。利幅が圧迫された農家が作付け面積を減らせば、生産量も減少するだろう。

ウクライナ産穀物は世界の輸出に占める割合が今回の戦争前に、トウモロコシで17%、小麦で11%だった。同国は戦争で農産物関連のインフラが破壊され、再建に何年もかかりそうだ。

戦争が終わっても世界の穀物供給は構造的に厳しい状態が続くと、ニュートリエンのニュートン氏は見ている。気候変動を遅らせるための取り組みから、農産物は食料ではなくバイオ燃料向け需要が高まっているほか、中国は農業用の新しい土地が不足し、穀物輸入を急増させているという。

穀物商社のアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド最高経営責任者、フアン・ルチアーノ氏は、世界の主食用穀物は少なくとも今後2年間は供給不足が続くと見込む。

しかし、ノースダコタのブロテン氏にとってより気がかりなのは来年のことだ。来年は「1エーカー当たりのトウモロコシ生産コストが大幅に上昇するだろう」──。

(Karl Plume記者、Rod Nickel記者)

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