[北京 19日 ロイター] - 中国人民銀行(中央銀行)は19日、銀行の貸出金利の下限を撤廃する方針を発表した。金利自由化へ一歩を踏み出し、市場原理に基づく改革を推し進める政府の強い姿勢を映す格好となった。
20日から実施する。
これまで基準金利の70%とされていた貸出金利の下限を撤廃することで、商業銀行は借り手の獲得で自由な競争が可能になる。人民銀は企業の資金調達コストの低下に寄与するとの見方を示した。
ただ、基準金利の110%としている預金金利の上限は据え置き、エコノミストの間で金利自由化に向け最も重要な措置とされている改革は見送った格好だ。
中国政府が輸出・投資主導型経済から消費にけん引された成長へのシフトを目指す中、今回の措置は金融システムや経済全体のひずみ是正に乗り出す政府の決意を浮き彫りにしている。
政府系シンクタンクである中国国際経済交流センター(CCIEE)のシニアエコノミスト、Wang Jun氏は今回の措置について「金融改革の大きな前進だ」と評価し、「これまでは人民銀が貸出金利の下限を徐々に引き下げるとみられていた。だが今回、下限を一挙に撤廃した」と話した。
また、キャピタルエコノミクスのアジア担当首席エコノミスト、マーク・ウィリアムズ氏は、「中国に取り得た措置としては最も大きな取り組みの一つだ」と述べた。
中国では先月、人民銀が「影の銀行(シャドーバンキング)」への資金の流れを抑制しようとしたことで短期金融市場がひっ迫し、金融改革の必要性が鮮明になっていた。
中国の大手行は、金利マージンが圧縮されることを嫌い、概して金利改革に抵抗してきたが、銀行のリスク評価手法を改善させることで資本の有効配分を実現し、一部セクターへの過剰投資などに圧迫されてきた経済の不均衡を是正するためには、改革が不可欠だと多くの専門家は指摘する。
貸出金利の下限撤廃により、企業や個人の借り入れコストが低下する公算で、これまで人為的に押し上げられ、民間企業よりも国営銀行を利していたとされる仕組みに終止符が打たれることになる。
経済成長への影響をめぐっては、貸出金利低下が投資を促し、景気の押し上げにつながるとの指摘が聞かれる一方、過去の金利規制緩和を受けた大半の銀行の対応が限定的にとどまっていたことを踏まえると、経済への直接的な影響には疑問があるとの見方も出ている。
UBSの新興国市場ストラテジスト、マニク・ナライン氏は「今回の措置は経済に即座に波及するというより、むしろシグナル効果のほうが強いかもしれない」と分析した。その上で「重要なシグナル効果ではある」とも述べた。
人民銀は、手形割引率に対する規制も撤廃すると発表した。
数年前から不動産投機の取り締まりを続ける中、住宅ローン金利については手綱を緩めない姿勢を強調した。
預金金利の上限規制を維持したことについて人民銀は声明で、将来的に自由化する方針だが、現在は適切な時期ではないと言明。下地作りをなお進める必要があるとした。
預金金利の自由化に向けた準備には預金保証制度の構築が含まれる公算で、関係者の間では年内にも立ち上げが予想されている。
人民銀の金融政策委員を務めたことがあり、現在は中国社会科学院の研究員であるYu Yongding氏は「(預金金利改革は)より難しく、複雑だ。直ちに実施されると期待するべきではない」と語った。
銀行に預金金利の引き上げを認めることで預金獲得競争が激化し、中小金融機関が破綻に追い込まれるとの懸念が政府にはあるとみられる。
ただ今回の措置は長期的に、経済の不均衡是正に必要な他の改革についても政府が今後取り組みを加速させることを示すものともみられている。
ダンスケ・バンクのシニアアナリスト、フレミング・ニールセン氏は「中国が人民元の完全な兌換性実現と変動相場制に向けてシフトしていることを示すもの」とし、「人民元の変動幅拡大が次の措置となる見通しで、向こう3カ月以内にも実施されるはずだ」と語った。
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