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コラム:FRBは2%超える「高め運用」志向か、中長期は円高へ=門間一夫氏

[東京 2日] - 米連邦準備理事会(FRB)は、6月に続き7月も0.75%の利上げを決めた。本年春先までほぼゼロだった政策金利は、あっという間に2.5%近くまで引き上げられた。9月以降も利上げは続く見通しである。

 米連邦準備理事会(FRB)は、6月に続き7月も0.75%の利上げを決めた。本年春先までほぼゼロだった政策金利は、あっという間に2.5%近くまで引き上げられた。門間一夫氏のコラム。写真はワシントンのFRB本部2019年3月撮影(2022年 ロイター/Leah Millis)

年末までに3.25─3.5%程度まで引き上げるとの予想をFRBは出しているが、不確実性が大きく手探りの展開となりそうだ。

<FRBの責任も重い米国のインフレ>

FRBが利上げを続ける理由は、いうまでもなく40年ぶりの高インフレである。消費者物価の前年比は9%を超えており、FRBがより重視する個人消費支出(PCE)デフレーターの前年比も、6%台後半である。これほどインフレが上がってしまうと、景気後退覚悟で利上げを続けざるをえない。

それにしても、「物価の安定」を責務とするFRBがなぜ、これほどのインフレを許してしまったのであろうか。1つには、このインフレはグローバルな現象であり、ある程度仕方がなかった面がある。米国だけではなく欧州でも9%程度のインフレになっているし、日本ですら消費者物価上昇率が2%を超えている。

日銀は7月の展望リポートで、2022年度の物価見通しをプラス2.3%に上方修正した。これは、消費税率の影響を除けば31ぶりの高さである。異次元緩和が10年目になって突然効き始めたからではない。今の物価上昇の多くの部分が、金融政策と無関係に起きている現象である点は、世界共通である。

ただ、それでも米国の場合は、国内需要の強さがインフレを高めている面もかなりある。米国の労働市場は、歴史的な引き締まりの状況にある。需給ギャップが大幅なプラスであり、経済が過熱しているのである。その部分については、FRBに責任があると言われても仕方がないだろう。

<FRBがビハインド・ザ・カーブに陥った理由>

FRBがビハインド・ザ・カーブに陥った(=利上げが遅れた)理由としてしばしば指摘されるのは、2020年に行った「政策レビュー」の影響である。この政策レビューは、2010年代のインフレ率が恒常的に2%物価目標を下回っていたため、そのことへの反省を1つの動機として行われたものである。

そのレビューの結論をひとことでまとめれば「従来よりもハト派のFRBになった」ということである。FRBには「物価の安定」と並んで「雇用の最大化」という2つ目の責務もある。

従来はその両方をにらみ、雇用が十分に改善したらそこから先は将来のインフレを警戒して、実際にはまだインフレが起きていなくても「予防的な引き締め」を行う場合もあった。

しかし、2020年のレビューによって、FRBは物価と雇用のバランスに重要な変更を加えた。実際のインフレが目標の2%をある程度上回るまでは、性急な利上げは控えて雇用を徹底的に支援することにしたのである。

これは「予防的な引き締めを今後は行わない」と宣言したに等しい。「ビハインド・ザ・カーブ」をあえて覚悟するような考え方を、FRBは2020年に採用したとも言える。

皮肉にもその直後に、米国は40年ぶりの大インフレに見舞われた。コロナ禍をきっかけに、生産や物流のボトルネック、早期退職者の増加、消費行動の変化、巨額の財政支援など、いくつもの異例の事態が発生した。

これだけ特殊要因が多いと、経済や物価の先行きは極めて見通しにくくなる。「利上げを急ぎ過ぎて雇用の回復を遅らせるリスク」が大きい一方、「利上げが遅れてインフレが高まるリスク」も大きい。中央銀行が決めなければならないのは、どちらのリスクをより警戒するかである。

実際の行動から明らかなように、FRBは「利上げを急ぎ過ぎるリスク」の方を絶対に回避しようとした。この選択に2020年のレビューが影響した可能性は高い。インフレが高まるリスクの方は、そのリスクが顕在化してからでもなんとか対応できる、という自信も垣間見られた。

