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コラム:ギリシャ残留で独離脱の未来図も

──ギリシャがユーロ圏に残留することになれば、将来離脱を検討するのがドイツとなる可能性もあるとSMBC日興の嶋津洋樹氏は指摘。

Greek and German national flags fly outside a Greek cafe in Berlin June 22, 2012. When Greece take the football field in the Polish coastal city of Gdansk on Friday night to battle Germany for a place in the Euro 2012 semi-final, the honour of the nation is at stake. REUTERS/Thomas Peter (GERMANY - Tags: SPORT SOCCER) - RTR340DN

嶋津洋樹 SMBC日興証券 シニア債券エコノミスト

[東京 8日]- 5日実施された緊縮財政の受け入れに絡むギリシャの国民投票は、事前の賛否拮抗という大方の予想に反し、6割強が反対という結果に終わった。このことはすでに多くの識者が指摘しているとおり、ギリシャのユーロ離脱が現実のものとなりつつあることを示している。

もちろん、ギリシャのチプラス首相が国民に繰り返し説明したように、緊縮財政の受け入れを拒否したからといって、すぐにユーロ離脱に追い込まれることはないだろう。債権者のなかで最も影響力が大きいと見られるドイツのメルケル首相が、国民投票後も対話の扉は開かれているとの姿勢を変えておらず、欧州中央銀行(ECB)は緊急流動性支援(ELA)の残高を維持している。

国民投票で求心力を回復させたチプラス首相が債権者へ譲歩し、妥協が成立する可能性もゼロではない。それは、これまで交渉の障害となっていたバルファキス財務相を事実上更迭したこと、その後任に「首相の長年の盟友」とされ、直前までの交渉で指導的な役割を果たし、債権者の覚えも悪くないツァカロトス外務副大臣を指名したことからも言える。

しかも、交渉再開に際し、ギリシャの主要政党はチプラス首相への支持を表明。交渉の窓口が一本化されたことは、これまで二転三転してきたギリシャの立場が安定する可能性を示唆する。国民投票直前のギリシャと債権者との隔たりが6000万ユーロまで縮小していたと報じられていることも踏まえると、電撃的な合意の可能性を無視するわけにはいかない。

<債権者は損失確定を急ぐ必要はない>

もっとも、一連の混乱でギリシャ経済は大きな打撃を受けていると考えられる。国民投票直前の前提で必要資金を計算しても、実際には十分な金額が準備できない可能性がある。債権者側が、国民投票の実施で従来の救済の枠組みは失効し、次は新しい枠組みの下で実施されると主張していることは、ギリシャに新たに求められる条件が従来よりも厳しくなる可能性を示唆している。

それどころか、債権者がギリシャに一連の混乱の責任を取らせるべきと考えても不思議ではないだろう。今やドイツやフランスでも、反欧州連合(EU)、反ユーロを掲げる勢力が一定の支持を集めている。そうした国の政治家にとって、ギリシャ救済に自国の税金をつぎ込むような選択肢は取りにくいはずである。今回、これまでEUやユーロ圏が用意したセーフティネットの効果が証明され、混乱が拡大していないことは、債権者の多くにギリシャのユーロ離脱に伴うリスクを小さく感じさせているだろう。

とはいえ、ギリシャをユーロから今すぐに追い出すことは難しい。そもそも、法的な規定がない。また、セーフティネットが整備されたとはいえ、ギリシャや同国銀行のデフォルトの影響まで遮断できるかは誰も確信が持てないだろう。

加えて、今やギリシャ向け債権のすべてを回収できるというのはかなり楽観的と言わざるを得ないが、それを保有するのが国際通貨基金(IMF)やEU、ECB、各国政府である以上、ギリシャのユーロ離脱前にその損失確定を急ぐことも、それに伴う資本の毀損を懸念する必要もない。

