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コラム

コラム:最悪か悲惨か、ギリシャ国民投票が迫る「究極の選択」

[アテネ 2日 ロイター] - ギリシャ国民は5日の国民投票で「最悪」と「悲惨」のどちらを選ぶかを迫られる。私はギリシャ語が話せ、ギリシャ人の曾祖母を持つが、ギリシャ人ではない。しかしもしギリシャ人だったとしたら、えいやで「最悪」の方、つまり「イエス」の票を投じるしかないだろう。

 7月2日、ギリシャ国民は5日の国民投票で「最悪」と「悲惨」のどちらを選ぶかを迫られる。写真は1日、ギリシャのサントリーニ島にある教会の上空を照らす月(2015年 ロイター/Cathal McNaughton)

公式には、賛成票は債権者団が6月25日に示した提案を支持するとの意思表示になる。提案には、ギリシャが融資と引き換えにさらなる改革と緊縮策を受け入れることが含まれていた。しかし債権者側は既に提案を撤回している。それなら賛成票を投じた場合、何が起こるのだろうか。

最も可能性の高いシナリオは、反対票を呼びかけているチプラス首相の辞任だ。そして再び総選挙が実施されるだろう。恐らく野党は結束して選挙に勝ち、債権者と新たな合意を結びそうだ。

一つ重要な点は、新政権がチプラス首相よりも有利な条件を引き出せる立場に身を置きそうなことだ。野党側はこれまで債権者との合意を訴えてきたし、国民投票と選挙の両方で国民の負託をしっかり確保したのだから、ユーロ圏諸国と国際通貨基金(IMF)から現政権よりも大きな信頼を寄せられるだろう。

新政権は、ギリシャの根深い問題に切り込む改革に重点を置きながら、緊縮策の方は軽めにする合意を結べるかもしれない。合意をしっかり実行に移すなら債務の返済期限を延長する、との約束を得られる可能性さえある。

問題は、ギリシャはチプラス首相が選出された時点に比べ、ずっと悪化した地点からスタートを切ることだ。経済への信頼感は過去5カ月間でずたずたになり、今週から始まった銀行閉鎖で転落に拍車が掛かった。

資本統制の解除は段階的にしか進まないであろうことを踏まえれば、最善のシナリオでも、2013年に銀行閉鎖を実施したキプロスの二の舞は避けられないかもしれない。キプロス経済は同年、5.4%のマイナス成長に陥り、翌14年も2.3%のマイナス成長だった。ようやくプラス成長に転じたところだ。

次に、国民投票で「ノー」が過半数を占めるという悲惨なシナリオに目を向けよう。チプラス首相は、そうなれば国民の負託が得られ、債権者との交渉を有利に進められると述べている。なぜそうなるのか理解に苦しむ。もはや信頼感などかけらも残っていない。債権者団は「ノーはノー」であり、交渉する価値なしと結論付けそうだ。

その結果、銀行は閉鎖されたままになる。現時点で預金者は1日に60ユーロの引き出しを許されているが、あと1週間もすれば現金は完全に底を突くだろう。

欧州中央銀行(ECB)が保有するギリシャ国債はデフォルト(債務不履行)に陥り、ECBはギリシャの銀行が支払い能力を失ったと判断するだろう。そうなると、銀行再開の道は2つしかない。旧通貨ドラクマの復活か、預金者の資金を一部没収して銀行資本に転換することだ。現実的には、政府は恐らくドラクマ路線を選ぶだろう。状況は混迷し、何年にも及ぶ法廷手続きを要するだろう。

多くの国民は税金の支払いを止めそうだ。従って、政府は給与と年金を支給するために「借用証書(IOU)」を刷らざるを得ず、これが新通貨の前身となる。このIOUはユーロに対して大幅なディスカウントが付き、おそらく半分程度の価値で取引されるのではないか。

輸入代金に回す資金も枯渇し、石油や医薬品といった必需品さえ買えなくなるだろう。ギリシャは外貨準備がゼロに等しく、IMF融資でデフォルトを起こしたばかりとあって、支援を仰ぐのも難しい。

経済は崩壊する。店頭では資金不足が露わになるだろう。だれもが現金での支払いを要求し、手に入れた現金は蓄えこむ。消費は急減する。企業は納入業者への支払いに行き詰まり、破綻する。ギリシャの最も重要な産業である観光業は、外国人のキャンセルが相次ぎ打撃を被る。

これらはどれも、既にある程度起こっていることだ。しかし国民投票で「ノー」の結果が出れば、現在の悲惨な状況でさえ、あのころは平和だったと思い起こされるようになるだろう。欧州連合(EU)は人道援助に踏み切るかもしれない。

理論上は、ギリシャはこうした混迷期を経て、どん底から再び成長に転じられるかもしれない。早い話が、ギリシャは一瞬にして競争力を獲得するのだ。観光客は安いバカンスに飛びつき、消費者は高い輸入品より安い国内品に目を向けるだろう。

しかしリスクがもう一つある。チプラス首相は税収不足を補うためにドラクマを刷り始めたが最後、その習慣を断つのは至難の業になる。これはハイパーインフレをもたらし得る。

つまり、国民投票に賛成票を投じれば、せいぜい2年間の景気後退で済む可能性がある。一方、反対票を投じれば、目先は経済崩壊、その先にはインフレとさらなる混乱が待っているだろう。ギリシャ国民にとってこれは究極の選択だが、正しい答えは「イエス」だ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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*脱字を補いました。

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