<2%物価目標を事実上引き上げる可能性>

実際に起きたインフレはFRBの想像をはるかに超え、簡単に「対応できる」と言えるようなものではなかった。ただ、それはあくまで結果論であり、ビハインド・ザ・カーブ覚悟で金融緩和を続けたFRBをどう評価するかは、評価する方の価値観にもよるだろう。

前述の通り、今回は世界的にインフレが起きており、特に資源価格がウクライナ危機で再上昇したことは、どの中央銀行にとっても想定外であった。

インフレが進んだ当初、利上げに慎重だったことを、FRB自身は後からどのように振り返るだろうか。「もう少し早く利上げを始めていた方が良かった」という反省の弁は、既にパウエル議長が述べている。結果論とは言え、これだけのインフレを許したのだから、今後も対外的なコミュニケーションは「反省色」の強いトーンになるだろう。

しかし、2020年のレビュー自体をFRBが後悔しているとは思いにくい。その根底には、デフレ(あるいは低過ぎるインフレ)は高インフレよりもさらに対応しにくい、という確固たる信念がある。

確かに今回の高インフレにはやや手を焼くことになったが、それでも1─2年もすれば相応のインフレ水準には収まるだろう。

一方、低インフレの日本を見ると、異次元緩和を含めて25年以上ほぼゼロ金利を続けても、安定した2%までインフレ率を引き上げることはできていない。「いったん低インフレが定着したら2度と抜け出せない」――。その教訓をFRBは日本から学び、心に強く刻んでいる。

2020年のレビューの結論も「日本化よりは高インフレの方がまだましだ」という「日本化恐怖症」から導かれた面がある。

実際のところ、慢性的な低インフレでも日本経済の安定は概ね保たれてきたのだから、そこまで「日本化」を毛嫌いされると抵抗を感じないわけでもない。ただ、慢性的な低インフレによる「万年ゼロ金利」は避けたい、という思いは理解できる。

コロナ禍の当初は、雇用が本当に回復するかどうかが強く懸念されており、デフレのリスクすら語られていた。そのリスクの顕在化を防ぐことに万全を期したことの代償が、1─2年程度の高インフレで済むのであれば、FRBは表向きはともかく内心では「ベストではなかったが、最悪は避けられた」と一定の納得感に行き着くのではないか。

さらにその先を考えた時、せっかく一度は高いインフレになったのだから、それを2%まできっちり落とすのではなく、3%弱あたりに落ち着かせる政策運営が、志向されていく可能性がある。日本化の回避とは金利の「のりしろ」を持っておくということであり、それは大きいに越したことはない。2%ではなく3─4%を物価目標にすべきだという議論は、学界には以前からある。

FRBが2%物価目標そのものを正式に変更することはないだろう。しかし、実際には2%よりもある程度「高め」を狙う運用にシフトいく可能性は十分にある。少なくとも、2%よりも「低め」は避けるという非対称な運用になる可能性は高い。

コロナ前は、そういう運用をしたくても、そこまでインフレを上げる手段がなかった(ゼロ金利の期間が長かった)。今はせっかく高インフレになったのだから、その余熱を利用して2%物価目標よりも「高め」で止めればよい。それ以上無理にインフレを抑え込まないことは、雇用や経済への負荷を減らすことにもなるので、一石二鳥である。

2010年代は米国も低インフレに悩み、米国と日本のインフレ率は接近していた。それが為替の中期的な安定の一因だったのかもしれない。

さて2020年代、日本は「ゼロインフレ」に戻り、米国は「ほぼ3%インフレ」が新常態になるとすれば、中長期のトレンドははっきり円高である。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラム向けに執筆されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*門間一夫氏は、みずほリサーチ&テクノロジーズのエグゼクティブエコノミスト。1981年に東京大学経済学部を卒業後、日本銀行に入行。86年に米ウォートンビジネススクール留学。調査統計局長、企画局長を経て、12年に日銀理事(13年3月まで金融政策担当、以降、国際担当)を歴任。16年に日銀を退職し、みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミスト。21年4月から現職。

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