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インタビュー:「危ない橋」渡る日銀、円の信認喪失も=上野泰也氏

[東京 26日 ロイター] - みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、日銀が自らの信認を賭けた「危ない橋」を渡っていると警告する。人口減少や過剰設備の下では、いくら通貨を増やしてもデフレ圧力は消えないと指摘。現在の量的・質的金融緩和の下、通貨の過剰発行によって無理やりインフレにすれば、円の信認が失われるおそれがあるとしている。

 11月26日、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、日銀が自らの信認を賭けた「危ない橋」を渡っていると警告する。人口減少や過剰設備の下では、いくら通貨を増やしてもデフレ圧力は消えないと指摘した。写真は、1万円札とドル紙幣、2009年撮影(2014年 ロイター/Yuriko Nakao)

2年に渡るアベノミクス政策によって、日本の株価はほぼ倍化し、円安は40円近く進んだ。しかし、その半面で円安は輸入物価上昇をもたらし、実質賃金の低下など歪みも目立ってきている。上野氏は「円安による物価上昇で暮らし向きが悪化した人々が日銀本店前でデモを起こすこともありうるのではないか」と異次元緩和の先行きに強い危機感を示した。

インタビューの主な内容は以下の通り。

──アベノミクスの総合評価は。

「そもそも3本の矢の政策は建て付けに無理がある。第1の矢と第2の矢のタイムフレームは短期であるのに対し、第3の矢のタイムフレームは5─10年かかる長期的な政策だ。第1と第2の矢で時間を稼いでいるうちに、第3の矢で経済を立て直そうとしたが、第1の矢はもう限界が来て追加緩和が必要になった。第2の矢は日本の借金をさらに膨らまそうということであり、持続可能な政策ではない」

──日本は豊富な外貨準備や対外純資産などを保有している。それらを差し引けば、それほど借金は多いわけではないとの見方もある。

「外貨準備は外為証券と両建てだ。政府が手放しで自由に使えるお金ではない。個人や企業が海外に保有する資産も彼らのものだ。それを奪うことはできないだろう」

──円安と株高によって日本は活力を取り戻したのではないか。

「現在の1ドル120円に迫る円安水準であれば、差し引きして日本経済にマイナスとみている。名目賃金は確かに上昇しているが、それを相殺する以上の、輸入物価の上昇となっており家計の負担が大きくなっている。一握りの大企業・輸出企業にはプラスでも、中小企業は物価上昇分を価格転嫁できず苦しんでいる。110円程度が分岐点だろう」

「株価は景気に先行すると言われるが、いま起きている株高は、日銀やGPIFなど公的資金の買い、もしくはそうした買いを期待した投資家の買いが大きな押し上げ要因になっている。経済は一向に強さを取り戻せないままだ。実体経済と株価のギャップが大きくなれば、いずれ反動が起きるだろう」

──金融緩和によって、実質金利が低下したり、デフレマインドが変われば、消費も投資も改善するとの期待もある。

「消費者は将来、値下がりすると思ってモノを買わなかったわけではないだろう。単純にお金がないのだ。ギリギリのところでやりくりしている。耐久消費財もある程度買ってしまった。買い替えるとお金がかかるので買わないだけだ。物価が上昇するとの見方に変わっても、消費を増やすとは思えない」

「企業経営者が投資判断の際に実質金利の話をするのを聞いたことがない。経営者が国内で投資をしないのは、実質金利が高かったからではなく、人口減少などの理由により、国内市場が縮小するとみているからに他ならない」

「日銀短観における個人消費に関連する3業種、小売、対個人サービス、飲食店・宿泊は、供給超過の状態がずっと続いている。根っこのデフレ構造は何も変わっていない。シェールガス革命により財の下方圧力がかかり、サービス業も新興国へのアウトソーシングにより、賃金にデフレ圧力がかかっている。経済が強い米国でさえ2%の物価上昇に達しないのに、まして日本では相当難しい。それを無理やり金融緩和で物価を押し上げようとすれば、日銀つまり円の信認が傷つくおそれがある」

──円の信認が低下すれが、いわゆる「悪い円安」が警戒されるが、ホームバイアスが強い日本では、国外への資金逃避による悪い円安は起きないのでは。

「白川方明前日銀総裁が以前の講演で、財政悪化したときの回復方法について言及していた。増税と歳出削減による財政再建か、調整インフレ、デフォルトの3つしかないという。調整インフレやデフォルトを避けようとすれば、財政再建の道筋しかないのだが、働いても給与の手取りが増えず、社会保障サービスも低下するというきつい状態だ。こうなると人やマネーは日本から出て行ってしまうのではないか」

──日銀の国債大量購入で金利は低下している。この大量国債購入が続く限り、「悪い金利上昇」は起こりえないのではないか。

「確かに日銀が全部買ってしまえば、国債市場という場では金利は上がりようがなくなる。昔の社会主義国の為替相場のようなものだ。しかし、為替のヤミ市場のように、表面上は人為的に抑制された金利となっていても、例えば企業が社債を発行しようとすると、その国債金利に基づいたレートでは発行できないことになる。ものすごく高い金利を要求されることになるだろう」

「マネタリーベースを増やすことの不毛さにいつ気づくかだ。いまの日銀がやっていることは、日銀、つまり円の信認を賭けた実験だ。円が信認を低下させれば、制御不能な悪い円安が起こりやすくなる。円安による物価上昇で暮らし向きが悪化した人々が日銀本店前でデモを起こすこともありうるのではないか。そこでようやく政府が日銀の金融緩和にストップをかけることになると思う」

「通貨価値が下落し、為替危機が起きたような場合、いくら金利を上げても、一度傷ついた信認はそう簡単に元に戻らない。そのくらい日銀は危ない橋を渡っているのだということを、認識する必要がある」

──ではどうすればいいか。アベノミクスの代案はあるか。

「やはり人口対策をしっかりやることだと思う。アベノミクスでは、この点の予算もインフラも足りない。例えば、フランス型のインセンティブ税制を導入し、子供が多い世帯ほど税制面で優遇されるようにするべきだ。同時に託児施設を常に余裕がある形にして、希望するところに子供を預けれるようにすることも求められる」

「移民も必要だ。国内に需要をもたらすだけでなく、異なる才能や発想を持った人材を受け入れることはサプライサイドを強くするメリットもある。人口が増えれば、企業も日本でビジネスをしようという気になるだろう。外国人の受け入れには、抵抗も強いが、NHKの朝の連続ドラマ『マッサン』のように、昔の日本でも外国人を受け入れ、新しいビジネスを生み出すことができた。今の若い人をみても、外国の文化に触れる機会が多くなっている。見えない壁は低くなっているのではないか」

*このインタビューは25日に行いました。

*本文の文言を一部修正しました。

伊賀大記 編集:北松克朗

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