このように考えると、債権者にとって最善の選択肢は結局、ギリシャが条件を飲むまで待ちつつ、同国のユーロ離脱に備えることだろう。その間、ECBはELAの上限引き上げに応じざるを得ないが、選挙という国民の審判を受けていないどころか、他国の運命を左右する決断を下す心理的なハードルは高いと考えられる。国際的な支援額が2015年3月末時点で2700億ユーロに達するなか、追加支援のコストは、ギリシャが今すぐにユーロ離脱に追い込まれることに伴うコストよりも安くなる可能性もある。

そして、ELA上限の小幅な引き上げでは資本規制の解除は望めないが、それによって銀行休業が長期化すれば、反EU、反ユーロ勢力の主張の危険性や無謀さを浮き彫りにすることもできるだろう。逆説的ではあるが、事態悪化がギリシャ救済に否定的なEUやユーロ圏各国の世論を軟化させることも考えられる。不幸なことではあるが、山一證券の破綻やリーマンショックが公的資金の金融システム救済への利用を後押ししたことは、これまでもしばしば指摘されていることである。

<離脱後のギリシャ経済が復活する可能性>

むろん、ギリシャ国内で資本規制などへの不満が高まり、自らユーロ離脱を選ぶことも考えられる。その影響がギリシャにとどまる限り、債権者は歓迎こそすれ、反対はしないだろう。

そこまで劇的ではなくても、資本規制が長期化するなかで、ギリシャ政府が年金や公務員給与の全部または一部を借用証書(IOU)で給付せざるを得なくなる可能性は十分にある。それがネットオークションで取引されるようにでもなれば、事実上の並行通貨の誕生である。IOUを「新ドラクマ」と言い換えれば、ギリシャは法的準備が整う前にユーロ離脱へ踏み出すことになる。筆者はギリシャのユーロ離脱の手法として、このパターンが最も現実的かつ悪影響が限られると考えている。

ただし、これで話が終わるとは思えない。たとえば、ユーロ離脱後のギリシャ経済が劇的な回復を見せた場合、新たにユーロ離脱を目指す国が出てくることは十分に想定される。ユーロは最終的にドイツを中心とする欧州北部の通貨となる可能性がある。それはドイツが望む強い通貨の誕生を意味するが、今ほどの影響力を維持できるとは思えない。

反対に、ユーロ離脱後のギリシャが破綻国家となるリスクもある。その場合、ユーロ加盟国の結束は強まる可能性が高いが、難民の流入、過激派の勢力拡大など、地政学リスクの高まりも避けられないだろう。それは結局、EUやユーロ圏の景気回復を妨げる。地中海のなかでもイオニア海やエーゲ海に面する国々は小国が多く、治安維持や国境警備などの歳出が嵩(かさ)めば、財政を圧迫するリスクもある。

破綻国家というほど深刻ではなくても、ギリシャ経済の停滞は歴史的、経済的な結びつきの強いキプロス経済に影響を及ぼしかねない。そうなれば、キプロスがギリシャに続いてユーロ離脱を選択することも考えられる。

一方、ギリシャのユーロ残留は他国の構造改革路線に見直しを迫る。それはユーロ圏の危機対応能力の低下を通じて、ユーロの弱体化を招くリスクをはらむ。実際、チプラス首相の要求は、恵まれた年金制度の維持など独自の財政政策や、構造改革の先送りの許容を迫る一方、それによって低下する競争力を金融緩和や通貨安で解決しようとするものである。こうした方針は、少なくともドイツとは相容れないだろう。

そして、ユーロ圏はこれまで、各国の構造改革を前提にドイツが資金や人材、ノウハウを提供することで、欧州通貨制度(EMS)の設立や金融監督の一元化などのセーフティネットを整備し、統合を深化させてきた。こうした流れが今回、ギリシャのユーロ残留で変わるとすれば、次にユーロ離脱を検討するのがドイツとなる可能性もある。債権者のギリシャに対する姿勢は、ユーロの将来を大きく左右すると筆者は考えている。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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