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焦点:経済危機のギリシャ、国の未来を蝕む「心の傷」

[ロンドン 31日 ロイター] 経済危機に見舞われているギリシャのような国では、自ら命を絶つ人が1人いれば、その20倍の自殺未遂者がいるとされる。また専門家らは、実際に自殺を図る人の背後には、うつ病やアルコール依存症、不安障害など多くの精神疾患も潜んでおり、経済の混乱がもたらすそうした人的被害は、若年層を中心に危機収束後も長く影響が残る可能性があると警告している。

5月31日、経済危機に見舞われているギリシャのような国では、自ら命を絶つ人が1人いれば、その20倍の自殺未遂者がいるとされる。写真は緊縮策に抗議するデモの傍らで物乞いをする男性。首都アテネで2月撮影(2012年 ロイター)

英ケンブリッジ大学の社会学者デービッド・スタックラー氏は「緊縮(財政)によって、危機は伝染病に変わり得る」と指摘。欧州各国の歳出削減策が市民の精神衛生に与える影響を研究している同氏は、「失業は、うつ病や深刻な精神疾患に人を追い込むリスクがあり、適切なケアが得られない場合は特にそれを食い止めるのは難しい」とし、後になればなるほど治療はさらに困難になると述べた。

<リスクの蓄積>

ギリシャの若年失業率は50%を超え、市民の不満はますます表面化している。首都アテネの路上では、不法薬物を使って現実逃避する若者の姿も珍しくなくなっており、生活苦を訴えて自殺する人も出ている。

ギリシャ経済は5年目のリセッション(景気後退)に突入し、多くの市民にとって将来の見通しは暗い。エコノミストらは、緊縮策に取り組むギリシャの景気がすぐに回復する可能性は低いとみている。

仕事を持っている人も給料カットや賃金凍結にさらされ、失業の恐怖におびえている。専門家はこうした根深い不安感は、他のどんなことよりも精神的ダメージが大きいと警告。英リバプール大の臨床心理学教授、ピーター・キンダーマン氏は、今回の経済危機が心の健康に与える影響は急激かつ甚大だと述べた。

2011年に世界保健機関(WHO)向けに作成された統計資料によると、欧州連合加盟国では、生産性低下などとなって現れる精神衛生上の問題が経済に与える影響は、平均で国内総生産(GDP)の3─4%に相当するという。また、精神疾患は若年期に発症することも多いため、生産性の損失は長期的な問題になりかねないと専門家は懸念する。

<すでに臨界点か>

ギリシャでは、すでに自殺率が急激に高まっており、医学誌ランセットが昨年発表した統計によれば、2011年上期の自殺件数は前年同期比で40%増となった。

臨床心理学教授のキンダーマン氏は「一部の人は(経済危機で)非常に深刻な影響を受け、極めて長期にわたって精神的に落ち込むことになる。不況の犠牲者の中には、世界観の根本的な変化を経験する人もいる」と危機感を示す。

英イースト・アングリア大学で社会政策を専門とするピーター・ロイド・シャーロック教授は、歴史の教訓から学ぶべきだと提言。1999年から約3年にわたって深刻な経済危機を経験したアルゼンチンでは、2002年には精神医療施設での診察件数が4割増えたほか、抗うつ剤の処方も急増したという。

過去の研究では、失業や貧困状態に陥った人は、精神衛生上の問題を抱えるリスクが大幅に高まり、特に男性は苦境に陥った場合、精神疾患や自殺、アルコール乱用のリスクが高まることが分かっている。WHOの報告書では、負債の額が多い人ほど、精神疾患を患う可能性が高まるとも指摘されている。

<社会保障で明暗>

しかし一方で、不況が必ずしも精神疾患を増やす直接的原因になるとは限らない。一部の公衆衛生専門家は、スウェーデンやフィンランドを例に挙げ、そうした国では、不況の打撃を受けた人が立ち直るきっかけとなる雇用促進策に力を入れることで、精神疾患や自殺の増加を回避できたと指摘する。

スウェーデンは1990年代初頭に深刻な金融危機に見舞われ、失業率も急上昇したが、当時の自殺率に目立った変化は見られなかった。対照的に、スペインが1970年代と80年代に経験した金融危機では、失業率の上昇に伴って自殺件数も増えた。

専門家は、スウェーデンとスペインで明暗が分かれた最大の要因は、失業手当や医療サービスなど、社会保障にどれだけ予算が割かれたかにあると指摘する。

前述のキンダーマン氏は、経済危機によって長期にわたり精神的問題に悩まされる人が出てくるリスクはあるが、景気の見通しさえ明るくなれば、大抵の人は元気を取り戻すことも研究では示されていると指摘。「政治家へのメッセージは経済を立て直せということだ。そうすればわれわれは再始動できる」と語った。

(原文執筆:Kate Kelland、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)

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